(65) 燃料調達6
読者の皆様、本年もよろしくお願いいたします。
今回は、和馬の大胆な案で問題を解決します。
それでは、第65話「燃料調達6」の始まりです。
「和馬君、何か名案でも思いついたのかい?」
もしかしたら、現状に対する何か打開策でも思いついたのではないかと期待する英二に対し、和馬は収納ケースの蓋を閉めながらこう答えた。
「いやあ、別に大した案では無いんですけどね。実は、このままタンクローリー自体を持ち帰ってしまえば良いんじゃないかと思って」
「えっ?和馬君、持ち帰るって、このまま乗って帰るって事かい?」
「ええ。ただし、こいつのエンジンが掛かってくれるのかどうかについては、解りませんけどね」
「でも仮にエンジンが掛かったとしても、このタンクローリーの前後には放置車両があるぞ。一体、これをどうやって退かすつもりだね?生憎こちらは、牽引用ワイヤーを持って来てないよ」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。車の持ち主には悪いんだけど、このタンクローリーを使って押し退けて、強制的に道を開けてもらいますから」
行く手を邪魔する放置車両をタンクローリー自体を使って強制撤去しようという和馬の案に対し、雄太がこう呟く。
「なるほど。荒っぽいが、そういう手もあるな」
「よし。他には、これといった良い案もなさそうだし、一丁ここから先は和馬君の案でやってみるとするか」
「了解。さてと、それじゃまずは、どこから手を付けるとするかな」
ここで、和馬達は改めてタンクローリー周辺の道路状況についての再確認を行い始める。
現在、走行車線側の位置に停車しているタンクローリーの前後は、渋滞の為に車両が詰まっている状態ではあるが、追い越し車線側の状況については放置車両が疎らにある程度である。
更にこの道路の特徴としては、中央分離帯としてありがちなグリーンベルトが無く、反対車線との間には一定間隔で短いラバーポールが立ててあるだけなので、いざとなれば押し倒すだけで簡単に反対車線側へと出る事が出来そうだ。
これならば、前進する際においてどうしても放置車両が避けられない場合についても反対車線側へと出て逆走さえすれば、上手く問題を切り抜ける事が出来そうである。
「よし。それじゃあ、やってみよう。では、雄太君は、タンクローリーのエンジンを掛けてみてくれ。儂と和馬君は、タンクローリーの前後を塞いでいる車両のサイドブレーキを解除していこう。そうすれば車両を簡単に押し退けて、タンクローリーが抜け出せるだろうからね」
「了解しました」
「やってみましょう」
英二の指示により、各自の簡単な役割分担が決まった所で、すぐに3人はそれぞれがやるべき行動を開始する。
まず、タンクローリーの運転を担当する雄太はドアを開けて運転席へと乗り込み、和馬と英二はタンクローリーの前後に停車している車両のドアを開け、シフトレバーをニュートラルへと切り替えつつ、同時にサイドブレーキも解除してゆく。
「和馬君。これだったら作業もはかどるよ」
「ええ。この状況なら、作業もすぐに終わりそうですね」
どうやら、感染者による襲撃当時、車の持ち主達は形振り構わず慌てて、この場を逃げ出したのか、どの車両にもドアロックが全く掛かってはおらず、殊の外スムーズに作業は進んでゆく。
こうして、あっという間にタンクローリーの前後10台程の車両のサイドブレーキを解除し終え、これより放置車両を押し退ける為の準備はこれで全て整った。
「よし。後は雄太君にエンジンを掛けてもらうだけだな」
「ええ、そうですね。雄太さん。こっちの準備は完了ですよ」
「了解した」
額の汗を手で拭った和馬は、雄太に向かってOKを示すハンドサインを出し、準備が完了した事を確認した雄太は、ハンドル下へと手を伸ばし指先でエンジンキーを摘まんだ。
「上手い事、キーが刺さったままになっているなんて、こいつはラッキーだよな。さあて、後はこいつのエンジンが上手く掛かってくれるかどうかか。頼むよ。掛かってくれよ」
雄太がエンジンキーをACCの方向へと回し、いよいよエンジンを始動させ様としていた時、タンクローリー横に待機していた和馬は、車列後方より何かが此方へと向かって接近して来る気配に気付いた。
『ん?何だ?』
何やら背筋に寒気を覚え、自分達に危機的状況が迫って来ていると直感的に感じた和馬は、タンクローリー後方に100台程ずらりと並ぶ放置車両の列へと向かって急ぎ眼を凝らして確認をする。
『ああっ!まずいぞ!こいつは……』
ゆっくりと無意識に後退りを始める和馬の視線の先には、まだ少し距離はあるものの、放置車両の列に沿って確実にこちら側へと向かって接近しつつある50〜60人に及ぶ集団の姿が見えていた……。
最後まで読んで頂きましてありがとうこざいます。
次回は、久々に招かれざるアイツらが登場します。
お楽しみに!




