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高校生活10日(その正体は……!?)

誤字報告、ありがとうございます!


※注意※

今回のお話はBLの語りがあります。ただし女子だけのトークですので過激な表現などはございません。

 今日の授業も終わり、美穂ちゃんも部活がないというので早めに帰宅。


 そして、ここに遊びにきたのだけど――――


「ヒソヒソヒッソ~ヒソヒソ……」

「ふんふん……分かりました、()()。『皆のもの、楽にしてよいぞ!』とのことです」


 とても大きい日本らしいお屋敷。


 立派な部屋の机には、何故かベレー帽を被った美穂ちゃんが茉央ちゃんに何かを耳打ちしている。『ヒソヒソ』としか聞こえない言葉を茉央ちゃんが代わりに『伝言』しているみたい。


 そんな二人の前に、私とクラスメイトの鹿ノ上さんが座布団に正座をして向き合っていた。


 何だろう……この雰囲気は…………


 鹿ノ上さんが隣で怖いくらいの、真剣な眼差しを美穂ちゃんに向けているけど……?


「今回、()()()()()()()()は新刊に向けてとても意欲的なのです!」


「ぶるうちいず先生!! それはとても、喜ばしいことにございます!! して、新刊の進行具合は如何程に!?」


「ヒソヒソ……ヒッソ!! ヒソヒソヒソヒソ!! ヒソヒソヒソヒソヒッソヒソヒソヒソヒソヒッソ~~~!!」

「『うむ、実に快調である!! 次のイベントを待たれよ!!』とのことだ!!」


「ははぁあああ~~~っ!!」


「…………………………」 


 美穂ちゃんの『ヒソヒソ』と、茉央ちゃんの『伝言の言葉』の長さが合わない気もするけど、何でこんな場面に出会しているのか長考してしまった。


 何かしら……こういうシーンを、日曜日の夜の大河ドラマで見たことあるわ…………。


「あの……美穂ちゃんのこと『ぶるうちいず先生』って……?」


「あぁ、弥生さんは知らなかったのね」

「美穂はね、売れっ子『同人作家』なんだよ!」

「え!! 同人作家って……!?」


 知ってる! 同人誌ってものを書く作家さんよね? かの有名な文豪とかが若い時に仲間と一緒に雑誌を出すあれね!!


「すごい! 美穂ちゃん作家先生なのね!!」


「ヒソヒソヒッソ……!」

「『それほどでも……あるわ!』です」


「ヒソヒソヒソヒソヒッソ、ヒソヒソヒソヒソ……」

「ふんふん……『本日は特別に明乃くんにも、我が作品に触れてもらおうと招待した』……ということだよ!」


「えっ! 読ませてくれるの?」


「ヒソヒソヒ~~ソヒソヒソヒソ、ヒソヒソヒソエクフラヒソヒソゆうともヒソヒッソ~~ヒソヒソヒソABヒソヒッソBA! ヒ~ソヒソ推しカプヒソヒソ! ヒソヒソヒソヒソヒッソ!! ヒソ!!」

「え~と……『貴女は読むに値する同志よ!』だって」


「そうなの?」


 一体、どんなお話を書くのかしら?


「でも、明乃ちゃん……BLって知ってる?」

「BL? 何、それ?」

「あー……やっぱり。何か明乃ちゃんは知らないんじゃないかと……」


「ヒソヒソヒッソ~ヒソヒソ……!!」

「あぁ、そうね。では、基礎練習からになりますか……」


「基礎練習?」


 からから……


 いつの間にか移動していた、鹿ノ上さんが一台のワゴンを押して現れる。


 ワゴンの上には、まるでドラマの台本のような一冊の『薄い本』があった。


「弥生さん……この本は先生が去年の夏、全年齢向けにして在庫の5000冊を二時間で完売させた伝説の一冊よ。先生の新刊を全て追い掛けるこの私でさえ、手に入れるのに徹夜をして会場入りしたほど。それを今日、貴女は目にすることができるの!!」


