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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第4章。山神様!?
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31。殺す気ですか!?

 風を切る音と、大男の背中の翼の音が鳴り響いていた。私は大男に担がれたまま、どこかに連れてかれる。

 杉の木が立ち並ぶ森が、あたり一面撫でてくる。そして、大男が一本の高い杉の木の上に立つ。大量のカラスが集まって来た。



 そして、私を肩から下ろし私の両肩をグッと掴んでいる。足が宙であそぶ。喉がヒュッと音を立てた。今の私は、両肩を掴まれた手を離されたら下に落ちる状況だ。


 「ヒヒッ。おぬしが、御霊みたまの加護の持ち主か?」



 心臓の音がうるさく鳴り響く。目の前の色が全て消えていく。頭の血が引いていくようだ。



 「答えられないか。 ……まあいい」



 そう言って大男は、掴んでいた手を離し私を突き落とした。どんどん落ちる速度が増す。

 大男の笑い声とカラスの鳴き声が、私の耳の奥で響き渡った。


 (もうだめ、ここで私死ぬの?)



 助からないと思い私は、目を固く閉ざした。その刹那、真っ白の光に包まれた。

 


 下に落ちいていく体がぴたりと止まり、背中がとんっと何かに触れる。周りを見渡すとそこには桃の木が広がっていた。木々が枝を腕のように伸びて来ていて、私を抱き止めてくれていた。



 空を見上げると先ほど見ていた杉の木はなく、代わりに青い空が広がっている。カラスの鳴き声ですら聞こえなくなっていた。



 桃の木は、枝をうまく使って優しく私を地面におろした。木々には、私の知っている桃よりひと回りもふた回りも大きい実をたくさんつけていた。



 桃の甘い香りが漂っていた。周りを見渡すと、一際大きな桃の木を見つけた。その木に近づくと、先ほどのように、枝を器用に動かして桃の実を私に差し出して来た。



 「えっ、これを貰ってもいいんですか?」


 もちろん、桃の木。返事なんてない。その代わりに、桃の枝は私の手にぐいぐいと押し付けて来た。



 「ありがとうございます。あの…… ここを出るにはどうしたらいいのでしょうか?」




 (こんなこと、気に聞いたってしょうがないのに)


 枝で私の袖を引っ張って、私の視線を捕まえた。引っ張っていた枝で、指を刺すように行くべき方向を指し示している。

 私は、桃の木にお礼を言おうと息を吸った。



 「ここにいたのかい?」


 

 先ほどの大男の声だった。大男の姿が見えたと思ったら、天狗の絵でよく待たされる錫杖しゃくじょうで地面を勢いよく叩いた。地面が大きく揺れる。

 貰った桃を、妖たちがやっていたように左の袖に入れた。




 大男は、もう一度錫杖しゃくじょうを振り上げて地面を叩き突き刺した。錫杖しゃくじょうについた鈴が揺れ続けている。だんだんと桃の木がぐにゃりと歪んで、地面に吸い込まれて消えていく。



 私と大男を残して、全ての桃の木が消えた。そして、大男が錫杖しゃくじょうを地面から抜いて私の方は投げ飛ばしてきた。



 私はしゃがみ込んで、当たらないように逃げた。頭を少し掠って、綺麗に結われていた髪が解けた。

 暖さんに貰ったかんざしが、カランッと音を立てて転がった。





 (かんざし! 『何があってもこれだけは持っておけ』 って言われてたんだ。なんとしてでも、取りに行かないと)




 大男は、また甲高い声で笑った。そして、大股でこちらに近づいて落ちたかんざしのガラス玉を踏み割った。



 パキッ……



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