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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
五章 星霜の思いと眠りの魔導姫
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5-1 地下遺跡でお宝発見! そう都合よくはいかないが、拾いものはあった

 人が倒れている。

 いや、まあ路地裏とかならあり得ない話でもないんだけど、ここ王都の地下遺跡だし。


(どうしよう)

(とりあえず生きてるかだけ確かめたらどうだ?)

(うーん)


 ちょっと近づくのが怖いけど、やるしかないか。

 恐る恐る近づき、足先で二の腕を突いてみる――僅かに反応があった……かな?

 荷物を背負ったままうつ伏せに倒れていたので、とりあえずカバンを引っぺがして仰向けにする。そこで初めて女性だと気づいた。

 僕よりも少し年上かな? ちょうど二十歳ぐらいの灰色の髪の女性だ。


(色っぽい姉ちゃんだな。月兎が見つけてなきゃ、お持ち帰りされてたかもな)

(確かに、探索者って荒っぽい人多いからなぁ。けど、行き倒れを拾いたい人とかいるかな?)

(世の中、趣味は広いからな)


 とりあえず調べてみると、呼吸も脈もちゃんとしている。顔色もそこまでおかしくはないし、病気というわけでもないかな?

 じゃあなんてこんなところで行き倒れているんだろう?

 とりあえず持っていた水筒の水を少しだけ唇に触れさせてみる。すると、僅かに口を開き、水を飲んだ。


「うっ」


 女性の目が薄っすらと開いた


「あ、気が付きましたか?」

「ここは……」

「王都の地下遺跡ですよ」

「そうか、私は」


 なにか事件に巻き込まれたのかな?


「道に迷って……食料が尽きて……」


 特に事件性はなさそうだった。

 どうやら、地下遺跡で迷子になっていたようだ。

 この遺跡、王都の地下に張り巡らされているだけあって、探索済みのエリアでさえかなり広い。僕はここに入る前に前もって酒場で少し情報収集をして、地図も購入してあるから大丈夫だけど、もし地図がなかったらマッピングだけでかなり苦労しそうではある。


「地図を持ち込まなかったんですか?」

「買った。だが、私は道に迷った……」


 どうやら地図が読めないタイプの女性らしい。

 とりあえず体を起こさせ、壁際にもたれ掛けさせる。


(干しレーズンがあったろ。あれなら食べられるんじゃないか?)

(そうだね)

「とりあえずこんなものしかありませんが」


 持っていた食料の中からおやつ代わりに買っておいた干しレーズンを差し出すと、女性は一言礼を言ってから受け取り口へと運んだ。

 警戒心がない……というよりも、警戒している余裕もない感じだろう。なんせ空腹で行き倒れているぐらいだし。

 女性は何度か咀嚼した後、ゆっくりとレーズンを飲み込む。


「お水もどうぞ」

「ありがとう。少し楽になった」

「はぁ。まあここで会ったのも何かの縁ですから。良かったら外まで案内しますよ?」

「頼めるだろうか。報酬はこんなものしかないが、受け取ってくれ」


 女性がポケットから取り出したのは羊皮紙。僕はそれを受け取り中を開く。

 地図のようだ。だけど、僕が買った地下遺跡の地図とは違う。


「これは?」

「未発見の隠し通路の場所を記した地図だ。偶然手に入れて、そこへ行こうと思ったのだが」

「道に迷ったと」


 なぜ地図が読めないのを分かっていて、地図で向かおうとしたのか。とりあえず仲間誘うか案内人ぐらい雇おうよ。


「面目ない」

「とりあえず一度遺跡を出ましょう。立てますか?」

「ああ、大丈夫だ」


 壁に手を当てて、女性はゆっくりと立ち上がる。


「そういえば自己紹介がまだだったな。私はシェリス。見ての通りソロの探索者だ」

「僕は月兎です。僕もソロです」


 簡単に握手を交わし、僕たちは遺跡を後にする。

 そしてやってきたのは、北門の近くにある冒険者酒場だ。

 ここまでくる間も、シェリスのお腹が鳴りっぱなしだったし、早急に食事の必要性を感じたからだ。

 僕は適当に店員のおすすめを注文して、料理が来るのを待つ。シェリスさんはなにやら聞きなれない名前の料理があるかを確認していた。それが好物なのかな?

