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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
四章 王族の少女と豊穣の魔導具
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4-11 テンプレも良いものだけど、テンプレしかないのはちょっと……

「滅びるは言い過ぎかもしれないわね。けど、この国の中だけで数千人規模の死者が出るのは間違いないでしょうね。少なからず外の国にも影響は出るわ」

「儀式っていったい何なんですか! この国の地下で何をやっているんですか!?」

「詳しいことは私も教えられていないわ。それを知っているのは陛下と正妃様、それに皇太子様だけ。陛下と、それを継ぐものにしか詳しいことは伝えられていないの」

(レイギス! 魔導具に国一つを対象にした魔道具ってあるの!?)

(国を対象にしたものはいくつかある。だが、数千人規模で人が死ぬ魔道具なんてもんは存在しねぇ。そのあたりの規制はかなり厳しかったからな)

(レイギスたちが昇華した後に開発した可能性は?)

(難しいはずだ。魔道具のパーツだって、全部自作している訳じゃない。それぞれのパーツの製造も流通も停止してんのに、新しくそんな大規模な範囲の魔導具を作れるとは思えない。そんなことは俺にも無理だ)


 レイギスは否定した。なら、この地下の遺跡にあるのは魔道具じゃないの?

 それとも、レイギスたちがいなくなってから何かが発明されたのか?

 そうだ。レイギスが何個か見つけた狂った魔道具なら。


(狂った魔道具の可能性は?)

(ゼロじゃない。可能性のある魔道具は何個か思い浮かぶが、実際に見て確かめる必要がある。だが、その場合はそこまで深刻になる必要はない。俺が直せばいいだけだからな)


 そうだ。狂った魔道具なら、レイギスが直すなり破壊するなりできる。

 ティアを贄にしないための方法。それを知るためには何より、その儀式の場を見る必要がある。

 なにを行い、なにが起きているのかを知ることができれば、対処方法も浮かぶはずだ。


「私も一人の親としてはあの子を助けたい。だけど、私は陛下の妾。王族の末席に名を連ねているの。そうである以上、国の民を苦しめる選択を取ることはできないわ。だから――「分かりました」


 シルフェスティさんの険しかった表情が、僕をここに呼んだ時のような穏やかな表情に戻った。

 だけど僕の考えは、きっとその表情を破壊するものだ。


「シルフェスティさんがその心情に則って動けないというのならそれで構いません。僕はその決意を変えられるほどシルフェスティさんのことを知りませんし、他人の想いを強引に捻じ曲げたいとは思っていません」

「ありがとう」

「だから僕は、僕の心情に則って遺跡に行ってみようと思います」


 それは僕が、この問題から手を引くつもりはないという宣言。

 争いは良くない、話し合いで解決策を探すべきなんて多くの人は言うけど、お互いの意思がぶつかり合ったとき、そこにはもはや話し合う余地はない。

 どこかで必ず戦わなければいけない一線というのは存在すると思う。

 たぶんここがその一線なのだろう。


「僕は心から助けて欲しいと願う人を裏切ることはできません。今は僕に何ができるかまだ分からない。だけど、最後まで諦めるつもりはありません。できること全部やって、みんなで良かったねって言える結果を見つけてみせます」

「なぜそこまで? あなたは他人でしょう? つい先日、たまたま偶然すれ違っただけなんでしょ? なぜそこまでしてティアを助けようとしてくれるの?」

「ティアに助けを求められて、僕が助けたいと思ったからです」


 あの子に心臓を貰って生き永らえたこの命を、僕は自分のためだけには使いたくない。

 そんなことをあの子に言えば、鼻で笑って僕の命なんだから好きに使えって言うかもしれない。

 けど違う。

 僕は好きに使っているんだ。人を助けるっていう僕の意思のために。


「手を引いてはくれないのね」

「はい」

「つまり王国と敵対すると」

「――はい」

「分かったわ。遺跡には王城の地下から行けます。これが私がティアのためにできる最大の譲歩」

「ありがとうございます。シルフェスティさん」


 シルフェスティさんだって本当は自分の娘を生贄なんかにしたくないんだ。だから助けようとしてくれるのなんて聞き方になったんだろうな。

 あの人もきっと心の奥では助けを求めているんだ。

 なら僕は、あの人の気持ちも背負ってティアを助けよう。


(レイギス、行くよ)

(おう!)


