なんで俺なんですか
体育祭編2話目です。
コメントにて時系列が分からないと言われましたので、少しご説明します。
本編は時系列的にはずっと続いています。
放課後の職員室で、現在俺は担任の教師と睨み合っていた。
いや、厳密に言うと俺だけが睨んでいた。
「なんで俺なんですか……、もっと他にいろいろいるでしょう? そういうのに向いてる奴は」
外から響く部活動の声を遠くで聞きながら、俺は目の前で偉そうに座っている担任にそう詰め寄った。
すると担任は、頬をぽりぽりとかきながら。
「あー……一応聞くが、お前は実行委員をするのが嫌、なのか……?」
俺はその質問に、はぁーと大きな溜息を吐く。
「当たり前でしょう? ……俺みたいな目立たない生徒は、目立たない様に過ごさなきゃなんですよ」
全く勘弁願いたい。
俗に言われる、陰キャラと呼ばれる者たちは、そのほとんどがそれを許容しているのだ。
自分はそうなのだと理解し受け止め許容する。
その過程を得た者こそが、真に陰キャラとして真っ当に学校生活を送ることが出来る。
だからこそ無駄に目立つ様な事はしたくないのだ。
俺たち陰キャラと呼ばれる者たちは、微妙な立ち位置をこれ以上ない程に嫌う。
陰キャラと陽キャラの狭間にいる様な人種。
それは俺たち陰キャラ側にいる人間にとって最も忌むべき存在なのだ。
……まあ、他の陰キャラさんがどう思ってるかは良く知らないけど。
(でも、まあ。少なくとも俺はそうなのだ)
だから俺は、担任に力強くこう言い切った。
「俺よりも、もっと人気者で人から認知されている人が良いと思います!」
「おっ……なかなか大きい声出すじゃないか」
(またこうやって論点をずらす……)
こう言うところはやはり大人。
俺は目上の存在である担任のこの人に強くは出れないし、かといってこのままこの人のペースでいくと俺は実行委員になってしまう。
などと俺が思案していると、担任から思いもよらぬ一言が飛び出す。
「でもなあ〜……お前、案外有名人だぞ?」
「ーーーは?」
え、誰が有名人だって?
俺は先生に向かってジトッとした目を向ける。
「先生……そう言う冗談はやめて欲しいんですけど」
「いやいや、本当だよ。今、教師たちの間で石田高利ほど話題になっている生徒はいない」
その台詞を聞いた瞬間ーーー俺の意識は凍りついた。脳が思考を止めて、考えることをやめたのだ。
そしてその数秒後、先生の手が俺の視界の前で振られているのを確認してから、俺の思考は正常に機能し始めた。
「おーい、大丈夫か〜? 石田〜?」
「……はい、大丈夫です。……いや、やっぱり全然大丈夫じゃないです。いや、え? なんで俺なんかがそんなに教師たちの間で有名なんですか?」
「ん〜? ……あーそれはなあ〜、お前も知ってるとは思うが、二年の神倉がお前の名前を出してるんだよ」
ーーーゾクン。
一瞬、先程と同じように思考が停止した。
「え……神倉さん? 神、倉……誰?」
が、今度は先程よりも自然な状態で、意識を覚醒させた。
そのおかげで、わざとっぽくない演技が出来た。
担任の教師も、なかなか驚いた表情をしている。
「は……? お前、神倉と知り合いじゃないのか?」
「え……? なんで俺が、その、神倉さんとやらと、知り合いなんですか?」
「あ、え、まじか……じゃあどうして神倉はあんなにも私たちの前で、石田の名前を出してるんだ……」
そう言うと、担任はごにょごにょと呟きながら自分の世界へと入ってしまった。
そんな担任の姿を見ながら、俺は額の汗を拭う。
(一体どうして神倉先輩はそんな真似を……。というか、俺いま普通に嘘ついたけど……嘘つく必要あったか?)
考えれば考えるほど分からない。
神倉さんは俺をどうしたいのだろうか。
俺はこの前、神倉先輩との関係を続けてもいいだけのヤツになろうと決めた。
ならばこれはチャンスか。
これまでの俺の嘘を全て神倉先輩に打ち明けるべき時なのかもしれない……。
すると、いつのまにかもう普段通りに戻っていた担任が俺に話しかけてきた。
「なあ石田。今回お前を選んだのはテキトーな私の判断じゃないんだ」
(ああ。今までの話の流れからいくと大体予想はついている。要するに今回のこれはーーー)
「実はな、その神倉からの推薦なんだ。どの学年で、どのクラスかも知らないけど、石田高利という生徒を推薦したいです、と本人が言っていてな」
(なんて事をやるんだあの人は!?)
そう俺は心の中で叫び声を上げる。
俺は一度息を吸うと、ゆっくりと静かに冷静に担任に問いかけた。
「そして、それを教師側は無下には出来ないと?」
「ああ、そうだ。神倉は……その、こういうイベント事では主役みたいなもんだからな。先日あった激励会といい、今回の体育祭といい、神倉の力は正直大きいんだ」
「だから……もし神倉さんの機嫌を損ねたりしてしまった場合ーーー」
俺は担任の方をチラリと見る。
そこには担任のはぁーと溜息を吐いている姿があった。
「ああ、そういう事だ。だから、お前には悪いが、なんとか参加してもらいたい」
(これは、俺がどうのこうの出来る問題じゃなさそうだな……)
俺は覚悟を決めて、頷こうとしたその時ーーーガラガラと勢いよく職員室の扉が開いた。
多くの教師たちが動き回り、喧騒に満ちたこの職員室ではさして気にならない程の音。
けれど、その次に聞こえてきた声で俺は驚くことになった。
「2年7組、神倉美里です! 長谷川先生に用があってきました。失礼します!!」
まさか、まさか、イベント突入前に。
ご本人の登場ですか……!?




