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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
四章 王族の少女と豊穣の魔導具
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4-8 酒場で飲まない男。これこれ、こういうのがいいんだよ

「やっちまえ!」

「「「「おぉぉぉおおおお」」」」


 男たちが襲い掛かってくる。けど、わざわざこんな狭い路地で待っていた理由が分からない。

 そのおかげで、ほぼ一対一の連続になっているし。


「よっ、ほっ、やぁ!」


 一人目の腕を斬り、二人目の肩に剣を入れ、三人目の顎に掌底を打ち込む。

 アルメイダさんに教えられた。人は斬られた程度じゃ簡単に死なないと。

 人を殺すなら、突きで内臓を破壊する。それ以外の攻撃では、まだ相手は動けると思え。

 その教えに従って、僕はひたすらに相手の武器を落とすような立ち回りを意識する。

 肩から肘にかけての筋を切れば、相手は武器を握れなくなる。足を切れば、踏み込めなくなる。そうやって、殺さずに相手を無力化していく。


「俺がやる!」


 バタバタと倒れていく仲間たちに業を煮やしたのか、後方の一人が前の人たちを押しのけて飛び出してきた。

 腕に自信があるのだろう。短剣を逆手に持って僕との間合いを図る。

 軽く周囲を確認。倒したのは五人、みんな意識はあるけど痛みに悶えている。

 これは使えるかもしれない。

 僕は慎重に後ずさりながら、短剣の男と距離をとる。間合いを離されるのを嫌がった男が前に出てきた。それに合わせて僕も距離を詰める。

 同時に、地面に転がっていた男の一人を強引に蹴り上げた。

 男一人が宙を舞い、短剣の男を巻き込んで押し倒す。そこに僕は剣を振り下ろし、肩を破壊した。


「まだやりますか? どれだけやっても結果は変わりませんが」

「チッ、お前ら下がれ」


 ブリジットが手下たちに下がるように命じる。だが、彼自身は引こうとしない。

 そして地面へと突き立てていた剣を引き抜いた。


「やるようだが、そんな剣じゃ俺は止められねぇぞ。ここじゃ実力が全てだ。その頭張ってる意味はわかんだろ」

「あなたを倒せば、問題ないってことですね」

(気を引き締めろ。あいつは強そうだ)

(うん)


 ブリジットは下段後方に剣を流し、体を曝すように構える。

 あの構え方はアルメイダさんからも聞いたことがある。剣と体術、両方を使う時の構えだ。

 剣をあくまでもトドメの武器として、体術で相手の攻撃をいなし、隙を生み出す。なんどかアルメイダさんにやってもらったことがあるが、その時はいいようにあしらわれてしまった。

 けど、その対処法も聞いている。

 体術主体の相手には、距離を確保して相手の指先を狙う。

 長期戦へ持ち込むことを想定して、相手の武器をじわじわと削るのだ。

 すり足を使ってブリジットとの距離を測る。

 後退してもブリジットは先ほどの男のようにはついてこない。警戒しているのか?


「なるほど、戦い方は知っているようだ。だが、場所が悪かったな」

(月兎、足元だ!)

「なっ!?」


 突如として足首を掴まれた。

 それは最初の方に倒した男の一人だ。


「ここは俺の縄張りだぞ」


 踏み込んできたブリジットの拳が腹へと突き刺さる。

 とっさに腹筋を固めたので、ダメージは少ない。けど息が詰まる。


「人、物、全て俺のものだ」

「くっ」


 さらに襟首を捕まれ、地面へと引きずり倒された。


「お前は俺を舐め過ぎだ」


 振り下ろされる剣。喉元を狙ったそれを、僕は白羽どりで受け止めた。

 そして体を捩じり振り上げた足で相手の腕を打つ。


「くっ」

「勝手に終わらせないでください」


 ついでに僕を掴んだ男の腕を踏み折り、倒れている男たちから距離を取る。

 完全に意識を失わせていないとこういうことになるのか。けど、意識だけを狩るのって凄く難しいって教えられたんだよね。何か対処方を考えないと。

 ブリジットは打たれた手を軽く振って感触を確かめる。力があまりかからなかったから、それほどダメージはないはず。

 仕切り直しだね。

 剣を構えなおすと、今度はブリジットが構えを解いた。


「これ以上は意味がないな」

「リーダー?」


 突如構えを解いたブリジットに下っ端たちがざわめく。


「うるせぇ! 雑魚が俺に文句あんのか!」


 ブリジットの一喝により、下っ端たちは口をつぐむ。

 そしてブリジットは改めてこちらを見る。


「これ以上やっても無駄に被害が大きくなるだけだ。勝っても利益がねぇ。好きにしな」


 僕の油断を誘うための罠か? けど、完全に構えを解いている。不意打ちの気配もない。

 僕も突然僕の自由行動を認めたブリジットに理解が及ばず、レイギスへと聞いてみる。


(どういうことだと思う?)

(単純に利益の問題だろ。組織である以上、利益を出さないと意味がない。プライドだけじゃ食っていけないからな。お前を捕まえる、あるいは殺して得る利益が、これ以上の被害だと補てんできなくなったんだろ。下っ端の補充だってタダじゃないからな)

(なるほど。けどギャングとかマフィアってプライドが一番ってイメージがあったんだけど違うのかな?)

