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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
六章 考古学者の少女とグロリダリアの魂
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6-7 男子一人に女子二人。お酒も入って秘密の会話

 町全体が真っ赤に染まるころ、僕は自室に女性を招き入れていた。

 いや、別に変な意味じゃない。色々と他の人には聞かれたくない話があるから、ステラさんたちを部屋へと招いただけだ。

 殺風景なワンルームだけどテーブルもあるし、小さめの声で話せば隣の部屋にも聞こえない。

 下の食堂よりはよっぽど内緒話に適した場所だろう。

 参加者は、僕とステラさん。それにピスミス隊長だ。いつもステラさんと一緒にいたペレオーレさんは隊長に仕事を引き継いで短い休憩に入っているらしい。


「さて。何から話しましょうか」


 色々と秘密にしていたことはあるが、先の一見でほとんどバレちゃったようなものだしなぁ。

 ただ、一部勘違いしているところもあるからそのあたりを整理していかないと。

 ステラさんは瞳を輝かせて僕の話を待っている。ピスミスさんも意外と興味深そうにこちらを窺っていた。


「まず僕自身がグロリダリア人というわけではありません。最初に自己紹介した通り、僕は日本という国から遺跡の転移事故によってこっちに飛ばされてきたのは事実です。その転移先であった遺跡にグロリダリア人、レイギスの魂が保管されていたんです。僕は遺跡を作動させ、その魂を体に取り込むことになりました」

「つまり月兎君とそのグロリダリア人、レイギスと言ったわね。彼はあくまでも別人なのね」

「はい」

「あの時人が変わったように見えたのは、本当に入れ替わっていたのね」

「この腕輪の魔導具を使うことで、意識的に人格を入れ替えることが可能です。ちょっと試してみましょうか」


 ()が腕輪のボタンを押し込むと、()が表へと出てくる。


「今人格が入れ替わったわけだな。俺がレイギスだ。嬢ちゃんたち、改めてよろしく」

「本当に別人だね」


 苦笑しつつ俺の差し出した手をピスミスとステラが交互に掴む。


「興味深いです。レイギスはグロリダリアではどのような立場だったんでしょう?」

「科学者だ。基本的には新しい魔法の構築や魔道具の製作をやってたな。今残っている遺跡は、全部俺たち科学者が残したものだ」

「遺跡の製作者!? はうっ……」


 ステラがガタンと音を立てて立ち上がったかと思うと、突然ふらふらとして席へと座り込む。

 興奮しすぎたな。まあ、オーパーツの製作者が出てくれば、その研究者が興奮するのは当たり前か。

 俺は魔法を発動させ、ステラの意識を安定させる。


「今のが魔法かい? 宮廷の魔法使いとは違い随分と簡単に発動しているように見える」

「おう。特定の詠唱と体内の魔力を利用して発動させる現象。違うように見えるのは慣れと効率化の問題だろう。究極的に効率化したものがいわゆる魔道具だな」

「なるほど。古代人はみな魔力が高く魔法が使えたと聞くが本当かな?」

「ああ。魔法は基礎技能だったな。しゃべる、歩く、ナイフとフォークを使う、魔法を使うって具合に、グロリダリアじゃ必須技能だ。これが出来ないと、まともな生活ができないと言ってもいい」

「そこまで浸透していたのか」


 二人――主にステラがひたすら俺へと質問を投げかけ、俺はそれに答えていく。

 途中、宿の従業員に俺の分の食事と追加で二人分を注文し、夕食を取りながらも質問会は続いた。

 伝承上で伝えられてきたことや歴史、魔法や魔道具など質問は多岐にわたる。

 俺は科学分野での回答は問題ないが、正直歴史は苦手だった。俺が生きていた時代のことは答えられるが、さすがにグロリダリア時代の始まりなんかいちいち覚えてねぇしな。

 そしてステラが満足げに肌をつやつやとさせたのは、質問会が始まって六時間後、だいたい日付を過ぎたぐらいだった。


「満足したか?」

「これほどの情報、清算するのにも何日かかることか」


 情報をメモした羊皮紙を抱きかかえつつ、ステラは頷く。

 なら満足してもらったところで、こちらから一つ聞いておこうか。


「ステラは今知った情報をどう使う?」

「どう、ですか?」

「魔法や魔道具に関してはかなり詳しく話したはずだ。今の知識なら遺跡なんかでも隠し通路を用意に見つけられるだろう。それだけの知識を有して、ステラは何をする。情報を独占して富を稼ぐのか、国に差し出して国力を発展させるか、それともステラの中で完結させ経験と発展を時の流れに任せるか」

