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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
三章 貴族の少女と魔道具のペット
29/83

3-1 ぶらり異世界町歩き。残念だが裏路地にネコは見つからなかった

 さて、どうしようか。

 僕は朝食を食べながら漠然と考えていた。

 目下やらなければならないことと言えば、遺跡のための情報収集と所持金増やし。

 遺跡の魔導具を売って一発逆転うはうは人生なんてのが夢のまた夢なのは知っているので目指さないとして、コツコツ稼げるような仕事を僕に紹介してくれるような人がいるだろうか。

 レオラかなぁ。いや、レオラというよりマスターかな。

 あの人なら、色々な情報を知っていそうだし、仕事を紹介してくれるかもしれない。

 まあ、職業の斡旋所。いわゆるファンタジー世界なら冒険者ギルド的なものがあれば一番いいのかもしれないけど、そんな便利な者があるなら探索者のみんなだって所属しているだろうし、酒場に集まって情報交換なんてことにはならないと思う。

 つまり――


(午前中は町の観光ってことだな)

(そうなるよね)


 酒場が開くのは早くても十一時ぐらい。開店と同時に入れば相談する時間もできるかな?

 それまで暇になるんだから、観光しないと損だ。せっかくの異世界。しかも言葉が通じるなんて超便利世界なんだから楽しまなきゃ。


「ごちそうさまでした」


 調理場へと声を掛け席を立つ。そして僕は町へと繰り出すのだった。


 宿を出てから適当に大通りへと向かいつつ、僕はレイギスに声を掛ける。


(どこ行こうか。レイギスはまず見てみたいところってある?)


 勢いで出てきたはいいけど、町のことをほとんど知らないからどこを見ればいいのかもわからない。有名な観光スポットでもあればいいけど、おっきい塔みたいな目立つ物はない。


(レオラが言ってた市場とか露店街とか屋台街とか行ってみようぜ。しばらくこの町にいるから、ここいらは使う可能性も高い)

(そっか)


 ずっと宿や酒場でご飯食べるわけじゃないもんね。


(それに町の繁栄は市場を見ればわかるからな。野菜や肉、魚なんかは足が速いもんがあるほど、輸送手段なんかの発展が分かるし、食材の豊富さはそのまま町の豊かさだ)

(じゃあ市場から行ってみようか)


 確かレオラがあっちだって言ってたよなぁ。

 そんな風に漠然とした方向だけを頼りに大通りを進んでいくと、じょじょに買い物を済ませたらしき籠を抱えた人たちの姿が増えてきた。

 さらに進めば道の先に広場があり、多くの露店が立ち並ぶエリアへと到着する。

 売っているものは野菜や肉。つまりここが市場ということだろう。

 広場の中へと入り、露店を眺めながら歩いていく。


(市場は素材を扱う店の集まりってことだな。一時生産品の中でも食材が多いが、布なんかの店もあるな。ちょっと布の店に寄ってくれ)

(うん)


 目についた布の露店へと近づいていくと、店主がにこやかに出迎えてくれる。

 ロール状に巻かれた布が店先には並んでおり、露店の屋根からは見本だろうか絨毯のように模様を入れた布が下げられていた。


(ここで何が分かるの?)

(布と一口に言ってもその素材には色々な種類がある。麻や綿みたいな植物由来、羊毛なんかの動物由来。俺たちの時代なら化学繊維なんかもあったろ。見たところ植物由来の布が多いが、羊毛なんかも取り扱ってるし、染めの技術もあるみたいだ。値段の変化は羊毛がプラス二割ってところ。そこまでの値上がりじゃないところを見ると、食肉だけじゃなくて羊毛用の羊の放牧がちゃんと行われるほど生活に余裕がある証拠だ。流通経路も結構しっかり構築しているんだろう。染色用の素材までは分からねぇが、原色しかないところを見ると化学反応は使われていないとみていい。植物からの抽出がメインだろう)

(そこまで分かるんだ)

(知識は価値だって言ったろ。知ってるってことは、それだけ思考を広げさせるし、感情を豊かにさせる。これだけ知っていれば大丈夫なんて知識は存在しねぇのさ。次行こうぜ)

(あ、うん)


