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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
六章 考古学者の少女とグロリダリアの魂
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6-13 ヌムルスへ。急がば走れ

「ステラ! すぐに戻るぞ! ヌムルスが危ない!」

「え、レイギスさん!? なにがどうなってるんですか!?」

「あの兵器がヌムルスに向かってる! 破壊なり住民の避難なりしないと、五百万人が死ぬことになるぞ!」

「そんな!?」

(レイギス、待って!)


 焦って部屋を飛び出そうとする俺を、月兎が止めた。


(なんだ!)

(住民を避難させるにしても上の人の説得が必要なはずだよ。映像かなにか、証拠がないと妄想で流されかねない!)

(そ、そうか)


 俺としたことが、事態に焦って冷静な判断が出来ていなかったようだ。

 そりゃそうだ。いきなり五百万人の都市がグロリダリア時代の魔導具によって滅ぼされるなんて言っても誰も信じるわけがない。

 ステラならある程度身分は保証されているから、領主に会うことは可能かもしれないが、話を信じてくれる可能性は少ないな。

 となると、ここのデータと投影機を持って行ったほうがいいか。


「ステラ、手伝ってくれ!」

「なにをすればいいですか!?」

「どこかにこれと同じような腕輪があるはずだ。それを探してくれ」


 こんなデータセンターなら、スクリーンを展開できる腕輪があるはず。そこにデータをぶっこんでいけば、ステラだけでもスクリーンの使用が可能だ。俺は魔導具の破壊に、ステラは領主の説得に分かれて向かうことが可能だ。


「分かりました。探してみます」


 ステラと俺は部屋の棚をひたすら探していく。

 データセンター内は密閉されていたおかげで風化も少なく、棚の中の代物も比較的いい状態のものが多い。


「レイギスさん! これですか!」


 ステラが声を上げたので俺はそちらを見る。ステラの手には、確かに目的の腕輪が握られていた。


「それだ! こっちに!」


 投げられたそれをキャッチし、空いている右手へと嵌める。魔力を流し込み、即座に腕輪のシステムを起動させた。

 魔力を充電させながら、腕輪からケーブルを引き出しデスクへと接続する。

 この腕輪が完全無線式じゃなくて助かった。

 デスク側のスクリーンを操作して、ポナムデイの映像と資料を放り込む。それを一つのファイルにまとめ上げ、見てもらいたい順番に番号を振った。


「ステラ! これを着けてみろ!」


 俺は外した腕輪をステラへと渡す。

 ステラがそれを付けたのを確認して、腕輪のスイッチを押した。

 腕輪の魔力はバッテリー式になっている。俺の魔力がバッテリー内に残っているうちは、魔力を扱えないステラでも使用が可能なはず。


「透明な壁が出ました」

「それに触れてみろ。操作は可能か?」


 ステラが恐る恐るといった様子でスクリーンに触れる。すると、ファイルが展開され、番号の並べられたデータが表示された。

 問題なく使えるようだ。


「それを使って領主を説得しろ。住民の避難なり、兵士の派遣なりはできるはずだ。それとヌムルスに到着する前にステラも中身を順番に確認しておけ。上から順番に見れば内容は大体理解できるはずだ」

「は、はい」

「じゃあ戻るぞ」


 遺跡を出ると、暇そうにタバコをふかしていたスードが出迎えてくれた。


「おお、お二人とも慌ててどうしました?」

「ちょっとした緊急事態だ。すぐに戻らなきゃならん。最速でだ」

「おーけーおーけー、分かりましたよ。お金貰えれば私は問題ないですよ」

「頼むぜ。金はしっかり払うさ」


 超特急でと頼んだので、スードの足取りは早い。俺たちはおいて行かれないようにしっかりとスードの背中を追いながら廃坑の中を進む。

 そして来た時よりははるかに速く廃坑から出た。

 まあ、その代わりに息も絶え絶えになっちまってるが。


(月兎、変わってくれ)

(このタイミングで!? 僕苦しいだけじゃん!)

