57 ヨンバルディの婚約者
会場へ礼をして下がると、ヨンバルディのエスコートで用意されていた椅子へとリアフィアとともに移動する。
「俺のパートはリアフィア様との時間が短くてよかったです。俺ではリアフィア様のテクニックについていけません。リアフィア様を素敵に見せられなくてすみません」
「テラゾン様。ダンスは楽しいことが一番ですわ。パートナーチェンジで周りに驚いていただいて楽しかったではありませんか。ふふふ」
「はいっ! それはもう! いたずらが成った気分ですっ!」
テラゾンは子供のように笑っていた。
「テラゾン。だらしのない顔はやめろ」
強い口調ではなく弟を宥めるようなヨンバルディに皆は苦笑する。
「はいっ! すみません! 作戦が成功したみたいで嬉しくて」
「そうだな。僕たちの仲の良さがとてもアピールできたよな」
ヨンバルディも大きく頷く。
パートナーチェンジなど練習なくしてできるはずもなく校外で練習するのは仲が悪くてはするはずもない。
「ドリーが僕の親戚筋となっているリア嬢に認められてると表明できたな」
わざわざ王妃陛下とリアフィアの仲の良さをアピールするために王城の庭園や温室を使ってお茶をしているため二人が頻繁に会っていることは王城で知らぬ者はいない。ということは高位貴族で知らぬ者はいないしその子女で知らぬ者はいないということだ。
「間接的にドリー様は王妃陛下に認められてるということになりますね」
バラティナが眼鏡の縁を上げた。
「わたくしの役割を果たせているようで嬉しいですわ」
「リアは十分にやってくれているっ! わよっ!」
ドリーティアはリアフィアがヨンバルディに向けた笑顔にドキリとして慌てて話に加わった。慌てたために男言葉になってしまったがおまけを付け加えた。ここにはレライはいないにも関わらず条件反射になるほど染み付いてきている。
『全く! リアは男の気持ちに疎すぎる! ルディがその気になったらどうするんだっ! 絶対に手放さないけど』
ドリーティアはバーリドア王国ではリアフィアのエスコートをしているため気が付かなかったがこうして別のパートナーになりリアフィアを観察すると多くの男たちがリアフィアの笑顔にメロメロになっていることを改めて実感してしまった。
『バーリドア王国では私の婚約者であることが周知されているからこのような視線は受けないが少し外に出るとこれなのだ。
それにしてもリアにも抜けているところがあるんだよな。それが男に対してだということがいいのか悪いのか』
ドリーティアは心で大きくため息を吐いた。隠したつもりでもリアフィアにわかる程度には怪訝さは出てしまっていたようでリアフィアは首を傾げた。怪訝さはわかってもドリーティアの嫉妬心はわからないリアフィアであることが本当に残念だ。
『鈍感なリアも可愛いいけどね』
ドリーティアは他には向けない笑顔をリアフィアに見せリアフィアもホッとしたように笑顔になった。
「ん? どうやら遅刻して登場のようだ」
ヨンバルディの視線を追うと正面扉ではなく側面扉からそっと入場してきた少女がいた。その少女はヨンバルディの婚約者であり公爵令嬢だ、というのに誰かが注目している様子はない。
公爵家の血を引くことを表すすみれ色の髪はアップにして小さくまとめられて、さらにそれを隠すかのようにドレスと同じピンク色の大きな大きなヘッドドレスをつけていた。
「…………」
リアフィアはその姿に絶句した。全くと言っていいほどドレスが似合っていないのだ。
長い長い前髪さえも纏められてしまっているのでおどおどした表情が隠せなくなりいつにも増して萎縮しているように見える。
「リア嬢。驚いたろう?」
「はい。あのような幼いデザインはケイナーシェ様にはお似合いになりませんわ。それにあの髪飾りももっとシンプルな物がお似合いになりますでしょうに。
それにせっかくの美しい御髪があのように隠されてはもったいないですわ」
ケイナーシェは少々垂れ目の美人系である。ピンクのフリフリドレスが浮いているし、大きな灰色の瞳は怯えでビクついている。
「公爵夫人に着させられているのだろうな」
誰にも聞こえないように呟いたヨンバルディが悲しげに目を細めたのは一瞬だ。
「僕の瞳の色を使ったドレスを纏い媚を売っているのだろう。忌々しい」
周りにいる高位貴族子女たちにも聞こえるほど大きな声を出す。ヨンバルディの声でやっとケイナーシェの登場に気が付き女子生徒たちはほくそ笑み男子生徒たちはニヤける。テラゾンだけは目を伏せた。
「とにかく役者は揃った。しばし皆にパーティーを楽しんでもらってから事をはじめよう」
また声を抑えたヨンバルディに五人は頷き返した。リアフィアは扇ですっぽりと顔を隠してケイナーシェを見やる。
『ケイナーシェ様。貴女はどこまで辛抱なさるおつもりなのですか?』
扇の奥で悲しく眉を下げた。




