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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
六章 考古学者の少女とグロリダリアの魂
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6-1 露骨だろうが、歯向かわれなければ犯罪にはならないんですよ

 シェンブルから定期馬車に乗り約一日。僕たちは当初の目的地であるメロウへと到着した。

 港町だというから、もっと船が並んでいる光景を想像していたのだが、実際には大型船が一隻あるだけで、後はボートのような小型艇がずらりと桟橋に並んでいる。

 どちらかというと小さな漁村を思わせる光景だった。

 ただ、町はしっかりと大きく、町の入り口から港まで出るのに三十分も歩く羽目になったけど。


(とりあえず今日はここで一泊かな)

(国境を超えるのに手続きとかいるだろうしな。朝から並ぶのが一番だろ)

(そうする。それになんか厄介ごとがありそうだしね)


 僕は露店を見るふりをしつつ、視線を横へ向ける。そこには、路地からこちらの様子を窺う男の姿。

 町の入り口からなにやら付けられているというか監視されているというか、そんな感じだ。


(どう思う?)

(何度か路地に入っても動きは無かった。物盗りって感じじゃねぇな。監視にしても少し下手じゃないか?)

(本職じゃないのかも?)

(となると、あんまり警戒する必要はないかもな。あらかた、国の監視だろう。色々やらかしてるし)

(あり得ないとは言えないよね)


 王城に侵入したり、王子様蹴ったり、魔道具を勝手に使ったり、その上で説得したならまだしも、半分は脅しみたいな状態で逃げてきちゃったわけだし。

 実害が無かったから監視に留めることにしているのか、それとも僕たちの実力を危険視して手を出さないようにしているのか。

 僕だけの実力ならば、国の騎士団が動けば押さえ込まれてしまうだろうけど、今は腕輪がある。気絶させられなくてもレイギスと入れ替われるから、魔法で逃げることは簡単だ。

 けどなるべく争いは無しの方向にしたいよね。


(じゃあとりあえず放置の方向で。夜だけ注意しておこうか)

(だな)


 方針を決め、僕たちは露店で果物を一つ買い宿へと戻るのだった。

 そして翌朝、予定通り港へと顔を出す。

 ちょうど夜明けごろから寮に出かけていた漁船が戻ってきたのか、港町は水揚げで活気に溢れている。

 新鮮な魚は即座に市場へと並べられ、瞬く間に売れていった。

 そんな光景をしり目に、僕は港に設置された入国管理局へと向かう。

 宿で少し聞いたところ、そこで越境船のチケットが販売されているらしいのだ。だがそれを教えてくれた宿のおばちゃんの様子は少しおかしかった。

 詳しく話を聞いてみれば、今の越境船のチケットはかなり割高になっているらしい。理由は分からないと言っていたが、三倍近くの値段になっているなんてどう考えても異常事態だ。

 だからと言って越境を諦めることもできない。今日はその原因も聞きに来ていた。

 入国管理局の中は外ほどの熱気はないが、それでも結構な人で溢れている。三倍の値段になっても国境を渡らなければならない人たちだろう。

 彼らは高いチケットに文句を言いつつも、仕方がないとしぶしぶ購入していた。


(何が起きてるんだろうね)

(おい、あっちに張り紙があるぞ。人だかりもできてるみたいだ)

(本当だ)


 何かお知らせでも書いてあるのかと、僕は人だかりの中に飛び込み張り紙を読んでみる。

 そこには、チケットの値上がり理由が普通に書かれていた。


(越境船の相次ぐ故障か)


 その理由は、越境できるだけの装備を備えた船の相次ぐ故障だった。

 プアル王国とヌワラーエ王国の間を流れるこの川は、広いだけでなく川底の変則的な構造のせいで変な流れが生まれているらしい。

 そこを超えるためにはある程度の大型船か、特殊な装備を装着した中型船でなければならないらしい。

 その船は各商会や舟渡が個人で所有しているものだが、その中の三隻を残して全ての船が何らかの故障を発生させているらしい。

 そのせいで人員や貨物の輸送が追い付かず、チケットの値段が跳ね上がっているという訳だった。


(あからさまだな)

(隠す気もないって感じだね)


 どう考えても、その三隻を所有している舟渡達の陰謀だろう。

 張り紙の回りの人たちもそれが当然のように噂している。

 ここまで露骨だと疑う余地もないのだが、その舟渡たちが金でかなりの権力を買っているらしく、大っぴらに批判が出来ないのだとか。

 逆に言えば、だからこそここまで露骨にできるのだろう。

 しかも人員輸送のチケットは三倍に値上がりしているが、貨物輸送に関しては値上げをしていない。そのおかげで、物流の停滞は起こっておらず国も介入しにくい状態だとのこと。

 独占禁止法なんてものもないから、強いところはやりたい放題だね。


(まあ理由は分かった。どうするよ?)

(素直にあのチケットを買うのも癪だよね。それに、特殊な装備って魔導具みたいだし)

(舟艇保護や強力な推進器なんかは結構遺跡に残したみたいだしな)


 レイギスも、王都地下の世界地図でそれは知っていたらしい。


(その魔導具、僕たちで直せば無料で送って行ってもらえないかな?)

