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62 ヨンバルディの出立

 貴族牢で話し合いリアフィアの指示でケイナーシェはドレスからメイド服のワンピースに着替えることにしたが一人で脱げるドレスでなかったためリアフィアのメイドスージーが手伝った。


 背中の編みリボンを外してドレスが落ちる。


「っ!」


 スージーが動きを止めた。


「醜いものをお見せして申し訳ありません」


「これではコルセットもお辛かったのではないですか?」


「我慢できます」


 二人の会話を不審に思ったリアフィアが立ち上がり見に来る。


「なんて酷いことをっ!」


 リアフィアは扇を握りしめた。


 ケイナーシェの肩口から腰にかけて無数のムチ跡があった。黄色く回復に向かっている傷、薄い紫の傷、最近できたと思われる赤い傷。

 リアフィアは堪らず顔を顰めた


「もうすぐヨンバルディ殿下との初夜だからとこれでも控えめになったのです。ですがどうしても癇癪を抑えられなった時に……。

辱めを受けなかっただけマシです」


 ケイナーシェは兄たちの部屋に連れ込まれた女性が暴力と凌辱を受けていたことを知っている。兄たちは成分を弱くさせた薬物を興奮剤として使用して常用していた。


 リアフィアはスージーに視線を送りヨンバルディへと報告に走らさせスージーに替わりエイミがケイナーシェの着替えを手伝った。


 その日のうちにスージーとケイナーシェは町外れの宿屋へ移る。ケイナーシェはスージーに相談に乗ってもらいリアフィアことフェリアのメイドになることを決めた。


『もうオミナード王国には戻らない』


 ケイナーシェは一度だけ優しい言葉をくれた青年のピンクの瞳を頭に描いたがすぐに消し去った。


 そして翌朝スージーとともに馬車でバーリドア王国へ向かっている。


「スージー様。フェリア様からお離れになられてよかったのですか?

私のためにすみません」


「ナーシェさん。同僚になるのですから『様』はやめてください」


「でも私は平民ですし」


 フェリアの専属メイドが平民だと考えにくいと思ったナーシェはスージーに『様』を付けたのだ。


「貴女はエイミの義妹になるのですよ。貴女もわたくしと同じ子爵家子女です」


「わかりました。スージーさん、ご指導よろしくお願いいたします!」


「フェリアお嬢様がお帰りになる前にきっちりと覚えていただきますからね。まずはバーリドア王国の言葉を学びましょう」


 厳しいことを言うスージーの瞳は優しさに溢れていた。


「はいっ!」


「フェリアお嬢様が早文で貴女サイズのメイド服を注文なさったけど間に合わないかもしれないわね」


 ナーシェはオミナード王国の女性らしく体躯が大きい。オミナード王国の公爵家にはそのサイズはさすがにない。


「お嬢様がお戻りになる頃にはできていると思うけど。

制服であることより貴女の意思でお嬢様のお世話をすることが大切なことよ」


「私の意思。…………はいっ!」


『私っ自由なんだわ。私が私の意思で選んだことなんだわ。

前を! 前を向かなきゃ』


 前髪をばっさりと切ってよく見えるようになったグレーの瞳は流れる風景を喜び前途へ大きな期待を寄せていた。


〰️ 〰️ 〰️



 ケイナーシェの服毒自殺ニュースから二日後、ヨンバルディはギイドと騎士二人を伴い王子宮を出た。王子宮の使用人とテラゾンが寂しそうに見送る。テラゾンはヨンバルディの替わりに第一王子付きの側近見習いになりヨンバルディが戻るまで勉強することになっている。


 二頭の馬と荷馬車一台。王子の姿ではなく、四人とも商人のような服装である。


「国内の視察がてら反省行脚だ」


「ご祖父様にお会いに行かれるのではないのですか?」


「それは気分と旅程次第だな。兄上には三年ほどしか自由を許されていない」


 自虐的に笑うヨンバルディにギイドは嘆息する。


「どこまでもお供いたしますけどね」


「頼もしいな」


 ヨンバルディはカラカラと笑った。

 一行はケイナーシェたちが使った王都門とは反対側の門へと頭を向ける。


『ケイナーシェ。別の方向であるが互いに前を向いていこう!』


 ヨンバルディはバーリドア王国へ続く空に微笑み馬の口を反転させた。

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