 僕はシルフェスティさんに一礼して王城に向けて走り出す。

 その後ろでは、シルフェスティさんが侵入者だと、声を上げて兵士たちを呼び寄せていた。


   ◇


 シルフェスティさんが兵士を呼んだことで、後宮と王城の間の扉に警備の兵がいなくなっていた。

 僕はそこを通って王城へと侵入する。

 どこを歩いてもふかふかのカーペット。

 音が出ないのは助かるけど、周りの足音も聞こえないのはちょっと面倒だな。

 廊下の角で顔を覗かせ、誰もいないことを確認する。


(地下への階段ってどっちかな?)

(知るわけねぇだろ。走れ走れ!)

(もう! こんなことならちゃんと聞いておけばよかった)


 勢いで走ってきちゃったけど、そもそも城内の間取りを知らないんだから地下って聞いても意味がないじゃないか!

 あの人、本当は僕を本気で捕まえるつもりだった!?

 そんな疑いを持ちたくなるほど王城の中を彷徨って、ようやく地下への階段を見つけることができた。

 道中、なぜか三階まで登ってしまったときはどうしようかと思ったけど、何とかなってよかった。

 階段を使って地下へと降りる。そこは食料や武器の倉庫になっていた。

 さらに奥へと通路は続いており、その先には鉄格子がある。

 警備兵のような人はいない。ただ鍵が閉ざされているだけだ。


「この先かな?」

(牢屋って可能性もあるが、それっぽい雰囲気だな)


 牢屋なら看守なりなんなり少なからず人がいるだろうしね。

 ならこの奥に行く方法を探さなきゃ。


(鍵はどうせ王が持ってんだろうぜ。考えるだけ無駄だから、強引に行っちまえ)

(っていっても僕の力じゃ流石に無理だよ)


 身体強化されているとはいえ、鉄パイプを曲げらられるほどのものじゃないし。


(鉄が駄目でも石なら削れる。鉄パイプを支えてる土台を砕くんだよ)

(なるほど)


 まだコンクリートで固めているわけでもないパイプの土台は、穴を開けたレンガになっていた。

 周囲に三個ほどを少し深くまで破壊すればパイプをずらすことぐらいは出来そうである。


(なら!)


 僕は剣の先でガンガンとレンガを砕く。

 案の定、レンガを数個砕いた時点でパイプが動くようになり、僕は広がったパイプの隙間に体を滑り込ませ鉄格子を突破する。


(よし、行くよ)

(月兎の体が小さくてよかったな! アルメイダみたいだったら、斜めにしても通れなかったぞ)

(アルメイダさんなら、自力でパイプを捻じ曲げそうだけどね)


 さすがに無理だと思うけど、あの筋骨隆々とした体を思い出すとできそうな気がしてきてしまう。

 そんなことを考えつつ、鉄格子の先を進んでいく。

 すると、異質な扉を見つけた。

 鉄の扉に装飾を施してあるのは、以前見た遺跡と同じような特徴だ。だが、その装飾は華やかなものではなく、左上に太陽、右上に月、そして下部には大地のような弧を描いた直線が描かれていた。

 その絵に反応したのはレイギスだ。


(懐かしいな)

(これは?)

(グロリダリアの国旗、というより国って括りはなかったから統一旗みたいなもんだな)

(これがグロリダリアの統一旗)

(昼も夜も、その地上全てを管理する。確かそんな意味だったかな?)

(凄い不遜じゃない?)

(実際そうだったしな)


 グロリダリアという統一された世界で、どこかの昼はどこかの夜であり、また逆もあり、常に人は地上を知り、情報によって繋がっている。

 ある意味現代の地球もそれに近いけど、国の括りはやっぱり根深いものがあるからなぁ。それすら取っ払えるほどの技術力って一体どんな世界だったんだろう。


(ま、ンなことはどうだっていい。ここに統一旗があるってことは、この先の遺跡はグロリダリア管理政府の意思で残されたものってことだ。個人管理の魔導具とは訳が違う)

(じゃあそれが狂っていたら)

(ああ。あながち、あの女の言ってたことも間違いじゃなくなるってことだ)


 数千人を殺せるかもしれない魔導具がこの先にあるのかもしれない。

 ゴクリと生唾を飲み干し、僕は扉に手を掛ける。

 そしてゆっくりと開いた。


   ◇


 なんというか、この異質感にも慣れてきた。

 遺跡って毎回こうだもん。隠し戸なりなんなり、一番奥の扉を開くと明らかに今までとは違う風景でお出迎えする。

 確かにパターンとしてはよくあるけど、よくあり過ぎてちょっと過食気味。


(もっと他のパターンとかないの?)