 店の前を離れて、野菜や肉、魚なんかの店を一通り回ってみる。

 レイギスがその度に人類史と合わせて色々と解説してくれるんだけど、正直そんなに一気に詰め込まれても、覚えていられなかった。

 とりあえず分かったのは、この世界が中世よりも遥かに発展しているということだ。その原因は、レイギスたちが残した魔道具の数々だろう。

 あれらの魔導具が、こんなことができると示す証拠となり、人々に研究の余地を与えた。その結果、ややバランスの崩れた文明レベルの発達になっていると考えられた。


(やっぱ面白れぇ変化だ。知識は想像への土台になる。だが、想像した先があらかじめ示されていても、知識はそれを目指して蓄積されるんだな)

(予想通りなの?)

(バランスの歪みは予想外だけどな。道を示された分だけ、それだけが早く発展したようだ。技術の横のつながりが薄いのかもしれん)


 あれを発明した。その発明はこっちのこれにも使えるんじゃないか。そんな繋がりが薄いせいで、突出した分野の発展になってしまったということらしい。

 知識を蓄えられたとしても、想像力の欠如が起こっているという予想だった。

 僕たちはそのままの足で露店街へと向かう。

 そこは、日用雑貨や金物を扱う商店の集まりだ。いわゆる二次加工品だね。

 市場からインゴットや布を買ってきて、それから作ったものを売っているのだろう。中には一次加工から行っている業者もあるのだろうか。それらの店は他よりも少しだけ安い値段で商品を出している。

 仲介業者の少ない商品が安いのと同じ原理だ。


(道具に関してはあんまりパッとしないな)

(必需品はそれほど変わらないしね。それこそ、科学技術が発展しないと便利なのって少ないかも)


 実際地球にいたころの身の回りを思い出してみても、プラスチックや樹脂なんかを使ったものがほとんどで天然由来の道具は昔からのものがほとんどだ。パッと考えてみても、棚、フライパン、畳ぐらいしか思い出せない。


(単純な使用用途だからこそ、変化の必要性が少ないのか。ここにはあんまり楽しそうなものはないな)

(ちょっとした便利道具とかはありそうだけどね)


 雑貨屋さんの便利道具コーナーをなんとなく眺めるのは好きだった。

 この露店街にはそんな雰囲気がある。

 個人的に気に入ったので、のんびりと眺めながら露店街を通り抜けると、すぐ近くに屋台街があった。どうやらこの三つの広場は、上から見ると三角形になるような形で配置されていたようだ。


(屋台街は見て回る? 正直あんまりお腹空いてないんだけど)


 さっき食べたばっかりだから、ご飯を見ても美味しそうな匂いを嗅いでもあまりそそられない。


(見てみたい気もするがまあいいぞ。どうせ今後も来るだろうしな)


 レイギスが妥協してくれたおかげで、僕は屋台街から離れることにした。

 ぶらぶらと町中を歩ていると、突然目の前に巨大な壁が現れる。大男とかじゃなくてマジもんの石壁だ。


(これ何の壁だろう?)

(昔の町の名残とかじゃねぇか? 町が拡張されるときに、壁は防衛用としてそのまま残す場合もあるし)


 ああ。これだけ大きい町だと、何度か拡張して外壁を作り直している可能性もあるんだ。


(都市計画って莫大な資金がかかるから、簡単には出来ねぇ。その分、やるときは一気に派手にやるんだ。周辺から土木工事の人員かき集めて、拡張した町にそのまま定住ってパターンが多い)

(定住しても仕事がなかったら?)

(拡張範囲がそのままスラム化する。だから、慎重な下調べと決断が必要になるわけだ。成功すればこの町みたいに発展するが、失敗すれば最悪自分の首が飛ぶ)


 この時代だと物理的に飛んでそうだし怖いね。

 命がけの町の拡張なんて、ほとんどの人はやりたがらないんだろうなぁ。

 壁沿いにぐるっと歩いていると、入り口のような場所を見つけた。

 門は開いたままだが、そこには門を見張る様に兵士が数人立っている。近くには詰め所もあるようだ。

 兵士たちは、壁沿いにやってきた僕を見つけると、なんどか顔を見合わせ、一人がこちらへと近づいてきた。


「君!」

「はい、なんでしょう?」

「あまりこの門には近づかない方がいい。この先は貴族区だ。平民が立ち入るには許可が必要となっている。この壁を調べているような行動は、怪しい行動として取り調べの対象になるぞ」

「あ、そうだったんですか」


 貴族区。名前の通りお貴族様の住んでいる地区ということだろう。

 拡張地域を平民用の区画として、防衛能力の高い内壁の中を貴族用の区画にしたのかな?