 料理を待つ間に、僕は地図のことについて聞いてみる。


「この地図の先に何があるとか分かっているんですか?」

「うむ。魔導具の地図だ」

「地図?」

「それがあれば道に迷うことはなく、的確に求めた場所へと行けるらしい。私は重度の方向音痴でな。それがあればもう道に迷うこともなくなると思ったんだが」

「なるほど、それで探していたわけですか」

(で、レイギス。真偽のほどは?)

(カーナビみたいなもんならあるぞ。それだとすれば、確かに迷いにくいだろうな)


 なるほど。常に道を説明してくれるなら、確かに迷う心配はない。

 この時代で方向音痴の人からすれば、喉から手が出るほどに欲しい一品だろう。

 王都の地下なら、そんな魔道具があってもおかしくはない。


「なるほど、地図の魔導具。ちょっと興味がありますね」

「良かったら使ってくれ。私には無理だったが」

「それなんですけど、なんなら一緒に探索してみますか?」


 僕たちにとってはさほど必要というわけでもないし、魔道具自体はそっちに上げちゃってもいい。とりあえず隠し通路を見つけられたのなら、そこからまた別のルートに入る道があるかもしれないし、安置されている魔道具がその地図の魔導具だけとは限らない。


「いいのか?」

「もし別の魔導具が安置されていれば、そっちは欲しいですが」

「もちろん構わない。私が欲しいのは地図の魔導具だけだ」

「では明日、一緒に潜りましょうか。朝の受け付け開始時間に北門に集合ということで」

「うむ、よろしく頼む。では今日は景気付けにしっかり食べておくとしよう!」

「倒れるほどに胃が弱ってたんですから、ほどほどにしてくださいよ」


 腹痛で明日出発できなくなったとかは嫌だし。


「分かっているさ。飢餓状態からの復帰は慣れたものだ」

「それだけ行き倒れていたってことですか。良くこれまで生きてこれましたね」

「サバイバル知識だけはひたすら身に付けたからな。食べられる草、キノコ、木の実、そういうものを食べてギリギリで生き残っていた。だがそれも今日まで! 私は方向音痴の呪縛から解放される!」

