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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
六章 考古学者の少女とグロリダリアの魂
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6-12 失われた都市

 検索の結果、ヒットした数字は億を超えていた。


(レイギス、さすがにここから探すのは無理があると思うんだけど……)

(悪い。検索ワード間違えたわ。昇華しなかった連中がそもそもナチュラリストなんだから、大量にヒットするのも当たり前か。ナチュラリストを科学者に変更して再検索頼むわ)

(はいはい)


 登録ワードを修正して、再検索を行う。すると一気に減って十五件がヒットした。

 一番古いものだと、昇華から二十年後、そして最新のものでは五十年前のものが表示されている。


(どれにする?)

(とりあえず直近だ。影響が強いのはそっちだろ)

(了解)


 一番新しい映像を選択し、映像の再生を開始した。

 そこに映し出されたのは、今と似たような世界の光景。どこかの町のようだが、かなり大きな町だ。


「もしかしてこれ、ヒラグの映像ですか?」

「ヒラグ?」


 映像を見たステラさんの言葉に僕は首を傾げる。


「五十年前、突然消滅した都市の名前です。国は――確かジャスミス帝国でしたか。帝国で一番大きな都市だったヒラグが消滅した余波で崩壊した、今はない国です」

「なんで消滅したんですか?」

「それが分からないんですよ。前日まであった都市が、翌日には忽然と消滅していた。そんな話や文献しか残っていませんでした。跡地の調査も行ったみたいですけど、大きなすり鉢状の窪みになっていたそうです。そこにいた人や動物、建物の痕跡なんかも全て消えてなくなってしまったと。一説には、地下にあった魔道具が暴走したことが原因なのではなんて言われていますけど、あの年の地下に遺跡があったなんていう話は聞かないんですよね」


 一夜にして消滅した都市と、その余波で潰えた帝国か。なかなか意味深だね。


(レイギス的にはどう思う?)

(魔導具の暴走でそこまでの被害を起こすなんてことはあり得ないと思うが……情報が少なすぎるな。まあ、ここに映像があるってことは、科学者が何かしら細工をした魔道具の可能性はあるな)

(前のryuみたいなやつってこと?)

(そうだな。ま、見ればわかるさ)

「もしかしてその原因も分かるんですか!?」

「それらしい映像が今流れているものみたいですよ」


 映像の中では昼過ぎだろうか。町は多くの人で溢れ、とても翌日には消滅しているようには見えない。都市の地下に遺跡があったと考えるなら、帝国が秘匿していたのだろうか。プアル王国の豊穣の魔導具の存在を考えると、秘匿していてもおかしくはないと思うけど。

 そんな風に考えていると、雲一つない青空のはずなのに町の上空を影が通り過ぎた。

 人々が不思議に思って空を見上げる。同時に映像も空を映す。

 そこに飛んでいたのは、巨大な鳥だった。怪獣かと思えるほどの巨大な鳥は、勢いよく滑空してきたかと思うと、鋭いくちばしを器用に使い大勢の人の中から適当に一人を摘まんで空へと舞い上がっていった。

 直後、悲鳴と怒号が町を揺らす。

 人々は慌てて近くの建物へと逃げ込もうとする。だが、それが呼び声となったかのように、その鳥はどこからともなく大量に現れ一斉に人々を襲い始めた。

 摘ままれ、持ち去られた人々は空中で口の中へと放り込まれていく。


「これは……」

「な、なにが起きているんですか!?」


 瞬く間に人で溢れていた町は静まり返った。通路には啄まれ引き千切られた体の欠片や、逃げる際のパニックで踏みつぶされた死体が転がり、警鐘だけが鳴り響く。

 鳥は町の上空をぐるぐると回りながら、まるで町全体を監視するようにその様子を見ている。

 しばらくすると兵士たちがやってきて大砲や弓を放つが、はるか上空を旋回している鳥に当たるはずもなく有効な手立てを打てずにただ茫然と空を見上げていた。


「れ、レイギス! あれは何!? 魔物!?」

(ああ間違いねぇ。イナニスペルドゥーム、俺たちが絶滅させたはずの魔物だ)

「そんなものが何で!?」


 しかも一匹二匹の話ではない。少なくとも、十匹以上の鳥が町の上空を飛び回り、町の外へ出ようとするものたちを次々に捕食していく。


(絶滅逃れは考えにくい。考えられるのは、遺伝子情報からの培養だ)

(誰かがあえて生み出したってこと!?)

