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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
ブライダルトレイン

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113/120

回送列車とブレーキ操作

 鯨が、鯨が運転してる!


 運転中は必要外の会話は厳禁だから黙ってるけど、鯨の運転する電車が走っている事実に、私はもう、感無量!


 対向列車が90キロくらいで擦れ違ってゆくなか、鯨は60キロでゆっくり走らせている。回送は営業列車よりゆっくり走るダイヤ設定にされているから、これが正しい運転。


 高い場所にある運転台からの景色は、一般的な電車のそれより少し眺めがダイナミック。高運転台の個人的メリットは、人が飛び込んで当たったときに窓ガラスと接触しないから、割れて運転台に降ってこないところだよね。あれほんと怖い。私は未経験だけど。


 車掌の私も運転士の横で先頭に乗る機会は多く、新型車両だと貫通扉がなく窓ガラスが大きいから、すごく怖い。私は窓ガラスが3分割されている旧型車両のほうが好き。乗務員的に。新型車両は遅延発生時のダイヤ回復性能とか乗り心地はかなりいいんだけどね。


 ジリリリリリ! ピンポンピンポンピンポンピンポン。


「わあうるさい!」


「ごめんごめん」


 1分間以上なんの操作もしなかったため、警告ベルが鳴った。鯨が即座にベルを解除すると、ピンポンピンポンと穏やかな音に変わった。ベルが鳴ってから5秒間以上なんの操作もしないと電車は自動で緊急停車する。乗務員が気絶したときなどを想定した安全装置だ。長い直線区間やゆっくり走っている列車ではあまり速度調整をしないため、よくベルが鳴る。


「場内注意、制限45」


 鯨が喚呼した。制限速度45キロを指示する注意信号が現示されている。速度を指示しない進行信号が現示されていても、まもなくポイントを渡るため45キロ制限は変わらない。


 うろな駅が近付くと、電車は35キロまで速度を落とし、ポイントを渡り始めた。うろな駅で折り返すため、南行線路から反対側の北行線路の副本線に入る。


 ポイントを一つ渡ったところで、うろな駅に入ってくる北行の普通電車と向かい合った。同じ線路を向かい合って走る2本の電車。副本線に入るこの電車と、本線を走り駅で止まる普通電車が正面衝突することはほぼないけれど、ちょっとスリリング。ちなみに、ブレーキが故障したり操作を誤ったりすると、普通電車はポイントで脱線してこの電車に突っ込む。


 そんな大惨事は起きず、双方の電車は同時にホームへ進入、クロスしながらそれぞれ速度を落とす。複線区間の多い都市部では珍しい光景だけど、ローカル単線の駅や信号場ではよく見られる光景。


 鯨、ちゃんと停止位置に止まれるかな。固唾を飲んで見守る。


 運転士が注意するのは、停止位置だけではない。急ブレーキをかけると車輪が傷んで、走行時にガタガタと車両が小刻みな縦揺れを起こす。ブライダルトレインでは美味しい酒を飲むための華奢なグラスを用意している。走行中に振動でそれが落下したら大ごとだし、電車はやっぱり快適がいちばん。ましてお祝い事。穏やかな時間を提供したい。


 私の心配を他所に、鯨は緩やかなブレーキ操作で電車を所定の位置に停めた。続いてブレーキレバーを『非常』の位置に運び、進行方向のレバーを中立にした。電車は自動車と同様にバックもできる。また、進行方向が反転するときは非常ブレーキをかけてキーを抜かないと走れなくなる。


 鯨の見事なハンドルさばきに、私は思わず拍手。


「すごい、鯨すごい! ちゃんと運転士になったね」


 よしよし。私は鯨に抱き着いて、頭をわしゃわしゃした。


「外から見られちゃうよぉ」


「おっとそりゃいかん」


 うろな駅では30分停車。その間に、深沢ふかさわさんをはじめとした、ブライダルトレインの担当社員を乗せる。


「さて、ドアは私が開けますかな」


「あ、いや、これDコック扱いだよ」


 Dコック。ドアコックのこと。ドア周辺に取り付けられている、ドアを手動で開閉するための装置。非常時や、特定のドアのみを開ける際に用いる。この電車は現在回送扱い。すべてのドアを開けると旅客りょかくが乗ってくる恐れがあるため、ドアコックを使って特定のドアを開ける。


「あ、そっか」


「それとも乗務員室から入ってもらう?」


「どっちでもいいよ。あ、でも中間車から入ったほうが、いちいち回り込むより効率的かな」


「そうだね。5号車だもんね」


 私と鯨は一度車外に出て、関係社員の到着を待つ。数分後、爽やかなグレーのスーツを着た一流いちるちゃんと、制服姿の成夢なるむくん、エレナちゃんが改札口から続く通路の階段から上がってきた。

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