「そ、そんな凄い本を……!!」


「ヒソヒソヒソヒソヒッソヒソヒソ……」

「明乃ちゃん……『今日は乙女の嗜みの会。遠慮はいらない』……そうよ」


『乙女の嗜みの会』

 そうか。だから今日は浅井くんも田島くんもいないのね。


「ヒソ、ヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒッソヒソ……」

「『しかし、これを読む前に“教典”を読む必要がある!』」


「“教典”?」

「これよ、弥生さん」


 私の目の前にずらっと並んだ漫画の本。


「これは『トリプルトラベリング』……略して『トリトラ』と呼ばれる我らが教典(バイブル)……知っていらしたかしら?」

「いいえ。読んだことは……」

「やはり……弥生さんはあまり読まなそうだものね」



 漫画自体なんて何年ぶりかしら。

 確か、娘が小学生の頃に読んでいた少女マンガを無理やり読まされた時以来ね……しかも、これは少年マンガじゃないの?


「さぁ、読んでみて。分からないところがあったら、私が全て説明するわ……」

「鹿ノ上さん……」


 私はその漫画の第一巻を恐る恐る手に取った――――。




 ――――――二時間後。




「…………ぷはぁ…………」

「全て読んだようね……この冊数からこの時間なら良いペースだわ……」


 思いの外、面白くて読んでしまった。


 いつもの私だったら、小説も雑誌も読む際に老眼鏡が必要だし、目の霞みやら疲れやらで連続で読み込むなんて難しい。それに書いてある内容もちんぷんかんぷんになるはずだ。


 今回は疲れず、内容もすんなり入ってきた。


「少年マンガを読んだのは初めてだったのに……」

「明乃ちゃん、美穂はね、この漫画を元にした同人誌を描いているのよ!」

「そうなの? わぁ、楽しみ!」


「どうぞ……弥生さんもさぁ……扉を開けましょう!!」


 美穂ちゃん……もとい、ぶるうちいず先生が手掛けた本を受け取る。


 パラリ……


「こ、これはっ……!?」





 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………





「はぁ……これも良かったです。みんな風に言うと『(たっと)い』と言うのね……」


 美穂ちゃんが描いたという漫画同人誌を全部読み終えた時、何故かみんなは驚愕しながら私を見ていた。

 美穂ちゃんもベレー帽を取って、茉央ちゃんたちと並んで座っている。


「明乃ちゃん……凄いわ……まさか、私の同人誌だけでなく、他のコレクションをも全て読みきるなんて…………」

「てっきり、明乃ちゃんはこの手のものを読んだことないものだと…………」

「弥生さん、全然平気みたいね…………」


 平気? 何でそう思うのかしら?


「え……だってこれ『耽美』ものでしょう? ずっと前に私のクラスの子も、こんな漫画や小説を持っていたわよ?」


「「「へ…………?」」」


 しぃ…………ん。


「た……『耽美』?」

「そうよ。これって『男の子同士の友情を女の子目線で恋愛に昇華させるくらい美しい話』ってことよね?」


 確か、クラスの子もそんな感じで熱っぽく語っていたわ。


「二人の純粋な友情以上の思い合う仕草が堪らないわ。思春期によくある錯覚だと言う人もいるけれど、甘酸っぱくも切なくどこにもやりきれない気持ちを“友情”以外で表現するのならば、やはりこれは“恋愛”と言ってもいいんじゃないかしら。さらに幼馴染みという親しい関係と、運動部の仲間という厳しくも密な関係が相まって…………」


「「「……………………」」」


 ………………あれ?

 私、変なこと言ったかしら?


