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(48) 接近戦1

読者の皆様、お待たせいたしました。

今回は、覚悟を決めた和馬と雄太が感染者に向けて銃撃を開始します。

彼らは、迫り来る危機を乗り切る事が出来るのか?

それとも……。


それでは、第48話のスタートです。

和馬がトリガーを引いた事で、カービンライフルの薬室内に装填された5.56mmライフル弾の雷管を撃針が強打、更に起爆する事によってガンパウダー(無煙火薬)が燃焼し、発生した燃焼ガス圧によって一気に押し出されたフルメタルジャケット弾丸は、ライフリングマークを刻みつつ銃口から高速で撃ち出されてゆく。

3点バースト射撃開始による激しい射撃音と共に強い反動がストックを通じて肩へと伝わり、エジェクションポートからは金色に鈍く光る空薬莢が数度に渡り勢い良く排莢される。

空中へと吐き出された真鍮製の空薬莢は、落下後、ヘリコプターの胴体鋼板の上を1度小さく弾んでから転がり、発射熱を持った銃口からはガンパウダーが燃焼した事を示すガンスモークがうっすらとたなびいてゆく。

ここで一旦、ACOGのレンズから目を離し射撃の成果を確認する和馬の隣では、雄太も射撃を開始しており、更に3回連続した激しい射撃音が周囲へと響き渡る。




『どうした?何故、倒れない?』




和馬の予想では、ヘリコプターへと間近に迫る3人の感染者の内、2人に弾丸を命中させたつもりだったのだが、何故か相手の疾走して来る勢いは止まらず、倒れる気配は全く無い。

しかし、それもその筈、今まで実銃を撃った経験など全く無い和馬達が放った銃弾は、感染者には1発も着弾してはおらず、2人は見事に初弾を外していたのだ。何故、感染者達が全く体にダメージを受けていないのか、すぐには理解出来ず首を傾げる和馬達をよそにとうとうヘリコプターへと辿り着いた感染者達は、大きく口を開け叫び声を上げながら一斉に機体の上部へと手を伸ばし始める。



「くそっ!まずった!」



次々と足元へと群がり始めた感染者達が全くの無傷であり、結局、自分達が放った銃弾が1発もかすりもしなかった事に気付いた和馬は、血にまみれた顔を上げ自分等に向かって叫び声を上げ続ける感染者の額へと銃口を向け、再び狙いを定める。



「移動している奴には、上手く弾が当たらないものだな。和馬君」



「ええ。なんと言っても俺達の射撃の腕が悪い上に撃った際の反動も考えながら狙いをつけるべきでしたよ。でも、今みたいに相手がその場に止まっていてくれるのなら、この距離だったら何とか当たるんじゃないかな」



再度、ドットサイトのレンズを覗き込みレティクルクロスポイントと感染者の頭部とを重ね合わせた和馬は、震える指先でゆっくりとトリガーを絞る。

3回連続した激しい射撃音と共に額へと銃弾の洗礼を受けた感染者は、頭部を後方へと大きくのけ反らせ、後頭部から脳漿と血液を噴き出させながら背中から勢い良く道路上へと倒れ込む。

まるで、空を掴むかの様に両腕を上へと突き出させ、額を大きく陥没させたまま激しく痙攣を始めた感染者を照準から外した和馬は、素早く銃口の向きを変え、次の感染者へと狙いを定める。

レンズ上に浮かび上がるレティクルクロスポイントを再び感染者の頭部へと重ね合わせる和馬のその隣では、雄太の放つ銃弾が別の感染者の胴体部を正確に貫く。

胸部と腹部に銃弾を受けた感染者は、頭を垂れ、身体を九の字に曲げた後、そのまま顔面から道路上へと崩れ落ちる。

1度倒れた後、再びそこから立ち上がろうと、もがき始める感染者の身体からは、とめどなく鮮血が溢れ出し、みるみる間に道路上を真紅に染め上げてゆく。

確実に止めを射す為に雄太から更なる銃撃を受ける感染者の隣では、ヘリコプターのランディングギアを掴み、よじ登ろうとしていた別の感染者が和馬からの銃撃を受け、こめかみから血液を噴き出させながら、着弾の反動により後頭部から勢い良く地面へと倒れ込む。




『とうとう、殺ってしまった……』




例え、我が身を守る為とはいえ、殺人行為という一線を越えてしまった事で精神的ショックを受けた和馬は、ACOGから顔を離すと手の平を目の上へと当て、俯きながら目を閉じる。

だが、この状況下において、ショックを受け感傷に浸っている余裕など、今の和馬に残されている筈も無く、更なる脅威が和馬達へと迫って来る。


「和馬君。気を抜くな。もう次が来ているぞ!」



「くそっ!もう来やがったか!これじゃ、きりがない」



激しく痙攣を起こしながら白目をむき、こめかみの銃痕から多量の血液を溢れ出させている感染者の姿をチラリと見て溜め息をついた和馬は、再び銃を構え直し、前方から走って来る感染者へと向けて狙いを定める。

目を吊り上げ、狂気に満ちた叫び声を上げながら、全力で走って来る感染者をレティクルクロスポイントに捉えた和馬は、躊躇う事無くトリガーを絞る。

汗ばむ手でハンドガードとグリップを強く握り締め、度重なる反動を肩で受け止め続ける和馬と雄太を前にして、胴体部分に直撃弾を受けた感染者2人が勢い良く道路上へと倒れてゆく。



「ふう〜。今度は、走っている奴にも当たりましたね」



「ああ、そうだな。これで、前方の計5人は倒した。後、問題なのは、更に後方から走って来る連中か。でも、今なら何とか脱出のチャンスはあるな。よし、和馬君。ここから先は、1人ずつトラックへ向かうとしよう。そこでだ。和馬君、すまないが、この荷物を持って先にトラックまで行ってくれないか。あの連中は、俺が引き付けておくから」



「それは、良いですけど、雄太さんはどうやって脱出するつもりなんですか?」


「それについては、俺にちょっと策があるんだ。ともかく和馬君。もう時間が無い。さあ、急げ!」



「わかりました。じゃ、先に行きます」



素早く、銃のスリングベルトを掴んで肩へと掛けた和馬は、胸のホルスターからベレッタM9を抜き取り、右手にてしっかりと握り締めると、直ぐ様、ヘリコプターの胴体上から道路上へと飛び降りた。



「和馬君。こいつを頼む。プレートキャリアは後で俺が持っていく」



「わかりました」



ここで一旦、銃を肩へと掛け、側に置かれたアモ缶の取っ手を左手で握った雄太は、腕に力を込めて持ち上げつつ、道路上にて待つ和馬へと缶を慎重に手渡し始める。



「重いから気をつけて」



「了解です」



ずっしりとした重量感のあるアモ缶を受け取った和馬は、40m先に停めてあるトラックを目指して直ぐ様、走り始める。




『さて、和馬君を無事に逃がす為にも、奴らの関心をこちらに引き付けておかないとな』




叫び声を上げながら、ヘリコプターを目指して疾走して来る5人の感染者を睨んだ雄太は、肩に掛けていたコルトM4カービンを再び下ろし、素早く、その手へと構えた……。

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

和馬を先に逃がし援護をする為にあえて、ヘリコプター上に残った雄太。

次々に出現する感染者達を前にし、次第に死亡フラグが立ち始めている様にも思える雄太ですが、彼にはこの危機を乗り切る策があるのでしょうか?

展開が気になるこの続きは次回にて。

お楽しみに!

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