(いい考えだ。ついでに人助けもできるしな)


 善は急げ。僕たちは早速入国管理局を後にすると、壊された越境船の持ち主を探して港で情報収集を始めるのだった。


   ◇


 越境船の持ち主の情報は、殊の外簡単に手に入った。

 越境船を保有しているだけで港では珍しく、持ち主は全員ある程度の知名度があったからだ。

 その中で僕たちの目に留まったのは、中型船を魔道具で補強し越境船を運航しているとある舟渡の親子のことだ。

 他の舟渡が商会や金融からすでに融資を受けて船の修理を始めているのに対し、この親子のところだけがまだどこからも助けを得られていないからだ。

 その理由は、その親子の使っている魔道具がかなり老朽化しており、いつ故障してもおかしくなかったということと、親の体調不良による廃業が近い可能性があるということだ。

 融資する以上は利益を回収できなければならない。それができないと判断された親子は、どこからも援助を受けられずにいるというわけだ。

 強い背後がなく、魔道具の修理で船を出せる。

 言い方は悪いが、僕たちにとってもちょうどいい相手だと言えた。

 ちなみに、港のみんなは親子というが、正確には祖父と孫らしい。両親は水難事故で亡くなったのだとか。

 親子は自力で魔道具の修理をしようとしているらしく、この時間はいつも港の倉庫にいるのだとか。

 それを聞いた僕は、そのままの足で教えてもらった倉庫の場所へと向かう。

 港の片隅に立てられたボロボロの倉庫からは、カンカンと鉄を打つような音が聞こえてきていた。

 そっと中を覗いてみると、船のスクリュー部分で何やら作業をする二人の女性の姿。

 一人は良く日焼けした銀髪の少女。もう一人は眼鏡をかけたやや小柄な少女だ。

 親子だけって聞いていたんだけど、協力者がいたんだろうか?


(協力者がいると、僕たち不要になる?)

(簡単に魔道具の修理ができるとは思えねぇ。娘さんの友達とかじゃないか? とりあえず声掛けてみろよ)

(何と言うか、女性二人って凄い声を掛けずらい)


 おじいさんがいればすぐにでも声を掛けたんだけど。

 そう思いながら覗いていると、不意に影が差した。


「お前、そこで何をしている」

「え!? うわっ!」


 急に掛けられた声に振り返れば、アルメイダさんを思い出させる筋骨隆々な白髪の男性が立っていた。

 その圧迫感に驚き、尻もちを付いてしまう。

 そんな声と音がすれば、当然中にいた二人の女性もこちらに気づき僕を見つける。


「さては貴様、またワシの船に細工をしに来たな!」

「ち、違います違います! 町で話を聞いて、何か手伝えることがあればと思って」

「そんな都合のいい奴がいる者か! 衛兵に突き出してやるわ!」


 襟首を持ち上げられ、軽々と抱えられてしまう。


(レイギス! どうしよう!)

(聞く耳持たないって感じだな。衛兵にちゃんと説明すれば?)

(そんなぁ!)


 取り調べ前提なの!?


「おじいちゃん、どうしたの?」

「ミレイナ、怪しい男を見つけたぞ。もしかしたら、ワシの船に細工をした犯人かもしれん」

「ほんと!」


 褐色の少女が瞳を輝かせる。彼女が娘さんの方らしい。


「違います! 僕は魔道具の修理が得意なので、手伝えることがあるかもしれないと思って!」

「魔導具……待ってくださいロンドルさん! 君、もしかして月兎君?」

「え、僕を知ってるんですか?」


 眼鏡の少女の方がなぜか僕の名前を呼んだ。

 それに思わず反応すると、少女は担がれた僕の元へと駆け寄り、僕の体にヒシとしがみつく。


「ようやく見つけたわ! ついに捕まえたわよ! もう絶対に離さないんだから覚悟しなさい!」

「え、なに? ステラの思い人なの!?」

「なんと……では女史の言っておった待ち人であったか」

「初対面なんですけど!?」

「ステラ片思いだったの!?」

「相手が認知すらしておらんとは。凄い執着心じゃな」


 混乱極める空間の中で、僕は突然告白をしてきた少女の顔をまじまじと見つめる。

 ――やっぱり君、初対面だよね!


「あなたの秘密、私に全て教えて頂戴ね!」

「秘密?」

「そう! ズバリ古代人としてのあなたの知識よ!」


 おっと、これは変な方向に拗れ始めたぞ。

 レイギス案件な気がしてきた。


(おい、俺は関係ないぞ)

(けど古代人のことバレてるし)

(とりあえずいったん撤退したほうがいいな。月兎、入れ替わるぞ)

(あ、うん)

「ステラ様、興奮するのは分かりますが落ち着いてください! 皆さん混乱しておられます!」


 僕は腕輪のスイッチを押そうとした瞬間、第三者の声によってその場が静まった。


「ハッ、そうね。ごめんなさい。ちょっと興奮しすぎたわ」


 ちょっとどころではなかった気がするけど。


「ロンドル殿、その方は犯人ではありません。私たちが身分を保証しますので、放していただけますか?」

「むっ、そうか」


 おじいさんは兵士さんの言い分に従って僕を地面へと下してくれる。

 これは逃げる必要がなくなったかもしれない。


(二度手間にならなかったのは助かったな)

(うん。計画もそのまま進められるかもしれないし)

「とりあえず皆さん、落ち着いたところで話しましょう。そうすれば色々と解決するはずです」


 兵士さんの案内に従って、僕たちは倉庫の奥にある小さな事務所へと入って行くのだった。

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