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未来視の魔女  作者: 譜楽士
黒い貴女が魔女になるまで
13/37

幕間1~ファミレスにて

※主な登場人物(全員卒業後)

・高久広美…バスクラリネット担当。

・今泉智恵…ユーフォーニアム担当。

・貝島優…打楽器担当。元部長。

・関堀まやか…フルート担当。元副部長。

「というかさ、私たち最後の最後で金賞が取れて、本当によかったねえ」


 ――と、過去を振り返っていたあたしの前で言ったのは、同い年の今泉智恵(いまいずみともえ)だった。


 ここ一年生のときの、あのコンクールの会場じゃない。


 卒業式帰りに寄った、学校近くのファミレスだ。

 目の前にはパンケーキがあって、そしていつもと変わらず、あたしの前にはコーヒーが置かれている。

 よくある女子会の、ただのありふれた光景だ。


 そう、何だかんだ色々あったけど、あたしたちは最後までやり切ったのだ。

 ……まあ、その『何だかんだ』っていうのが凄まじく大変だったんだけど、それはまたこれから話すとして。


 そう、智恵の言う通り、一年生のあのコンクールは金賞ではなく銀賞だった。

 網戸(あじと)先輩はそもそも賞には興味がなかったらしく、他の学校の演奏を見に行こうとしたのも、参考にしようとかじゃなくてただ単に演奏を楽しみたかっただけらしい。


『音楽なき人生は誤謬(ごびゅう)である』だ。まったく、あの人らしいね。


 ホールの外にあるテレビの前で「金賞? 取れたら取れたでいいと思うが、いい在り方で演奏できれば別に銀でも銅でもいいんじゃないか」と言われたときは、度肝を抜かれたね、あたしは。

 だってそれまで、コンクールで金賞を取ることは、吹奏楽部の至上命題だと思っていたから。川連二高(うち)はいつも銀賞の上の方だったから、余計そうなのかと思っていた。


 けれど、そうじゃない考え方もあると言われて、何か少し息苦しさが消えた気がしたんだ。


 まあ、世の中全部にその考え方が適用できるわけじゃないことは分かってるけど、そんな価値観を持ってもいいと言われたことは、あたしにとって大きな転機となった。

 変な人だったけど、部でも日常生活でも、相当浮世離れしてた人だったけど。

 あたしはあの人を師匠に選んで、よかったと思う。


 そんなことを考えていると、同じテーブルについている貝島優(かいじまゆう)が、こくこくとうなずきながら言った。


「まったくです。そして(みなと)くんたちには、これからもっともっとがんばってもらわなくては」


 表情は厳めしいものだけれど、パンケーキが目の前にある上にナイフとフォークを持っているので、あんまり様になってない。

 まあこいつは、それこそその金賞至上命題派の人間だからねえ。それで部長にもなったわけだし。

 けどまあ、そこに行くまでの道筋を、他の可能性を切り捨てながら進まなくなっただけ、こいつも丸くなったってことなのかな。

 そう思いながらちっこい手でパンケーキの解体作業に入る優を眺めていると、今度は優の正面にいる関堀(せきぼり)まやかが、にこやかに笑って言う。


「まあ、大丈夫なんじゃないかしら。湊くんならこの先、何があってもなんとかするんでしょう」


 まやかが紅茶のカップを手に取る仕草は、楽器を扱うときと同じでどこか品がある。

 ただのファミレスのドリンクバーが、アフタヌーンティーに見えてきちゃうから不思議だぜ……。元からお姫様っぽいというか、独特の優雅な雰囲気を持っている子ではあったんだけど、ここまで来るともはや女王様といった貫禄だ。


 そして、彼女をこうさせた一因は、間違いなく今話題に上っているあの馬鹿弟子にあるわけで――


「……」


 あたしはそのことを考えつつ、無言でコーヒーを口にした。


 あの子とあたしの最大の違いは、春日先輩を師匠にしたかしなかったかということにあるのだと思う。


 もちろん、網戸先輩を師匠にしたことに後悔はない。けれどあの時点でだって、春日先輩は十分に温かい人だった。

 あたしは一度それに救われているし、ついていくなら彼女――という選択もあったのだろう。


 けれど、あたしはあの太陽を選ばなかった。

 というより、選べなかった。あの人の持っている光は当時のあたしには大きすぎて、温かすぎて焼け焦げてしまいそうだったから。


 普段は暗い穴倉にいて、寒くなってきたら外に出て、身体を温められればそれでよかった。

 そんな距離感で接することができれば、それでよかった。太陽は、空にあるから太陽で、触れてはいけないものだと思っていたんだ。


 けれど、あの子はその光に手を伸ばした。


 そこがあたしとあの子の、絶対的な違い。馬鹿弟子だなんだと言っているけど、あたしはあの子のそういうところを、うらやましいと思うと同時に尊敬もしている。優と同じで。


 スポットライトを浴びながら、物事の中心に立てる力。


 それを、根本的にあたしは持っていない。()()()()()()()()

 闇の中を這いずり回る、感覚を頼りに生きる蛇。

 それが、あたしだ。根源を知りつつも手を出せず、危機を察すると逃げ出す卑怯者。


 だからこそ――とあたしは、隣にいるまやかをちらりと見る。

 今は屈託なく笑っているけれど、この同い年だってかつてはひどく、大変な思いをしてきたのだ。


 その出来事の一端に関わった者として。

 そして、その責任を果たせなかった者として――あたしは彼女に、謝らなくてはならない。

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