「色々と協力してもらってますし、国に恩返しできればと思いますが」

「その結果に大勢の人が死ぬとしてもか」


 俺とピスミスの視線が同時に鋭くなる。

 ピスミスは気づいているな。それを知っていて黙っていた。

 ステラは逆に気づいていない。俺が教えた情報の本当の価値を。


「どういうことでしょうか。魔道具は人の発展に必ず貢献するはず」

「遺跡に残ってる物はそうだろうな。けど、新しい魔道具は必ずしもそうとは限らない。ピスミス、俺の情報があれば魔導具の新規製造は可能だろう?」

「そうだね。王宮にいる魔法使いならば可能かもしれないね」


 今の時代に会ったことはないが、魔法使いと言われる存在が少なからず存在している。

 それは俺たちグロリダリア人のように人為的に魔力を高めた存在ではなく、偶然に膨大な魔力を持って生まれてきた存在だ。

 具体的な数値は見てみないと分からないが、自力で魔法が使えるのならば魔導具の製作も可能なはずだ。

 そして一つの国が魔道具の製作方法を独占し、一般人にも使える兵器、例えば魔導式のライフルを製作したとしよう。

 隔絶した力を手に入れた国が行うことは、力の誇示と欲望の肥大化だ。

 つまりは他国への侵略戦争である。

 資源が有限である以上、この歴史の流れは変えられない。それこそ、俺たちのように昇華でもしない限りは。


「戦争とも呼べるかどうか怪しい虐殺侵攻が始まる可能性を孕んでいるわけだ。それをステラは受け止めきれるか?」

「そんな……わたしはそんなつもりで情報を出すわけでは」

「出所の意思なんて関係ない。人が知り、研究し、発見するものはいつだって別の意思が絡んで変化していく。仮にステラがこの技術の戦争利用を禁止するように意思を示したとしても、せいぜい一代二代もてばいいところだろう。ま、そのころにはステラも死んでるから関係ないだろうけどな。これはピスミスにも言える。あんたはどうするんだ?」


 俺はワイングラスを片手に寛いでいるピスミスへと視線を向ける。


「私はメモを残しているわけでもないし、酔っぱらいながら聞いてたからなぁ。あんまり関係ないんじゃない?」


 へらへらと笑ってそんなことをいうが、俺は鼻で笑って一蹴する。


「そうやって商会連中の情報も仕入れたんだろ? 表情の変化が素面の時と変わってねぇぞ。酔ってるように見せたいんだったら、もうちょい視点を集中させずに視線の動きを揺らすべきだな」

「ふーん」


 ピスミスの視線は酒を飲みながらも常にステラのメモへと集中していた。会話の中で理解できない部分をステラの纏められたメモから収集していたのだろう。

 確かに今のピスミスの情報量ならば、基礎となる部分が不足している。人に教えるにしても理解できない部分があって教えることができない可能性もある。

 だが、基礎的な知識を学べばそれが可能になるというのならば、ピスミスにも引き金を引くことは可能だ。


「流石はグロリダリア人の科学者というべきかな?」

「グロリダリアの天才科学者だからな」

「ま、私は個人利用に留めるかなぁ。今以上の権力にも興味ないし、部署移動させられても部下との関係構築が面倒だから。ペレオーレみたいな優秀な副官がどこの部署にもいるとは思えないしね」


 ここでこれ以上の追及は意味がないな。


「なるほど。で、ステラは? 考えがまとまったか?」

「私は……すこし考えさせてもらえますか?」

「構わねぇよ。その間、メモは預かっとこうか?」

「お願いします」


 ステラは大事に抱えていた羊皮紙の束を俺の前へと差し出す。それを受け取り、カバンの中へとしまった。


「俺たちと旅をすれば、きっと俺たちの技術がどういうものか理解できるはずだ。それを知ってから判断するのも悪くない」

「ありがとうございます。ではしばらく一緒に行動させていただいても?」

「俺は構わねぇ。けど国境を渡るつもりだが、そっちは大丈夫なのかい?」


 特務部隊とはいえ、ピスミス達は軍人だ。軍の部隊が勝手に他国へと入るわけにもいかないだろう。


「そうだね。一度国から申請を出してもらわないといけない。まあ、君ならステラを守ってくれるとは思うから、先に行ってもらっても大丈夫だと思うけど。どこかの町で待ち合わせという感じでいいんじゃないかな?」

「そうか。ま、その辺りは今度話を詰めることにして――」


 俺は一度大きく伸びをする。

 流石に六時間越えの質問会は体に来る。


「そろそろお開きとしようぜ」

「そうだね。婦女子が遅くまで男性の部屋にいるべきではないだろう」

「では失礼します。おやすみなさい、良い夜を」

「おう、良い夜を」


 ひらひらと手を振って二人が部屋を出て行くのを見送る。そして意識を入れ替えた。

 表に出てきた()は残っていたワインを飲み干してレイギスに尋ねる。


「少し言い方がキツイんじゃない? ステラさん、けっこうまいってたと思うけど」

(あれぐらいでいいさ。科学者ってのは目の前の情報に舞い上がると何をしでかすか分かんねぇからな。冷や水ぶっかけるぐらいしないと、冷静になれない)

(それは経験則?)

(そういうこと)


 たぶん、ヤバい魔法か魔道具を開発しちゃったことがあるんだろうな。

 あほっぽく天才を自称しているレイギスだけど、セフィリアさんの話を聞く限り本当にグロリダリアの科学者の中でも飛び抜けた才能を持っていたみたいだし。


(ステラがどういう選択をするにしても、俺は否定するつもりはない。それはあいつ自身の選択だし、覚悟して決めたことなら結果はどうあれちゃんと受け入れられるからな。それよりあのピスミスって女だ。ああいう何考えてんのか分からねぇ女は苦手だ)

(少し注意しておく?)

(つってもこの後は別行動だ。今は放置しかねぇだろ。言ったようにあいつには知識が足りねぇ。メモ用紙も回収してあるから、即座にどうこうはできないはずだ)

(その為の回収だったんだ)

(ま、そう言うこった)


 ちゃんと予防線を張ってあるなら大丈夫。

 そう考えて、僕はベッドへと倒れ込むのだった。


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