(花畑にでもしてみるか?)

(やっぱいいです)


 レイギスに演出を期待した僕が馬鹿だった。

 とりあえず扉の中へと入り、確かに王族が儀式と言いたくなるようなその舞台へと上がる。

 四方に炎が灯り、木の床には魔法陣が浮かび上がる。


(この魔法陣なに?)

(基礎が六芒星に三重円と内部にまで各頂点を繋ぐ直線。交差の多い地点にはさらに小さな五芒星。後は細々とした設定か。こいつは魔法の連動補助陣だな。大規模な魔法は、人や魔道具内だけじゃ処理しきれな場合があるから、それの補助のために一部をこういう形に描きだして魔法とつなげるんだ。そうすると、魔法は陣の情報を読み取って発動させる。この魔法陣の場合だと、国土の指定だな)

(国土ってグロリダリア時代には国の括りはなかったんでしょ?)

(ああ。こいつはプアル王国の国土指定になってる。たぶん、陣を残す際にそういう設定にしたか、それとも起動時に使用者の意識化から国土の範囲を決定するプログラムが入ってたんだろ)


 予め沢山の国ができることは想定していたわけだ。

 まあ、それぐらいなら僕だって予想できるし、グロリダリアの人たちなら当然か。


(んで、中央のくぼみに埋まってるのが魔道具の本体だな)


 舞台の中央。魔法陣の真ん中とも重なる様に設置されたそれは、ガラスカバーで覆われているようないつもの球体だった。


(これじゃ玉に触れられない)

(問題ない。魔法陣からでも接続は可能だ。光ってるとこの上に右手を当ててみろ)


 言われた通りにすると、右手の紋章の上にいつものスクリーンが現れた。

 そのままログインして、レイギスの指示を受けながら魔道具のプログラム状況を確認する。

 色々と書かれているが、正直僕にはどんなことが書かれているのか分からない。

 けど、レイギスはちゃんと分かっているようで、流れているプログラムをチェックしていく。

 だいたいのチェックが終わったところで、レイギスが呟いた。


(おかしいな。どこにも変な改変はない。この魔道具はちゃんと機能してる)

(これってどんな効果の魔導具なの?)

(国土を肥沃にする魔法だ。微生物みたいな魔法生物を生み出して国土の土をいい状態に保つんだよ。これをやると、どこでもちゃんと穀物や野菜が育つ)

(なにそれ凄い)


 つまり、火山だろうが海辺だろうが、どこの土で野菜を育ててもちゃんと育つってことだよね? それって滅茶苦茶凄い魔道具なんじゃ。


(まあグロリダリア時代には農場プラントだけをこの範囲にしてたからな。それを国指定に書き換えておいたんだろう)

(なるほど。じゃあおかしな点がないって言うのは? 普通に稼働してるってことだよね?)

(ああ。プログラムにいじった痕跡がない。問題なく稼働しているし、生贄なんて要求はしてない。まあ、コイツが停止するとこれまで育っていた作物が育たなくなる場所もあるから、場合によっちゃ数千人規模で餓死者が出るかもしれんが)


 シルフェスティさんが言ってたことは、あながち間違いじゃなかったんだ。

 けど、じゃあなんで贄が必要なんてことになってるんだろう?


(わっかんねぇ。五十年に一度、こいつは継続判断を要求するが、それをいじったのかとも思ったんだがな。特にいじってないようだし。こればっかりは王族に直接聞いてみるしかないな)

(それって)

(おう。祈祷祭の儀式に突撃かまして、俺たちが継続判断を承認させる。んで、ティアを助けてついでになんでこんなことをしているのか直接聞く。いい考えだろ)

(まあ、確かにそうかもね)


 極秘の儀式ということは、ここに入って来られるのは限られた王族だけ。警備もいないだろうから、僕だけでも逃げることは可能だろう。


(んじゃ、帰ろうぜ)

(そうだね。って、また王城突破しないといけないのか)

(なにいってんだ。王都地下に広がる広大な遺跡だぞ。入り口が一つなわけねぇだろ。ほれ、スクリーンからそこ選択して――)


 言われるままにパネルを選択していくと、儀式場の奥に扉が現れる。


(ちーん、上にまいりまーす)


 地上と儀式場を直接つなぐエレベーターだった……

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