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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
四章 王族の少女と豊穣の魔導具
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4-7 僕は争いごとが嫌いなんだ。だから優雅に解決させてもらうよ

(ネルさんのことは進展した?)


 目が覚めて開口一番、僕はレイギスに尋ねる。


(おう。要望通りスマートに解決してやったぜ)

(え、もう解決したの?)

(原因はなんとなく分かってたからな。ちょっとお宅にお邪魔して、原因ぶっ壊してきた)

(それってスマートなのかなぁ?)


 娼婦のお宅に前日の客が訪問とか、ニュースの香りしかしないんだよなぁ。

 まあ、問題なかったのならよしとしよう。レイギスにあまりスマートなことを期待しても無理だと思うし。天才とは言うけどその実、最終的には実力行使のごり押しが多いし。


「さてと」


 僕は体を起こす。

 今日やるべきことは、情報収集と通路の探索だ。


(酒場は夕方からだろうし、それまでは通路の捜索かな)

(ま、簡単に見つかるとは思わねぇが、気長にやってくしかないな)


 朝食を手早く済ませ、僕は宿を出る。

 向かう先は、昨日ティアと出会った路地裏だ。

 そこは朝だというのに影が濃く閑散としており、まだそこだけが夜のような雰囲気だった。

 路上に座り込んでいる浮浪者たちは、僕をチラッと見てから視線を背ける。

 剣を持ってきてなかったら、かなり絡まれていたかもしれないな。


(ここで会ったんだよね)

(ティアが逃げてきたのは向こうだな)


 追われていたので、逃げてきた先が通路の入り口と考えるのは早計だが、とりあえずこの奥に何かがあるのは確かだ。

 僕が踏み出そうとすると、浮浪者の一人から声を掛けられた。


「嬢ちゃん、この奥はあんたみたいなのが一人で行くところじゃねぇぞ」

「僕は男ですよ」

「……すまん。だがどっちにしろ、子供が一人で行く場所じゃねぇな」


 久しぶりに女の子と間違えられたよ……こっちの世界に来てから間違えられるってことが無かったから、不意打ち過ぎてけっこうショックである。


「この先に何かあるんですか?」

「この路地の奥はブリジットファミリーの縄張りだ。縄張りのものは全てブリジットのもの。そこに生き物か道具かは関係ねぇ。あんたみたいな顔のやつが入り込めば、すぐに売りもんにされちまうぞ」


 そんな危ない場所だったのか……ティア、けっこうピンチだったんじゃない?

 まあ、だからって探索を諦める理由にはならないよね。


「忠告ありがとうございます。でも大丈夫です。これでも鍛えてますから」


 剣の鞘を軽くたたき、自衛手段があるこを示す。

 すると男は諦めたように首を横に振った。


「そうか。せいぜい捕まらないように気を付けな」

「そうします」


 そのまま奥へと進んでいく。次第に路上の浮浪者が消え、ごみが散乱するようになった。

 そして正面から道を塞いで歩いてくる男たち。その手には角材やナイフがちらついている。

 僕が足を止めると、その男たちも足を止めた。


「嬢ちゃん、こんなところに一人で来る意味、分かってるよな」

「なかなかいい顔じゃねぇか。身代金は期待できなさそうだが、売ればそれなりにはなりそうだ」

「さっさと捕まえるぞ。昨日馬鹿がいい得物を逃がしたらしいからな。今日も何てことになりゃ、俺たちも殺される」

「それもそうだ」

「通わけだ。嬢ちゃん、悪いが――」

「僕は男だ」

「……まあ、そういう趣味のやつもいるだろ」


 そのまま押し切りやがった! 謝罪もないし、許す余地がない!

 というか、昨日の男たち一回の失敗で殺されたの!?


(得物がティアだったしな。ある意味大きな仕事を逃したのと同等の制裁を受けたってことだろ。身内の引き締めもあったんだろうが)

(聞くよりもヤバい組織みたいだね、ブリジットファミリー)


