高校生活6日(楽しい肝試し?)④
誤字報告感謝!
たかだか肝試しだったはずなのに、意外に長くなってる……。
さぁ、ここをどうやって切り抜けましょうか?
みんなで輪になって座り、あれやこれやと言い合ってみる。
私は今までやってきたことを反芻してみた。
どうやって、山頂の祠へたどり着けばいいのか? ……と。
一人……ダメだったわ。(必ず男子二人が死んでいる)
二人組……も、ダメだった。(特に男女にしたら悲惨なことになってしまった)
三人……四人……人数を増やしても、組み合わせを変えても駄目。(やっぱり男子二人が死んでしまう)
「うぅ……何で僕と勇斗だけ?」
「きっと、俺たち嫌われてるんだなぁ……」
山の神の好みなので何とも言えないが、カップルや集団、特定の性別を嫌う神様は案外いるものだ。
でも、この場ではどうにもならないことをあげたら、ここはどうしようもない。
あと、私たちができるのは時間。
夜明けを待って山を下りるしかないかもしれない。
「それがダメなら……?」
私は必死に考える。
あぁ、久しぶりに頭が痛くなりそう!
「明乃くん、考えは煮詰まっているか?」
「えぇ、どんなに考えても、まったく何も……」
「フフ……違うぞ、明乃くん」
「え?」
「『考えが煮詰まる』というのは、問題が煮えて良い状態になることだ。日本人が間違える諺のひとつと言っていい」
「あ……」
そういえば……本当の意味は『良い考えがまとまる』ということだったわね。
「では、梅先生は『煮詰まり』ましたか?」
「直に分かるさ」
先生はさっきどこかに連絡していた。
おそらく、名案が浮かんでいるのだろう。
「峯岸先生……まさか先生も、明乃ちゃんみたいな能力を?」
「変公なら薬で何かできそう……」
「フッ……正解だ、智哉」
「「「へ?」」」
「薬で解決してしまえばいい!」
「「「えぇ―――っ!?」」」
薬? でも、そんな薬がどこに……?
その時、
バタバタバタバタッ!!
頭上で激しいプロペラの音がした。私たちの真上でヘリコプターがホバーリングをしている。
「えっ!? 何!?」
「ふん……やっと来たか」
「せーんーぱーいーっ!! とうっ!! とうっ……とぅ……(エコー付)」
誰かが飛び降りてくる。
どさぁあああっ!!
「俺様、参上っ!! 元気か、智哉!!」
「兄貴!?」
ビシィッと着地とポーズを決めたのは、ジャージ姿の浅井くんのお兄さんだった。
背中に大きなリュックを背負っている。
「遅いぞ、さすがはダルダルマイスターだな? 十五分の遅刻だ!」
「勘弁してくださいよぉ~。普津沢さんから受け取って、すぐに来たんですから~!! それに、ロケットもヘリもすぐに用意するの大変なんですよ~!?」
「まぁ、いい。早くその『ブツ』を確認させてもらおうか」
「はい! まずはこれ!」
リュックから、小さなアタッシュケースのような平べったい箱が出てきた。蓋が開かれると、中には試験管に入った液体が並んでいる。
「でも……これ、一体何に……」
「我々が助かる鍵だ。…………という訳で、これを智哉と田島にドーン!」
「なっ!?」
「えっ?」
梅先生は試験管を取り出すと、まるでクナイを投げる忍のように、それを浅井くんと田島くんへ飛ばした。
二つ同時に口に入った!?
凄い! 手品みたい!!
「「んがぐぐ」」
中の液体が二人の口の中へ消える。
「ついでにお前にもドーン!!」
「んがぐぐ」
浅井くんのお兄さんも飲まされた。
「ぐっ……う、うわぁぁ……!!」
「がはぁっ……!! 何か、前にもっ……!!」
「うぉおお……な、何で俺まで……!?」
三人が身を屈めて唸り始めたけど、それはすぐに治まり立ち上がっ………………あら? 何か……違って……?
「ともちゃんだぁーっ!!」
「ゆ、ゆうちゃん……!!」
「えぇえええええっ!?」
なんということでしょう。
浅井くんが素朴で落ち着く男の子から、ぷにぷにと可愛らしい女の子に!?
田島くんが筋肉の素敵なスポーツマンから、スレンダーでモデルのような……やっぱり、女の子に!?
浅井くんのお兄さんがダルダルのジャージ男子から、休日を謳歌していた干物OL風の美女に!?
匠が介入していないのに、劇的な変化を遂げたのよ!!
ちなみに私は、某リフォーム番組が好きだった。今は山奥の一軒家の番組が熱いと思っているわ。
「フゥゥゥゥゥッ!! ともちゃん!! かっわいいよぉぉぉっ!! こっち、こっち目線ちょうだい! いいねいいね、ちょっと浴衣をはだけさせようか?」
「まーちゃん、こんな時に……写真はやめて……」
「ゆうちゃん……やっぱり素敵……女の子でもカッコいい……」
「お、おう。美穂が喜んでくれるなら……まぁ……」
「ヒドイですよ、先輩!! 何で俺も!?」
「何で三人が女の子に!?」
「フッ! 秘密はこれだ!! 【クツガエール改(速効性)】だ!!」
【クツガエール改】
飲むとたちまち性別が変わる薬。効果は一時間。
「今までの経緯から、この結論にたどり着いた…………この山の神が男嫌いならば、全員“女子”になれば良いのだ!!」
凄いわ、梅先生! 不可能を可能に!!
科学はここまで進化しているというのに、ノーベル賞の調査員は何をやっているのかしら!?
「よし! 全員女になったところで、これを装備してもらおう!! この山の神に目通りするための神聖な勝負服だ!!」
「「「こ、これは!?」」」
やはり、梅先生には深い考えがあるみたいね。
私はみんなと一緒に、渡された『勝負服』に着替えた。
「明乃くん、我々は間違ってはいないな?」
「はい、先生! これなら鳥居をくぐって、上の祠へ行けそうです!!」
今、黒い靄は視えない。
死んでいる『未来の自分たち』もいない。
「いける! みんな、行きましょう!!」
「勝利は私たちにあるね!! 前進あるのみ!!」
「うん! 頑張ろう!」
“神様”に許しをもらって帰るのよ!
私たちは順調に石段を上がる。
最後の石段を踏み、目の前の開けた場所へ着く。
みんながいるから怖くない。
「「「……神様、ご挨拶にまいりました!!」」」
茉央ちゃんと美穂ちゃん、そして私で祠の前へ進み出た。
一週間前。温泉町。
一郎「ヒャッハー!! 家族旅行だぜー!!」
二郎「ヒャハってる温泉町だぜ!!」
公彦「あちこちの温泉ヒャいって、ヒャハヒャハいうぜー!!」
一郎「いいか、ふたりとも! 今日と明日は、パパとママに『ヒャッハーな結婚記念日温泉旅行』をヒャハってもらうために、俺たちは三人で行動だ!」
二郎・公彦「ヒャッハー!! 兄ちゃん最高ぉぉぉっ!!」
※百派山家、結婚二十年目の家族旅行。子供たちが気を遣って別行動する予定。




