(84) 安全地帯にて5
読者の皆様、お待たせ致しました。
今回は火球の謎についてのお話です。
それでは、どうぞ!
「火球って文字通り、火の玉って事だよね。和馬君。それって、もしかして核爆弾を使用したって事か?」
「いえ。多分、米軍は戦術核を使用したんじゃなくてサーモバリック爆弾を投下したんだと思いますよ」
「サーモバリック爆弾?何か聞き慣れない名前だな。和馬君、それって一体何だい?」
「航空機から投下する燃料気化爆弾の事ですよ。酸化エチレンや酸化プロピレンといった可燃性ガスを噴射しながら、ゆっくりとパラシュート降下、そのまま起爆して一気に爆発させる。いってみれば、空中で大規模なガス爆発を起こさせる大型爆弾といった所ですかね」
「へえ~、そりゃあ凄いな。つまりは感染者をまとめて始末する為には、もってこいの爆弾という訳だな」
「ええ。あれは高熱を伴った爆風で半径数百mに渡って熱傷、圧壊、酸欠といった致命的な人的被害をもたらす威力を持っていますからね」
「成る程ねえ。しかし、それって事は感染者集団に対して絶大な効果はあるんだろうが、同時に関係の無い非感染者に対してもかなりの被害が出ちまうんじゃないのかい?」
「ええ。心配なのは、そこなんですよね。まあ、米軍としても感染者を1ヶ所に集めるとか、場所を選ぶとかして対策を考えてはあるんでしょうが、それが上手くいかない場合や逆に全くそんな事を考慮しない場合だってありますしね。まあ、とにもかくにも千葉市に落とされなかったのだけは助かりました」
「そうだよな。そんなもん落とされたんじゃ、もう千葉市に行く意味自体無くなっちまうもんな」
「ええ。後、そうなると残る心配は、感染者に対して親が無事に生き延びてくれているのかどうかなんですけど……」
「和馬君、それなんだけどなあ。儂がニュースやら無線仲間から得た情報だと、どこも避難所はかなりまずい状態だったらしいぞ。とにかく次から次へと機能不全に追い込まれていたらしい」
「それって、やっぱり感染者達による襲撃があったんですか?」
「ああ、多分そうだろうね。ほら、避難所といえば大抵、学校や公共施設を利用するだろ?でも、ああいった所は高いフェンスがある訳じゃ無いし、今更バリケードを組むとしても強固な物を組める訳じゃないからな」
「まあ確かにバリケードと言っても、せいぜいネットフェンスに有刺鉄線を組み付ける程度でしょうからねえ。そういった障害物を組むとしても手薄な箇所が出て来るだろうし、そこを奴等に集団で押し込まれてしまったらおしまいでしょう」
「ああ、そうだな。とにかく数に勝る物は無いからな。何しろ、奴等は何故かいつも群れを成して行動している事が多い。集団によって力で押し破られてしまったら、そこでアウトだ」
「そんな状況から考えると今、無事に生き残っている避難所なんてあるんでしょうか?」
「う~ん、どうかな?まあ仮に人里離れた場所に位置している避難所なら、まだ機能している可能性もあるが、逆に人口の多い区域だとしたら、まず絶望的だろうな」
「はあ~、うちの親は避難所には行ってないとは思うけど……。はあ~、そう願いたい」
今、英二から悲惨な状況に陥っている避難施設の現状を聞いた和馬は、どうしても不安な表情を隠せない。
『何しろ避難所は、例え感染者集団の襲撃から免れ生き延びたとしても、今度は生活物資の枯渇といった問題が出て来る訳だからなあ』
「う~ん、そうだな。外からの補給が途絶えてしまえば、いずれはそうなるわな。おっ!そうだ。今、物資と聞いて思い出したんだが、実はもう1つ気掛かりな情報があるんだ」
「気掛かりな情報?」
「ああ」
小さく頷きながら湯飲みを取り、茶を一口すすった英二は、再びちゃぶ台へと静かに置くと無線仲間から得た更なる情報について語り始めた……。
最後迄、読んで頂きまして、ありがとうございます。
次回は、避難所でのヤバい噂についてのお話です。
では、次回をお楽しみに!