「お待たせしました! 当店名物、王都ハンバーグのセットになります」


 あ、それは僕が注文したものだ。


「それとこちら、ソンクークです」


 ああ、確かそんな名前だった。

 シェリスさんの前に置かれたのは、底の深いどんぶり。その中に並々と注がれているのは、おかゆのように見える料理だった。


「それなんです?」

「知らない? 麦粥だよ。出汁とか具とかしっかり入っているから、病気とかの時に食べるのとはまた違うけどね」

「なるほど」


 麦粥か。確かにそれなら胃が弱っていても大丈夫と。

 復帰後の食事も慣れたもんなわけですね。


「この最初の一口が、生きてるって実感させてくれるんだ」


 嬉しそうに麦粥を頬張るシェリスさんだが、言っていることは割と洒落にならないレベルのことだったりする。

 瀬戸際が当たり前すぎて、感覚がおかしくなってるよ……

 とりあえず僕は名物らしいハンバーグを一口。うん、美味しい。そんな目をしてもあげませんよ。ちゃんとおかゆを食べていてください。


   ◇


 翌朝、約束通り北門で待っていると、少し遅れてシェリスさんがやってきた。


「すまない。待たせてしまったか?」

「大丈夫ですよ。なんとなく予想はしていましたから」


 何度も行き倒れるレベルの方向音痴が、王都で迷わないはずがないと思っていた。むしろ、もっと時間がかかると思ってたから、早いぐらいだ。


「やはり鐘二つは早く出るべきか」

「シェリスさんの泊っている宿ってここからそんなにかからないですよね……」


 というか体感五分もかからなかったはずなんだけど、なんで二時間前に出る必要があるのか。

 やはり方向音痴というのは良く分からない。


「とりあえず、ちゃんと出会えたことですし、早速遺跡に入りましょう」

「そうだな。よろしく頼む」


 僕をパーティーリーダーとして臨時のパーティーを組む。

 と言っても、特に何かあるわけではなく、受け付けを纏められるぐらいか。後はどっちかが遺跡で死亡した場合に連絡する義務があることぐらい。

 特にメリットもデメリットもないが、わざわざ別々に入る必要もないしね。


「臨時パーティー、二人です」

「確認しました。中へどうぞ」


 階段を降りて、道を進む。

 地図上ではとりあえずしばらくは道なりに進み、部屋に出たところで隠し通路へと入るようだ。

 特に問題もなく、目的の部屋へと到着する。

 部屋の扉は案の定持ち去られており、部屋というよりも休憩所と言った印象になっちゃってるね。


「この部屋に隠し通路があるみたいですね。何か開けるヒントとかって知ってますか?」

「いや、私が見つけたのはこの地図と安置されている魔道具の話だけだったからな」

「じゃあしらみつぶしに行きましょう。僕は右から。シェリスさんは左からで」

「分かった」


 特に変哲もない石造りの壁だけど、地図からするとここのどこかに隠し通路がある。


(魔力反応式かな?)

(そういうのはあんまりないと思うんだけどな)

(そうなの?)

(俺たちが遺跡を残す時点で、未来の人間に魔力を多く有する可能性は少ないと考えられていた。だから残す魔道具なんかも、周辺魔力だったり、微量の魔力を使う物しか残してない。なのに、隠し通路だけ魔力反応型にする理由もないだろ?)

(確かに。ならスイッチやレバーか。となると、どこかの石が動いたりするのかな)


 丁寧に一枚ずつ石壁を触って確かめていく。

 すると、シェリスさんから声が掛かった。


「月兎、こっち」

「なにかありましたか?」


 シェリスさんの元へと駆け足で向かうと、シェリスさんは床の石畳を一枚触っていた。


「これ、すこしだけ動く。外れるかもしれない」

「やって見ましょう」


 指を入れる隙間は無かったので、解体用のナイフを石の隙間へと突っ込む。そのままてこの原理で石を持ち上げると、石の下にはハンドルが設置されていた。


「シェリスさん、大当たりみたいですよ」

「回してみる」


 シェリスさんが両手でハンドルを握り、ゆっくりと回していく。

 すると壁の中で何かが動く音が響き、やがて部屋の奥にある壁の一部が砂埃を上げ始めた。


「重い」

「手伝いましょうか?」

「大丈夫! よいっしょ!」

(月兎見ろ! 垂れた胸が揺れてる! エロい!)

(それ今言う!?)


 気にしないようにしていたのに……

 シェリスさんはぐっと力を込めてさらに回す。すると砂埃を上げていた壁が扉の形に凹み、横にスライドしていく。

 そして完全に動かなくなるまでハンドルを回すと、僕たちの探し求めていた隠し通路が開通した。


「やった」

「ええ。早速行きましょう」

「うん」


 隠し扉を越える。

 地図によれば、この先の空間までは一本道。そこに地図の魔導具があるということだけど。


「どんなものか楽しみだ」

「そうですね。有用なものだと良いですけど」


 気持ち速足になりながら通路を進んでいくと、先に明るい空間が見えた。

 シェリスさんはもはやダッシュである。

 僕はその後を追って駆け足で進む。そして部屋の中に飛び込み、その光景を目にした。


「これは……」

「すごい」


 そこにあったのは、壁一面に描かれた世界地図だった。

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