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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第7章。強くなる!
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65。恋坡!

 「はい」


 そう言って玄関の扉が開かれた。返事をして出てきたのは、母だった。私を見るや否や、目を見開いて言葉を失っている。

 私はその無言の圧力に耐えられず、口を開くことにした。



 「あの……」


 私の言葉を紡ぐより先に、なかなか戻ってこない母を不思議に思ったのか、父まで現れた。父も母と同じように一瞬目を見開いた。


 「とりあえず、中に入れ」


 父の冷たい声が聞こえてきて、母も家に入る。それに続いて私たちも中に入った。久しぶりの自宅に、 "ただいま" というべきか "お邪魔します" というべきなのか悩んでしまう。


 静かな雰囲気に、声を出しづらくて黙って入ることにした。暖さんも静かに後ろをついて入り、後ろ手で玄関の戸を閉めた。


 リビングに通されて、座るよう指示される。きっと、ただそのように言われただけなのだろう。それでも今までの家族とのやり取りを思い出すと、命令を受けている感覚になるのだ。



 この状況なら、私がしっかり紹介と説明をしなくてはいけないのに。この調子ではいけない、そう思った。ぎゅっと手を握りしめて、固まる体を椅子に座る。


 「信じられないと思うが、俺は妖界に住んでいる。九尾の狐にならなければ、妖界が安定しない。そのためには、恋坡が必要なんだ。

 大切にすると約束をする、どうか許して欲しい」


 体が強張って動きがぎこちなくなってしまい、座るのが遅かったようで先に暖さんが着席していた。そして、本来であれば私が説明すべきことを代わりに、両親に話してくれた。



 「そう。勝手にしたら? それよりも、学校はどうする?」


 「学校も行く必要ないだろう。行ったとしても、うちに必要となる人間になれるわけがない」


 私が言葉を発する前に、話が終わったようだ。父の言葉を最後に、リビングは静かな空間になる。


 (やっぱり、私は必要ないんだ。寂しくないって言ったら嘘になるけど、暖さんが必要だって言ってくれた。それだけでいい)


 ノートパソコンを開いて、父は仕事をはじめた。それを見た母も、テーブルサイドに置かれていたカルテを開く。


 見かねた暖さんが、音を立てず立ち上がった。両親を見下ろす目に光が無く、怒りに満ちているようだ。


 (誰かが私のために怒ってくれるというのは、嬉しい)



 私は、ようやく腕に力が入って重たい口を開いた。


 「じゃあ、私はこれで…… さようなら、ということでいいですね!」


 この場にそぐわないほどの大きな声で私は、両親に言う。今ままでの私ではない。妖界で、私だって強くなったのだ。言いたいことは言ってもいい。私の声は、両親に届かなくてもきっと聞いてくれるひとがいる。


 私も大きな声で言い終わって、立ち上がる。暖さんとは違って、大きな音を立てて。椅子は、私の勢いに負けて倒れてしまった。私は、そんなことはかまいもせず続けた。


 「今までありがとうございました。私を必要としてくれるひとがいるので!」

 

 両親のポカンとした顔に、私は勝ち誇った気分になった。今までの私なら、こんなことを言うなんてあり得ないことだ。緊張で上がった肩の力を抜く。


 テーブルに視線を落として、ため息をついた。そして私は、それ以上言うことは何もなくなりうしろ髪を引かれるものは無くなった。玄関に足を進める。リビングの扉を開けた時に、私の背中に父から声をかけられた。


 「不要なものは、もっと早く処分するべきだった」

 

 私は、振り返りも返事もせずに足早に外へ出た。私は、家を出て走った。先ほど通った公園の前を駆け抜け、時音稲荷神社に着いた。


 膝を抱えて、私は顔を埋める。私の心を代弁するように空から雨が落ちてくる。


 後ろから暖さんが追いかけてきて、その場に座り込んで涙を流す私に自分の羽織をかけてくれた。雨に濡れないようにと言う優しさなのだろうか。私は、それ以上に暖さんに包まれる安心感を感じた。


 ひとしきり涙を流した。静かにそばにいてくれた暖さんは、そばで立ったまま一緒になって雨に打たれていた。顔を上げて、私の涙が雨に流されていく。私が顔を上げたのを暖さんが確認して、手を差し出された。


 「帰るか?」


 どこまでも私に寄り添ってくれる。涙で悲しみが流れ、暖さんのやさしさで顔が緩む。



 「はい!」


 私は、暖さんの手を取って立ち上がった。そのまま手を引かれて神社の中に入った。

 奥まで行くと、左右に狛犬の代わりに狐の像が置かれている。暖さんは、その前で時計の絵を描き始めた。以前のようにその都会の真ん中に立つ。


 狛犬の代わりの狐2匹が、ぴょんっと飛び跳ねて白狐と黒狐に変わる。


 「あぁ、ご無事で何よりです!」

 

 黒狐は、半泣き状態で私に飛びついた。白狐は、駆け寄って私の足に抱きついている。


 「心配かけて、すみません。黒狐も白狐も来てくれたんですね! ありがとうございます!」


 「奥方さまぁ〜」


 本格的に、黒狐が泣き出した。妹ができたら、こんな気持ちなのかと思いながら黒狐の頭を撫でた。



 「今まで通り、名前で呼んでくれると嬉しいです」


 名前呼びの方が、心の距離も近い気がする。だからこそふたりからは、名前で呼んで欲しいのだ。



 「恋坡さま〜」


 

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