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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
六章 考古学者の少女とグロリダリアの魂
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6-9 生活環境に見る特製の変化

 現状を端的に説明しよう!

 僕たちは盗賊に囲まれていた!

 場所は遺跡へと向かう道中、乗り換え後に馬屋で馬を借り、あと少しで目的の町まで到着するというところだった。


「こういうのをフラグって言うのかな」


 確かに馬屋で、この辺りに盗賊がでるかもしれないっておじさんから話があったけど、フラグとはちょっと違うんじゃないかな。普通に事前情報だし。

 まあそんなことよりも――


「現実逃避してないで、対処を考えますよ。ステラさん、戦えますか?」

「まさか。私は生粋のインドア派ですよ」

「インドア派が国土横断して僕を追いかけて来たんですが……」

「月兎君が魅力的すぎたの」

「グダグダしゃべってねぇで、さっさと指示に従え!」


 盗賊のリーダーらしき人物が苛立ち声を荒げる。

 僕たちを囲んでいる盗賊たちは、皮の鎧を着こみ、手にはハンマーやツルハシ、後は弓が握られている。腕の筋肉もかなり発達しており、それらをよく振っていたことが想像できた。

 つまり彼らは元鉱夫だ。何らかの理由で生活を維持できなくなり、盗賊へと身をやつしたのだろう。

 プアル王国には存在しなかったタイプだな。向うの国だと探索者が盗賊落ちすることが多かったけど、鉱夫の盗賊落ちは聞いたことが無い。というか、プアルだとあまり鉱山自体が無かったからなぁ。

 彼らの要求は馬から降りて武装を解除することだ。けど要求を飲んだら何をされるか分からないので、当然従うことはできない。

 ステラさんは当然として、僕だって最悪慰み者にされる。僕は知っているんだ。男だってイけちゃう危険な人たちがいるってことを。


「上玉二人だ。楽しんでからでも金になりますね」

「壊さなけりゃな」

「大丈夫ですって。泣かすのが好きなんすから」


 くっそ、完全に女性側にカウントされている。

 けどわざわざ男だとバラして警戒される理由もないので、ここは黙っておく。後で覚えていろよ。


(レイギス、出来れば出て欲しいんだけど)

(月兎だけでも対処は可能だろ?)

(ステラさんの方が心配なんだよ。守りながらってやったことが無いから)

(チェックはしといてやるから、とりあえずやれるだけやって見ろ。相手はたった二十人だ。あいつらの目的は月兎達の体みたいだからな。弱いステラが斬り殺される心配はない。それに必ずしも全員を倒す必要はないんだぜ?)

(――そう言うことね)


 レイギスの言おうとしている意味を察する。


「ステラさん、逃げる準備を。切り込んで包囲を崩します」


 こちらは馬を持っている。対してあちらは徒歩のものたちが大半。馬も数頭いるようだが、追いかけて来たとしても数は減らせる。囲まれなければ、ステラさんを背中に庇いながら戦うことも十分可能なはずだ。


「無茶はしないでね」

「はい」


 ステラさんになるべく怖い思いはしてほしくないんだけど、やれるだけやってみよう。

 腰の剣を抜き、盗賊たちの様子を観察する。

 僕が戦う意思を見せたことで、向こうは警戒しているようだ。


(軍隊と違って盗賊仲間にケアはないからな。斬られた奴は楽しめねぇだろうし、仲間内で探り合いってところか)


「抵抗する気か! なら痛い目を見てもらうぞ! お前ら、やれ! 殺すなよ!」


 リーダーの指示で弓を持っていた男たちが矢を放つ。

 ステラさんは馬の体で飛んでくる矢をガードし、僕は当たる物だけ切り払う。

 

(鏃が潰してあるな。馬体に一本も刺さってねぇ)

(好都合!)


 一気に駆け出し、正面にいた盗賊へと剣を振り下ろす。

 咄嗟に相手はハンマーの柄で受け止めるが、強化された僕の力と業物の剣のおかげで木製の柄を容易く分断する。刃はそのまま男の肩口へと叩き込まれた。

 傷はそこまで深くはない。けど、もう武器を持つことはできないはずだ。


「気持ち悪い……」


 手に残った感触に思わずつぶやいた。


(そういやぁ、肉を切るのは初めてか)

(食肉なら歓迎なんだけどね)


 などと心の中で軽口を叩きながら、すぐ隣に迫っていたもう一人に拳を叩きこむ。

 何かしゃべっていないと、吐き気が押さえられそうにないんだ。


(ステラさんの様子は?)