(気付かれたか)


 体を操作していない時は肉体の疲労からも解放される。けど、表に出た奴が苦しくなるからなぁ。さすがに気づくか。けどそれだけが理由じゃない。


(けど月兎から魔力強化で疲労も軽減される。急ぐ必要があるんだろ)

(むっ。でも僕だけ元気でも意味ないよね。ステラさんもふらふらだし)


 さすがのステラも廃坑の突破はかなりきつかったのか、膝に手を当てて肩で息をしている。馬に乗れたとしてもギャロップは無理だろう。

 流石に速度を落とすしかないか。


(しかたねぇか)

(焦り過ぎも良くない。ステラさんには映像を確認しておいてもらわないといけないし、まだ三日あるんだから)

(そうだな)


 とりあえず廃坑を突破できたのだから、後は馬に乗って道なりに進むだけだ。

 俺は一度大きく深呼吸をして、心を落ち着けるのだった。


   ◇


 最寄りの町であるヒュウエイへと戻ってきたところで、僕はレイギスと人格を交代した。

 多少疲労感は残っているけど、呼吸は整ってるからまあありとしよう。


「スードさん、お疲れさまでした。これが報酬です」

「はい、確かに受け取りました。では私はこれで。道中お気を付けて」

「ええ、ありがとうございました」


 スードさんへと報酬を渡し、僕たちは馬を引いて今日の宿を探す。


「ステラさん、大丈夫ですか?」

「あ、月兎さん戻ってきてたんですね。ええ、私は大丈夫です。それにしてもこの映像は……」


 ステラさんは馬上でもレイギスからもらった端末を使って映像の確認を行っていた。

 その結果なのか、険しい表情をしている。


「レイギスさんが焦る理由が分かります」

「けど焦りは禁物です。今日はここで休んで、明日からヌムルスへ向かいますよ」


 馬を交換して朝一で出発すれば、日が暮れるころにはヌムルスに到着することができるはずだ。


「明日走り続ければヌムルスには到着できますが、それでも領主様との謁見はできるかどうか」

「難しいのは承知です。無理だと分かれば、最悪押し入ってでも映像を見てもらいます」

「兵士と敵対するんですか!?」

「最悪はそれも想定しておかないと」


 兵士が動けばもし鳥が襲ってきた時の対応も早くなるはずだ。


「その場合ステラさんはどこかの宿に避難しておいてください。さすがに危険ですから」

「何言ってるんですか。守れなければ町ごと消えるんです。やれるだけのことはやらせてもらいますよ」

「……ありがとうございます」


 僕たちは宿で一日を過ごし、十分な休憩をとった。

 そして日の出る前に馬の準備を済ませ、町を発つ。当初懸念していた盗賊の襲撃もなく、予定通りに中継の町へと到着する。そこでさらに馬を変え、ヌムルスへと急いだ。

 流石に金がかかったけど、五百万人の命に比べれば安いものである。


「月兎さん、町が見えました! あれがヌムルスです」


 日が沈み切る直前、僕たちはヌムルスの町へと到着する。

 五百万人の都市だけあって、これまで見てきたどの町よりも大きい。というか、どこまでも町の外壁が続いており端が見えない。

 夕方だけあって門に人は少なく、僕たちはすぐに受付の順番を迎えることができた。


「次の人。二人だな」

「探索者の月兎です」

「考古学者のステラです」

「ふむ、特に異常は無し。荷物もおかしなものはないな。入るには一人三千セルだ」


 三千セル。さすがに大きな町だけあって入場料も高い。まあ、これだけの壁や兵士を維持しているのだと思えば、その値段も仕方がないと思えるか。

 僕たちは大人しく料金を支払い中へと入る。


「とりあえず宿を取ってそれからですね。今日中に領主様への謁見のお願いをしてしまいましょう」

「こういう時ぐらいしか私の肩書は使い道がありませんからね。役に立ってくれるといいんですが」


 一応プアル王国国王のお墨付きですからね。無下にはできないとは思いますけど。

 適当な宿を見つけ、そこに二部屋借りる。そして手紙をしたためた僕たちは、領主様の館へと向かうのだった。

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