 とりあえず捕まえようとしてくる男たちに対して、鞘のまま剣を抜く。


「僕は探し物をしているだけなので、構わないので欲しいのですが」

「俺たちの縄張りに入ってそりゃねぇさ。許可が欲しけりゃ、頭に直接言うんだな」

「ま、会うことはないだろうけどな。抵抗すんなら、多少は痛い目見てもらうぞ」


 三人が同時に持っていた武器で殴りかかってきた。

 けど遅い。それに連携も何もない。

 最初の一人の攻撃を受け流し、二人目を掴んで転がせる。三人目には顔に鞘を叩きこんでおいた。

 すれ違いざまで一人が負傷。二人が体勢を崩している。

 即座に反転して、転がっている男の顎を蹴り上げた。


「これで二人」

「ぐあっ」

「てめぇ、よくも!」


 最初に受け流した男が立ち上がり、角材を振り被る。

 けど、角材なんてちゃんとした持ち手もないものが、しっかりと握れるはずもない。

 僕は剣を、振り下ろされた角材と激しく打ち合わせ、相手の手から取り落とさせた。そして、首を掴んで壁際へと押し付ける。


「ぐっ」

「ずっとあなたたちのような人に憑き纏われるのも面倒ですし、そのリーダーとやらとお話ししてもいいかもしれませんね。その方はどちらに?」

「言う訳ねぇだろ」


 男は、僕の腕から逃れようとするが、身体強化されている僕の力は成人男性の数倍は出せる。

 グッと力を籠めると、苦しそうに呻いた。

 このまま首を絞めていれば、いずれ吐いてくれる気もするけど、時間がもったいない。

 使える脅しはどんどん使おう。


「そう言えば、昨日の人たちは殺されちゃったんですね」

「まさかてめぇ、昨日妨害したっていうガキ」

「二日連続で仕事の失敗。そのリーダー、さぞや怒るのでは? 殺されるだけで済めばいいですね」

「なっ」

「よくありますよね。臓器売買や拷問の練習台、後は――単純に憂さ晴らしで痛めつけられたり」


 適当に言ってみたが、あながち間違いではなかったのかもしれない。

 男の顔色が蒼白に染まっていく。別に首をきつく締めているわけではないから、血が止まったわけでもないだろう。


「けど、僕がお話ししている間に逃げれば、命だけは助かるかもしれませんね」

「わ、分かった! 話す! だから助けてくれ!」

「では教えてください」


 男がリーダーの居場所や拠点の位置、そこへの向かい方まで懇切丁寧に説明してくれる。

 僕は一通り聞き終わると男を解放した。男は何度かえずいたあと、慌てて裏路地から逃げ出していった。そんなにブリジットって人が怖いか。


(んで、リーダーの位置聞き出して、突撃でもかますのか?)

(そんな物騒なことしないよ。相手のアジトが分かったなら、やるのは一つ)

(?)

(通報)

(ひでぇ……)


 何を言うのさ。この世界には憲兵という正義の味方がいるんだ。しかも数週間後には祈祷祭が控えている。国としては、そんなアングラな連中が王都にいるなんて威信にかかわるだろうし、さっさと排除したいよね?


(荒事は荒事担当に任せるさ。これが本当のスマートなやり方ってやつ。レイギスも少しは見習ってもいいんだよ?)

(ぐぬぬ……)


 一度路地を出て、憲兵の詰め所へと向かう。

 そこでついさっき聞きだした情報を受付の人に提示した。

 するとすぐに別室へと案内されて、さらに詳しく話を聞かれる。


「それは……本当かい?」

「はい。さっき僕を襲ってきた人たちから聞きましたから。それに、彼らも殺されると思って事実をしゃべったと思いますよ」

「うーん、けど流石にそれだけじゃあなぁ……」


 意外と反応が悪い。マフィアのボスがいる場所が分かったとなれば、すぐにでも全員で突撃してくれると思ったんだけど。


「なにか動けない理由でも?」

「ちょっと根拠が弱いし、確証に欠けるかな。直接いる場所を見たでもないと、こっちは動けない。やるとなれば、一気に末端まで叩かないと、後々が大きく荒れることになるしね。そういうことだから、情報は感謝するけど、憲兵が動くことはないと思ったほうがいいよ。まあ、監視程度は強化すると思うけど」

「そうですか……」


 ちょっとがっかりだ。

 さっさと一掃してもらって、安全になったところをゆっくりと探そうと思ってたのに。


(スマートなやり方キリッ)

(ぬぅ……)


 あれだけ大見得切っただけに、なかなか恥ずかしい結果になってしまった……


(手抜きはダメってことだろ)

(手抜きってわけじゃないと思うんだけどなぁ)


 まあ、動いてくれないなら仕方がない。

 リーダーの位置や拠点は分かってるんだし、鉢合わせないようにこそこそと探すとしよう。


 ため息を吐いて僕は裏路地へと戻ってくる。

 そこには、剣を携えたまさに荒事専門ですと言わんばかりに強面の人たちが、大人数で僕を待っていた。


「ガキ。ずいぶん舐めた真似してくれてるようじゃねぇか。まさか憲兵にタレコミが入るとは思わなかったぜ」


 中央にいる隻眼の男は、持っていた剣をその場に突き立てる。

 彼がどうやら男たちのリーダーブリジットのようだ。隻眼に茶髪、ラフなパンツ姿に上半身はベストだけという下っ端からの情報とも一致している。

 それにしても、憲兵に相談に行ったのがもうバレているのか。


(諜報員でもいたのかもな)

(ちょっと面倒な感じに大きい組織みたいだね)


 憲兵団に潜り込ませるって簡単にはできることじゃないし、もしかしたら貴族のバックでも付いているのかもしれない。

 裏ごとを任せるのに、マフィアってのはちょうどいい存在だし。


(行動が迂闊すぎたかな?)

(かもな。情報を軽視し過ぎた結果だ。諦めろ)

(じゃあ頑張るしかないか)


 捕まったら、間違いなく拷問の上で殺されるだろうし、手ごろなところで逃げるにしても、一般人の迷惑になりそう。

 こうなったら、徹底的に倒して当初の予定通りのんびりこの路地を捜索させてもらおう。

 自信があるのかと言われれば少し怪しい。けど、昨日と今日の男たちと戦ってみて、少しだけ自分の腕に自信は持てた。

 アルメイダさんに教えてもらった技術なら、十二分に戦える!


(剣はちゃんと抜けよ。相手の数が数だ。確実に減らせ)

(うん)


 僕は鞘に添えていた手でロックを外し、刀身を抜き放つのだった。

 

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