(ステラは問題なし。矢が来るぞ。お前狙いだ)


 振り返れば上空に矢。それを再び切り払い、さらに斬りかかってきた二人を相手取る。

 一人の懐へと飛び込み胸倉を掴む、そして力任せにもう一人へと投げつけた。

 巻き込んで倒れる二人。そして四人分の包囲が無くなったことで、一画に穴が開く。


「ステラさん!」

「はい!」


 僕の声に反応して、ステラさんが僕の馬の尻を叩き、自分の馬へと飛び乗り手綱を振るう。

 尻を叩かれ走り出した馬に飛び乗り、僕とステラさんは盗賊の包囲を突破した。

 後ろからは「追え!」と声が聞こえてくる。けど盗賊の持っている馬は三頭しかなかった。それだけの人数ならいくらでも対処ができる。


「月兎君って強かったんですね」

「これでも探索者をしていますから、多少の荒事には対処できますよ。このまま町を目指します。町に近づけば、あいつらも追っては来れないでしょうし」

「そうですね。この子たちにはちょっと頑張ってもらいましょう」


 背後を振り返ると、三頭の馬で追いかけてきているが、二人乗りにしたせいか速度が出ていない。

 後ろに乗った男が弓を射かけてくるが、馬上からの弓なんてよほど訓練しても当たらないのだ。付け焼刃はあらぬ方向へと飛んで行ってしまっていた。

 そして三十分ほど逃走を続け、僕たちは完全に盗賊をまくことに成功するのだった。


   ◇


 町へと到着した僕たちは、馬屋へと馬を預け酒場に来ていた。


「生還と到着に!」

「「乾杯!」」


 逃走で疲れた体に、甘い果実水が染み渡る。

 ステラさんはワインを一息に飲み干し、ふぅと深く息を吐いた。


「ちょっと怖かったけど、なんとかなるものなんですね」

「こっちが身軽だったのも助かりましたね。馬車で来てたら逃げきれませんでした」


 馬を借りるときに馬車をどうするかという話も出たが、荷物の量がさほど多くはなかったので、馬だけを借りることにしたのだ。それが功を奏した形となった。

 ケチったことが功を奏すなかなか珍しいパターンだ。


「これは帰りも注意したほうがいいのかしら?」

「とりあえず衛兵に襲われたことは報告しましたし、様子見ですかね。もしかしたら動いてくれるかもしれませんし」


 辺境に向かうこの辺りの道は、使う商人の数も限られている。それに加えて盗賊が出るとなれば、貴重な商人を逃がしてしまう可能性すらあるのだ。

 この町からすれば死活問題だろう。となれば、討伐のために兵をだすことは十分考えられる。


「遺跡の調査後にもう一度盗賊の情報を確認して、注意するかどうか決めましょう。なんならどこかの商隊に混じってもいいと思いますし」


 今回は身軽さで乗り切ることができたが、まとまって動くことでも危険性を減らすことができる。襲われた感じ、盗賊の数は三十人程度。倍の数の商隊を組むことができれば、まず数で制圧できるだろう。


「そうですね。あまり先のことを考えても仕方がありませんか。それよりも今は遺跡のことを考えましょう。どんな遺跡なのか楽しみです」

「レイギスは何も教えてくれませんしね。ただ、ステラさんの役に立つということは歴史書なんかがあるのかもしれませんね。後は……辞書とか?」


 魔道具だろうしそれなら電子辞書とかになっていそうな気もするけど。


「歴史書! 辞書! 良いですね! おっと、思わず涎が」

「僕の想像なんでそこまで期待しないでくださいよ。外れていた時が怖いんで」

「あはは。大丈夫ですよ。遺跡の調査で私が期待外れを感じることなんてありませんから」

「それはそれで怖いんですが……とりあえず明日は準備と休憩に当てて、明後日出発しましょう」

「そうですね。食料の買い足しも必要でしょうし、山道用の道具も必要でしょうか?」

「そのあたりは町の人に聞いてみましょう。鉱山地帯の山道がどんなものなのか、僕も知らないので」


 この町からさらに西に広がっているのは、鉱山を含む山脈地帯だ。アップダウンが激しく、道もかなり険しくなっているらしい。

 一応鉱石を輸送するための道が整備されているらしいのだが、土砂崩れや滑落などにも注意をしないといけないとか。少し情報を集めて、自分たちだけだと厳しそうだと思ったらガイドを雇うことも考えておこう。

 僕たちは明日の予定を決めながら並べられた夕食を楽しみ、英気を養うのだった。


プアルの盗賊→探索者としてやっていけずに、村に帰っても食っていけないので盗賊落ち。

ヌワラーエの盗賊→探索者としてやっていけず、鉱夫として肉体労働をしていたが、鉱山の閉鎖などで職を失い盗賊落ち

そのため、ヌワラーエの盗賊は無駄に筋力があり、危険な場合が多いが数自体はプアルと比べると比較的少ない。

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