表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/28

高校生活9日(感謝の日)

お読みいただき、ありがとうございます!

今回、ちょっと短め。

 私の残りの時間はあと四日。

 もう、余計なことは考えない。


「うん、平常心、平常心……」


 ホームルームも終わり授業が始まる。

 一週間見慣れた朝。

 足下に転がる『未来の浅井くん(死亡済み)』も、絵井神さまのおかげで消えていく。


 今日も平和だな……


 茉央ちゃん、美穂ちゃんと他愛ない会話をしながらも、私の心は何故か波立つような気持ちが収まらなかった。





 三、四時限目は家庭科。

 一人一台、ミシンをあてがわれて被服の授業。


 みんなは今までやっている課題があるが、私は今日までなので自由にしていていいと言われた。


 しかし、私は動いていた。


 ガガガガガガガガガガガガッ!!


「「おぉ~~~!!」」


 一部から歓声があがる。


「いや~、すごいね。超人的なスピードだよ!」

「明乃ちゃん、どこでそんなミシンさばきを……!!」

「すっごいよ、弥生さん。まるでプロみたい!」


 私が三十分でワイシャツを縫い上げたところ、みんなからの賛辞を受けてしまった。


「いや、実はちょっとアルバイトをしたことがあって……服を作るのは慣れてるの……」


 それに、先週の授業で型紙は作っていたし、自宅でそれに合わせて布も用意していたのよ。縫うだけならすぐだわ。


 ガガガガ…………


 ミシンの音も懐かしいなぁ。昔はもっとハンドルも重くて、音もうるさかったけど最近のミシンは使い易くていい。


 昔は誠さんの仕事の白衣や、子供たちの服はほとんど作っていたもの……。


 仕上げにボタンを付けて完成!


 白地に水色のストライプのワイシャツ。


「わぁ、キレイにできたね。誠さんにあげるの?」


 美穂ちゃんがいたずらっぽく耳元で囁いてくる。


「……誠さんにあげたいところだけど、今日は別の人にプレゼントなの」


 誠さんは天国だから、これは『お供え物』よ。


「――――と、いうわけで、絵井くん! これはいつものお礼です! みんなの平和をありがとうございます」

「え!? 弥生さん、どういうこと? え? え? なんで拝んでくるの!?」


 いいのよ、分からなくても。

 ありがとうございます……絵井神様。


「おい! お前、絵井に何を……」

「微居くんにもあるよ。はい、()()()()()()()()()だよ?」


 荒ぶる微居くんにはこちら、牛革とワイシャツの余り布で作った『石用ケース』。銃とかをしまって腰に着けるホルスターみたいなものかしら。


「微居くん、持久走の時にお気に入りの石を腰に付けていたでしょ? これなら走っている時に邪魔にならないよ?」

「……お、おう…………ありがとう……」


 あら? 微居くんがお礼を……ふふ、なんか可愛い。


「明乃ちゃん、やるぅ。……でも、何のお礼?」

「うん、浅井くんは絵井くんに護られているから大事にしてあげてね。あと、微居くんは絵井くんと一緒にいるのが一番いいんだよ!」

「解るわ!! 絵井……微居……エクっ……エクフっ!!」


 はてなマークを飛ばす茉央ちゃんに、何故か震えて喜んでいる美穂ちゃん。



「あとね、茉央ちゃんと美穂ちゃんにも作ったよ」

「え? なになに?」


 実はワイシャツ分の布を裁断したら、布がけっこう余ってしまったので、みんなにも小物を作ってきたのだ。


 茉央ちゃんと美穂ちゃんにはシュシュ。


「わぁ、可愛い♡」

「おそろいだねぇ!」


「え~と、浅井くんにはハンカチ、田島くんにはリストバンド風ハンカチ、鹿ノ上さんにはリボン……」


「ありがとう……って、弥生さん! どんだけ作ってきたの!?」


「うん、お礼の数だけ!」


 結局、クラス全員と梅先生の分を作ってしまった。


 だって、このクラスのみんながとても優しくて楽しかったから。




 配り終わった時にはお昼休みになっていた。


 今日もみんなでお弁当を囲む。

 他愛もない話で盛り上がり、笑いながら過ごす時間。


 ……楽しいなぁ。でも、お別れなんだから、ちゃんと気持ちを切り替えなきゃダメなの。


 でも、そんな考えとは真逆の気持ちが襲ってくる。


 あと四日。

 大丈夫、乗り越えられるから。大丈夫。


 気持ちが温かいのに、寂しくなって苦しい。

 その晩はベッドに入ったあともなかなか眠れなかった。






 余談。


 この日、他のクラスの人がうちのクラスを見て、ざわざわとしていたそうです。


 それを気にしてか、次の日に絵井くんが教室の隅で丸くなってました。


 どうやら、絵井くんが早速着てくれたワイシャツと、同じ柄の小物をみんなが持っていたことから『新しい宗教』みたいになっていたそう。


 う~ん……何がいけなかったのかしら?

 男の子って目立ってもいいと思うわよ?


『絵井・ウィズ・ワンクラス』という二つ名も出来ていたし……カッコいいと思うけどなぁ。


 その証拠に微居くんが、絵井くんにぴったりとくっついている。やっぱり仲良しだよね。


「主従萌え!? エクッ……エクフっ!!」

「美穂、落ち着いて。微居くんがめちゃくちゃ警戒してこっち見てるから……絵井くんが目立って盗られないか殺気だってるから!」

「『NTR』の危惧!? エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!」

「美穂! こんなところでエクフラははしたないよ!」

「だって!! 茉央ちゃんが煽るからぁぁぁぁっ!!!!」


「……『NTR』って、何?」



 …………特に『オチ』は無しなのよね。






思わず、弥生さんから受け取ってしまった……。


教室で石用ホルスターを眺める。


微居「どれ……ちょっと付けてみるか…………ん!?これは!?」


意外にもベルトは体にフィットし、取り付けた石の重さも感じないように体が軽やかだ。


微居「いける……これなら、どんな石でもすぐに投げられるぞ!!」


天恵を受けた気がした。



別の日。

絵井がトイレで席を外している時。


茉央「ともくーん♡はい、ミートボール。あ~~~ん♡」

浅井「……まーちゃん(照)」


微居「チッ! 視界の有毒物質どもが……!!」


素早く腰にある石を取ろうと手を下げた。


ふわっ…………


微居「っ…………」


革で造られたホルスターの一部、カバー用に張られている布が手に触れる。


それは柔らかで滑らかに手に吸い付いてくるのだ。


この布…………絵井のワイシャツとおそろいなんだよな……。


微居「……仕方ないな。弥生さんと絵井に免じて、しばらくは目を瞑っておくか……」


絵井がトイレから戻る間、静かに机に伏せていた。



※またしても絵井神様が、世界(浅井くんと微居くんの)を間接的に救ったということ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] シュシュかぁ。 いいねぇこういうの( ´∀` ) どういう柄なんだろ。 絵で描いてみたいなぁ。 そして絵井くん微居くん……よかったねぇ( ´∀` )
[良い点] あ~、良いねえ、ほのぼのしてて。 微居くんもしばらく、荒ぶる心をなだめて暮らせるでしょう。 めでたし、めでたし。 (別に最終回ではナイ) ぶるうちいず先生も、すごく楽しそうですね♪
[一言] 今日もぶるうちいず先生が楽しそうで何よりですwwww でもこれはしょうがないwww これはぶるうちいず先生ならエクフラ不可避wwww そして後書きが何だかエモいwwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