(検索ワードは科学者だ。グロリダリアの科学者がやったってことだろ。くそっ! 誰がこんなことをしやがった!)


 だがこれだけで終わりではなかった。

 魔物の出現は確かに大事だが、それだけで記録に残っているようような更地になることはない。

 都市一つを更地にした原因。それが正体を現す。


「山?」

「山が飛んでいるの?」


 それは山としか形容できない物体だった。

 表面は土と木々に覆われ、山の近くにも同様の魔物が米粒程度の大きさになって飛んでいるのが映り込んでいるため、映像内でもその大きさがいやというほど理解できる。

 浮遊する山はゆっくりとした速度で上空を移動し、都市の真上へと到着した。すると、山の下部が轟音を上げ土を落としながら開いていく。

 そこにあったのは巨大な砲塔。真下に向けられた口がゆっくりと山の中からせり出し、その姿を露出させる。

 住民たちは完全にパニックになっている。だが鳥たちが町の外へと逃げるのを許さない。

 あの鳥たちはそのための先兵だったのだと理解すると同時に、その砲塔から光が放たれた。

 映像の全てが光に覆われ、そこで終わった。ナノマシンのカメラも破壊されてしまったのだろう。


「レイギス、あれはなに?」

(分からねぇ。あんなもん、グロリダリアには存在しなかった)

「じゃあレイギスたちが昇華してから作られたものってこと!?」

(月兎、変わってくれ。直接調べる)

「分かった」


 意識を入れ替え、()はパネルを操作する。

 先ほどの映像を表示させ、そこから山の画像を切り抜く。それを画像検索にかけ、同じものが映っている映像記録を探した。

 何個かの記録がヒットし、その内容を文章表示で一気に確認する。

 その中に気になるものを見つけた。

 イーゲル・ルーゼット。科学者でありながら、後年ナチュラリストとしてその実績の全てを捨てた男。昇華には加わらず、ナチュラリストとして生活していたはずのその男が多くのデータに残されている。

 迷わずその男に関して検索を掛ければ、出てきたのは男の行動履歴。

 昇華後二十年をナチュラリストの里で暮らし、その後里を出て行方不明に。だが何年かすると魔道具を持って新しく出来た村や町を襲撃したりするようになった。

 襲撃された町や村はどれも、ナチュラリストから袂を別った者たちの暮らしている場所だ。

 ナチュラリストが昇華後の世界で分岐し、一部が再び科学を手にするのは想定されていたことだ。そして考え方の違いが戦いに発展することも想定されていたが、この男はその想定通りにいわゆる過激派としてナチュラリストの活動を始めたのだろう。

 他の映像からは、遺跡から魔導具を持ち出し改造する姿も映っていた。

 その中には月兎達と倒したryu(白の厄災)の姿もあった。


「この男が」


 俺は奥歯を食いしばる。

 ナチュラリストのくせに科学を扱い、俺たちの想いを強引に歪めた元凶!

 そして男の寿命が近づくと、遺跡の一つを拠点として改造し肉体の維持を行いながら新しい魔道具の開発を行った。

 それが映像にあった山。ポナムデイ(神の罰)と名づけられた魔導具は、人口が一定数を超えて発展した都市に現れ、あの魔法で全てを消滅させる。魔物たちはポナムデイが上空に到着するまでに人を逃がさないための先兵として遺伝子を調整されていた。


「神の罰だと!? イカレた野郎のイカレた殺戮兵機だろうが!」


 怒りのあまり、近くにあった椅子を蹴り飛ばす。

 この魔道具は、ナチュラリストから分岐し科学によって発展した人だけを殺すための兵器だ。そして当時のヒラグの人口は五百万人。そこがこの魔道具の発動ラインってことか。

 ……今の都市の最大人口はどうなってる?

 慌てて別のパネルを開き、現在の最大人口を調べる。そこで俺は愕然とした。


「ヌムルスの五百二万人……」


 それはちょうどポナムデイのリミットと同じ数。

 あの魔導具がまだ生きているのだとすれば、ヌムルスがヤバい!

 あの魔導具は今どこにある!? 画像検索でヒットしなかったってことは落ちたのか? いや、外装の土が剥がれて画像と一致しなかった可能性もある。

 パネルにポナムデイと打ち込み検索を掛ける。

 過去からこれまでのポナムデイの映像と、現在地を記したマップが表示された。

 マップ上の点はゆっくりと動いている。まだ生きているってことだ。

 そして場所は――ヌムルスから約二千キロ。到着まで三日の距離まで迫ってきていた。

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