高校生活9日(感謝の日)
お読みいただき、ありがとうございます!
今回、ちょっと短め。
私の残りの時間はあと四日。
もう、余計なことは考えない。
「うん、平常心、平常心……」
ホームルームも終わり授業が始まる。
一週間見慣れた朝。
足下に転がる『未来の浅井くん(死亡済み)』も、絵井神さまのおかげで消えていく。
今日も平和だな……
茉央ちゃん、美穂ちゃんと他愛ない会話をしながらも、私の心は何故か波立つような気持ちが収まらなかった。
三、四時限目は家庭科。
一人一台、ミシンをあてがわれて被服の授業。
みんなは今までやっている課題があるが、私は今日までなので自由にしていていいと言われた。
しかし、私は動いていた。
ガガガガガガガガガガガガッ!!
「「おぉ~~~!!」」
一部から歓声があがる。
「いや~、すごいね。超人的なスピードだよ!」
「明乃ちゃん、どこでそんなミシンさばきを……!!」
「すっごいよ、弥生さん。まるでプロみたい!」
私が三十分でワイシャツを縫い上げたところ、みんなからの賛辞を受けてしまった。
「いや、実はちょっとアルバイトをしたことがあって……服を作るのは慣れてるの……」
それに、先週の授業で型紙は作っていたし、自宅でそれに合わせて布も用意していたのよ。縫うだけならすぐだわ。
ガガガガ…………
ミシンの音も懐かしいなぁ。昔はもっとハンドルも重くて、音もうるさかったけど最近のミシンは使い易くていい。
昔は誠さんの仕事の白衣や、子供たちの服はほとんど作っていたもの……。
仕上げにボタンを付けて完成!
白地に水色のストライプのワイシャツ。
「わぁ、キレイにできたね。誠さんにあげるの?」
美穂ちゃんがいたずらっぽく耳元で囁いてくる。
「……誠さんにあげたいところだけど、今日は別の人にプレゼントなの」
誠さんは天国だから、これは『お供え物』よ。
「――――と、いうわけで、絵井くん! これはいつものお礼です! みんなの平和をありがとうございます」
「え!? 弥生さん、どういうこと? え? え? なんで拝んでくるの!?」
いいのよ、分からなくても。
ありがとうございます……絵井神様。
「おい! お前、絵井に何を……」
「微居くんにもあるよ。はい、絵井くんとおそろいだよ?」
荒ぶる微居くんにはこちら、牛革とワイシャツの余り布で作った『石用ケース』。銃とかをしまって腰に着けるホルスターみたいなものかしら。
「微居くん、持久走の時にお気に入りの石を腰に付けていたでしょ? これなら走っている時に邪魔にならないよ?」
「……お、おう…………ありがとう……」
あら? 微居くんがお礼を……ふふ、なんか可愛い。
「明乃ちゃん、やるぅ。……でも、何のお礼?」
「うん、浅井くんは絵井くんに護られているから大事にしてあげてね。あと、微居くんは絵井くんと一緒にいるのが一番いいんだよ!」
「解るわ!! 絵井……微居……エクっ……エクフっ!!」
はてなマークを飛ばす茉央ちゃんに、何故か震えて喜んでいる美穂ちゃん。
「あとね、茉央ちゃんと美穂ちゃんにも作ったよ」
「え? なになに?」
実はワイシャツ分の布を裁断したら、布がけっこう余ってしまったので、みんなにも小物を作ってきたのだ。
茉央ちゃんと美穂ちゃんにはシュシュ。
「わぁ、可愛い♡」
「おそろいだねぇ!」
「え~と、浅井くんにはハンカチ、田島くんにはリストバンド風ハンカチ、鹿ノ上さんにはリボン……」
「ありがとう……って、弥生さん! どんだけ作ってきたの!?」
「うん、お礼の数だけ!」
結局、クラス全員と梅先生の分を作ってしまった。
だって、このクラスのみんながとても優しくて楽しかったから。
配り終わった時にはお昼休みになっていた。
今日もみんなでお弁当を囲む。
他愛もない話で盛り上がり、笑いながら過ごす時間。
……楽しいなぁ。でも、お別れなんだから、ちゃんと気持ちを切り替えなきゃダメなの。
でも、そんな考えとは真逆の気持ちが襲ってくる。
あと四日。
大丈夫、乗り越えられるから。大丈夫。
気持ちが温かいのに、寂しくなって苦しい。
その晩はベッドに入ったあともなかなか眠れなかった。
余談。
この日、他のクラスの人がうちのクラスを見て、ざわざわとしていたそうです。
それを気にしてか、次の日に絵井くんが教室の隅で丸くなってました。
どうやら、絵井くんが早速着てくれたワイシャツと、同じ柄の小物をみんなが持っていたことから『新しい宗教』みたいになっていたそう。
う~ん……何がいけなかったのかしら?
男の子って目立ってもいいと思うわよ?
『絵井・ウィズ・ワンクラス』という二つ名も出来ていたし……カッコいいと思うけどなぁ。
その証拠に微居くんが、絵井くんにぴったりとくっついている。やっぱり仲良しだよね。
「主従萌え!? エクッ……エクフっ!!」
「美穂、落ち着いて。微居くんがめちゃくちゃ警戒してこっち見てるから……絵井くんが目立って盗られないか殺気だってるから!」
「『NTR』の危惧!? エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!」
「美穂! こんなところでエクフラははしたないよ!」
「だって!! 茉央ちゃんが煽るからぁぁぁぁっ!!!!」
「……『NTR』って、何?」
…………特に『オチ』は無しなのよね。
思わず、弥生さんから受け取ってしまった……。
教室で石用ホルスターを眺める。
微居「どれ……ちょっと付けてみるか…………ん!?これは!?」
意外にもベルトは体にフィットし、取り付けた石の重さも感じないように体が軽やかだ。
微居「いける……これなら、どんな石でもすぐに投げられるぞ!!」
天恵を受けた気がした。
別の日。
絵井がトイレで席を外している時。
茉央「ともくーん♡はい、ミートボール。あ~~~ん♡」
浅井「……まーちゃん(照)」
微居「チッ! 視界の有毒物質どもが……!!」
素早く腰にある石を取ろうと手を下げた。
ふわっ…………
微居「っ…………」
革で造られたホルスターの一部、カバー用に張られている布が手に触れる。
それは柔らかで滑らかに手に吸い付いてくるのだ。
この布…………絵井のワイシャツとおそろいなんだよな……。
微居「……仕方ないな。弥生さんと絵井に免じて、しばらくは目を瞑っておくか……」
絵井がトイレから戻る間、静かに机に伏せていた。
※またしても絵井神様が、世界(浅井くんと微居くんの)を間接的に救ったということ。