(外からの流入は一時的に治安を悪化させちまうからな。そのあたりの安全面も考えたんだろう)

(なるほど。じゃあなるべく近づかない方がいいね)

(貴族の生活も気になるが、特権階級の意識は確実に面倒くさい方向に絡ませてくるからな)

「ご忠告ありがとうございます。昨日この町に来たばかりで色々探索してたんですよ」

「そうか。そのなりは探索者か?」

「はい」


 兵士はそうかと言って少し考えるような素振りを見せた後、忠告はしたぞと言って持ち場へと戻っていった。

 僕もトラブルはごめんなので、素直に壁とは逆方向へ向かう。


(そろそろ酒場が始まるころかな)

(んじゃ、情報収集だ!)


 探索をしている間に酒場の営業開始時間が近づいていた。


 宿付近まで戻ってくると、時間的にもちょうどよくなっていた。

 そのまま酒場へと向かえば、店先で看板を掛けているレオラの姿を見つける。


「レオラ、おはよう」

「あら、おはよう。朝からお酒?」

「僕は飲めないよ。情報収集かな。あとマスターに相談」

「お父さんに? まあいいわ。ちょうど開店だから入ってよ」


 そのまま中へと案内され、カウンター席に通される。


「なに頼む? 今日のおすすめは鳥トマト煮よ」

「まだお腹空いてないんだよね。とりあえずアルコールの入ってない飲み物ちょうだい」

「ここ酒場なんだけどなぁ。じゃあ果実水ね。あとお父さん呼んできてあげる」

「ありがと」


 レオラが奥へと引っ込むと、変わる様にマスターが現れた。


「俺に相談ってなんだ?」

「実は日雇いの仕事を探してまして。ちょっと手元が寂しいもので」

「ああ、そういう相談か」


 マスターが言うには、そういう相談は結構多いのだとか。

 探索にも初期資金が必要となり、失敗続きではそれもなくなる。そんな時に日雇いの仕事などを紹介しているらしい。

 マスターは紹介している仕事の一覧が掛かれた羊皮紙を持ってきてくれた。


「今ある仕事はこんぐらいだな。土木から清掃、臨時兵士なんかもあるぞ」


 それぞれに期間が決められており、それだけの日数をやった場合に給料が支払われる仕組みらしい。

 ざっと見ていくと、拘束期間の長いものは給料がいい。けど、一カ月とか二カ月だからなぁ。

 逆にそれこそ一日で終わる様な掃除などはかなり安い。本当にその日を生きていく分しか稼げない。


「うーん、悩みますねぇ」

(月兎の体なら比較的給料のいい土木でも大丈夫だと思うが?)

(けどこれ、完成までで期限が決まってないんだよ。倍場合によっては凄い日数かかるんじゃない?)


 道路の石畳交換、壁の補修などはいつまでかかるか分からない。資材運搬ならいいかもしれないけど


「すぐに決める必要はないぞ。ここいらの依頼は常にあるからな」

「そうなんですか。じゃあ少し考えさせてもらいます」


 羊皮紙を返し、マスターが持ってきてくれた果実水を一口――なんかお酒っぽいのは酒場の匂いのせいかな?


「あはは! 飲んだわね! 月兎、それは果実酒よ! 酒場なんだからあなたも飲みなさい!」

「レオラ! お前お客さんの注文を勝手に変えるな! 月兎君、大丈夫か?」


 あれ、なんだか体が熱く…………視界がボヤけて――



「レオラぁ。そんなに俺の飯が食いたくなったのか?」

「げっ、レイギス!?」


 ハハハ! そんなに会いたかったのなら、夜にでも忍び込んでやるぞ?

明日からコミケ参加のため、おそらく月曜まで更新が止まります。

すまんな。

コミケではオリジナルR18小説 オークVS姫騎士ゾンビを頒布予定です。詳しくはTwitterをどうぞ

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