(インテリかどうかによるんじゃないか? プライド一番ってことろもあるだろうし、ここがたまたま違ったってだけの話だろ。憲兵に仲間を潜り込ませるぐらい慎重な連中だ。その頭がただの脳筋とは考えにくい)

(なるほど)


 とりあえず納得はいった。けど、警戒するに越したことはないだろう。

 部下が全員リーダーの意見にちゃんと従うなんてこと、まずありえないんだし。

 僕は剣を鞘へとしまう。何人かが動きかけたが、それをブリジットが目で止めた。


「んで、坊主はなんでこんなところに来た」

「ちょっと探し物を。隠し通路なんですけど、知りませんか?」

「……知らねぇな」

「そうですか」


 知っていてくれればちょっとラッキーみたいな感じだったけど、そんなわけないか。知ってたら、ティアの家が襲われているだろうし。


「じゃあ僕は自由に探させてもらいますね」


 男たちの間を抜けて路地の奥へと向かう。

 そんな僕の背中には、ブリジットの視線がずっと張り付いていた。


   ◇


 ま、自由に捜索できるからって簡単に見つかるわけじゃないよね。

 結局日が暮れるまで探し回っても、それらしき入り口を見つけることはできなかった。けどそれは想定内のことだ。

 僕が一日で見つけられるようなものを、ここの住人が見つけられないとは思えない。つまり、どこかに隠されていると考えるべきだ。

 となると、やはり情報が欲しい。この辺りの歴史とか、噂とか。

 そんなヒントがあれば、もう少し捜索範囲を絞り込めそうなんだけど。


 と、いうことで僕がやってきたのは路地の近くにある一軒の酒場。

 お酒は飲めないけど、食べるから勘弁してってことで。歩き通しでお腹も空いたしね。

 店に入ると混雑していたこともあり、ちょうど円形テーブルの相席を案内された。


「とりあえずおすすめの料理を二品。それとパンを」

「お飲み物はいかがしますか?」

「果実水を」

「果実酒?」

「いえ、水で。飲めないので」

「承りました。少々お待ちください」


 愛想よくお辞儀して店員さんは注文を厨房へと伝えにいく。


「おいおい、酒場に来て飲まないってのはどうなんだ」

「全く飲めないんですよ。飲める人が羨ましいです」


 普通に話しかけてきた相席の相手に話を合わせる。


「じゃあなんでこんなところに来たんだ? 飯が美味いってわけでもないのに」

「悪かったわね。美味しくなくて」


 酔っていた男が背後から店員にお盆で叩かれていた。


「いてっ! ひでぇよルミナちゃん」

「自業自得よ」

「常連なんですか?」

「おうよ。毎日飲みに来てる」


 サムズアップするが、それはそれでどうなんですかねぇ……


「毎日ってことは地元なんですか?」

「生まれも育ちも王都さ」


 これはいい人と相席になれたかもしれない。


「じゃあ王都の噂とかも詳しいんですかね? この近くの路地に纏わる言い伝えとか」

「この近くの? ああ、アリエス地区のことか?」

「アリエス地区?」

「今はブリジットファミリーが実効支配してる場所だ」

「ああ、それ! そこです!」


 いきなりヒットを引いたぞ!


「あそこの噂かあ。まああるにはあるが、ただで話すのはなぁ」


 男はそう言って視線を壁際のメニュー表へと向ける。そこには麦酒の文字。そして男のテーブルにあるジョッキは空。つまりはそう言うことだろう。


「すみません! こっちに麦酒お願いします!」

「はーい」

「まいど。んじゃ話すが、あそこはもともと、とある貴族の管理地区だったんだ。王都はいくつかの地区に分割されてて、全ては王様の土地だが管理はそれぞれに貴族が管理していた。あそこもその一つだったんだが、いつだったか謀反の疑いで爵位を取り上げられ取り潰しにあってな。家の連中の処刑は免れたらしいが、王都から追放されたらしい」

「そんなことが」

「んで、管理の空いたスペースに潜り込んだのが今のブリジットファミリーの祖父なわけよ。そいつは他の貴族の管理を徹底的に拒絶してな。結局王家の直轄ってことにして、放置されてるわけさ」

「憲兵や兵士は動かなかったんですか?」


 貴族に反発して、そのままなんて普通は考えられない。

 権威を否定するような行動を、王様のおひざ元でやって平気でいられるものだろうか?


「そこまで詳しくは知らねぇが、なんか取引したって話があったな。詳しく知ろうとした奴は、みんな死んじまったらしいが」

(詳しい情報は伝えず、知れば危険な何かがあると分からせる。一般人を遠ざけるには最適な方法だ)

「それは意外と信ぴょう性が高そうですね」

(けど僕たちはそれを知らないといけないわけだ)

(ま、あのファミリーを押さえ込んでるし大丈夫だろ)


 相席の男の人はかなり有用な情報を教えてくれた。

 そのお礼に、僕の料理が届いたところでおつまみをもう一品注文しておく。


(夜の間にも少し動く必要がありそうだね)

(ファミリーのアジトに潜入だな!)


 古い貴族にマフィア。今回のかくれんぼはなかなか裏が深そうだ。


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