「それがBLだよぉ」

「え、これが?」

「明乃ちゃん……凄いわ!! 貴女こそ『貴腐人(きふじん)』よ!!」

「同志よ! 素晴らしい同志を得たわ!!」


 何だか分からないけど、今の話についていけたみたいね。


「きっと明乃ちゃんなら18禁も……」

「だ、ダメよ、茉央ちゃん! 私たちでもそこは禁忌の領域……!!」

「そうよ。『ぶるうちいず先生』は全ての年齢に対応するからこそ、多くの支持を得ているのだから!! これからも、その意志は貫くのよ!!」


「「「おおおおお~~~っ!!」」」


 勝ち名乗りのような勇ましい歓声を上げて、三人は固い握手をする。





 その後、みんなは時間が許すまでBLについて語り合っていた。


『BLが嫌いな女子は存在しない!』


 という結論になり解散。





 帰り道。

 私は今日のことを思い出しては、笑いを堪えるのに必死だった。


 今の子たちも趣味に熱くなることもあるみたい。

 いつも、ほんわかしている美穂ちゃんがとても活発だったり、大人しそうな鹿ノ上さんがあんなにハキハキと語っていたり。


 いつも押しぎみの茉央ちゃんが、二人の勢いにちょっと引いてしまう場面もなかなか珍しい。


『腐女子』って楽しいわね。何でもBLにしちゃえば、世の中平和に見えるのではないのかしら? 友情でも恋愛でも仲良しなのは良いことよね。


 う~ん……でも、明日から浅井くんたちを見る目が変わりそう。

 それだけが悩みのタネになりそうだわ……ふふふ。


 その時、ふと誠さんの顔が浮かんだ。


 そういえば……誠さんも、よく同級生の友達と絡んでふざけたり…………ハッ!


「違うもん。ま、誠さんは……BLじゃないもの……!!」


 思わず独り言が出て、私は周りに人がいないことを確認してしまった。危ない。あんまり表には出しちゃダメよって、茉央ちゃんたちに言われていたんだっけ。


…………腐女子って、何でもBLに変換しちゃうのね……うふふふ……あははは!


 独り笑っているのは、あやしいという自覚はある。


 でもとにかく面白くて、きっと今の私は『箸が転げても笑う年頃』なのだと思った。





部活終わりの帰り道。


田島「悪いな智哉、帰りまで待っててくれて……」

浅井「いいよ。今日はまーちゃんたちは女の子同士で用があるって言ってたし…………(弥生さんに、ぶるうちいず先生を会わせるって言ってたな…………)」(遠い目)

田島「どうした?もしかして、待ち疲れたか?」

浅井「いや、大丈夫…………」


『『『『エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!』』』』


浅井「ほぅわぁっ!?幻聴っ!?」

田島「どうした!?智哉!?」

浅井「いや……その、何か寒気が…………」

田島「なんだ?熱か?どれどれ……」


ペタ……(額をくっつける)


『『『『エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!! 尊いっ!!!!』』』』


田島「熱は……ないな」

浅井「(ヤバ~い、幻聴というかテレパシーが聞こえるぅ……)…………すまんな、勇斗。本当に大丈夫だから……」

田島「顔色悪くなってきたぞ?おんぶしてやろうか?」


『『『『エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!! そこはお姫様抱っこでお願いいたします!!!!』』』』


浅井「(マズ~イ、幻聴がこちらに要求してきたぞぉ?)……平気だから気にしなくていいって!」

田島「そうか。そういえば、二人きりってのも久し振りだな?」


『『『『エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!! ロケーションを最高に! ひと気のないところへ移動だ!!!!』』』』


浅井「(ム~リ~、お願いだからこのまま帰らせて!!)……いつもはまーちゃんたちもいるから、そっちの方が慣れちゃったよ」

田島「あぁ、俺も美穂がいるのが当たり前になったな!」


『『『『エクストリームヘヴンフラー…………くそっ!!てめぇらリア充かよ!!ペッっ!!!!ホモになればいいのに!!』』』』(野太い声)


浅井「幻聴、腐女子じゃなかったの!!!?」

田島「え!?智哉、なんだ急に!?」

浅井「……てっきり、まーちゃんたちが結束してテレパシーを送ってきたのかと…………」

田島「???」



同時刻。

篠崎邸では、明乃の(腐女子)仲間入りが確定していた。



※浅井くん、何かに目覚める?






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― 新着の感想 ―
[一言] 明乃ちゃん、すんなり馴染みましたねー!(笑) 耽美ですか…… なるほど……(笑)
[一言] そ、そういえば昔の同人作家さんはそんな感じ!! 芋の山先生集団とかがまさに!! 明乃ちゃんはそんなジェネレーション!!(ちょっと年代違う?
[良い点] 明乃ちゃんに『BL』を勧めたら『耽美』と解釈されるとは……!確かに根っこは同じかもしれないですね。 [一言] 後書きのテレパシーに笑いました。(野太い声)の正体はいったい……?!
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