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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
二章 探索者の少女と無価値の魔導具
26/83

2-10 宿と酒場は持ちつ持たれつ。酔っ払いは両者の食い物に

「見えてきたわ! あれが私の町、マヌアヌよ!」

「おお、ここがマヌアヌかぁ」


 遺跡から旅をして二日目の夕方、レオラの家のある町マヌアヌへと到着した。

 道中は特に何も起こらず、テクテクと街道を歩き続けるだけで、なんというかちょっとした遠足気分だった。案内役がいるっていいよね。毎回分かれ道で悩む必要もないし。

 マヌアヌの町は外壁に囲まれており、その中央を川が通っている。

 東西南北の方角に門が設置されており、基本的には通行は自由なのだとか。

 個人的なイメージでは、町に入るにもお金が必要だったり、門限があったりと色々厳しい印象があったのだが、隣国に接しているわけでもなく、ここ数十年戦争もないため特にそのような必要はないのだとか。

 閉まるとすれば、町中で大きな犯罪が合ったときぐらいだとレオラは言っていた。貴族が殺されたとかだね。まあ、そんなことが早々起こりうるはずもなく、レオラもこの門が閉まっているところはまだ見たことが無いらしい。


「さっさと入りましょ。そろそろ酒場もやってるだろうしね」

「なんだか緊張してきた」


 異世界の町なんて初めてだからなぁ。本当に海外旅行の気分だ。


(俺も楽しみだ。今の生活圏の主要文化がやっとみられるからな。衣食住に衛生面、公共福祉や流通量。調べたいことは山ほどあるぜ)


 レイギスにとっても、目覚めてから初めての主要都市ということで、かなりテンションが高い。もともと残された人たちの文明を見たいって理由で遺跡に保管されてたんだから、当然と言えば当然だけど。


(まあそれらは後回しだけどね)


 今はレオラのお父さんに会いに行くのが先だ。料理の再現なんかも、当時の料理を知っているレイギスの知識が必要になるかもしれないし。


(しばらくはこの町でゆっくりすればいいさ。急ぐ旅じゃねぇしな)

(それもそうだね)


 門を抜け、町中へと入る。

 門から続く大きな道路は石畳で舗装されており、馬車が悠々とすれ違えるだけの広さを確保している。

 露店は見当たらない。店舗の軒先に少し商品が並べられている程度だ。

 横道は舗装されていない道もあり、地面がむき出しになっている。

 人通りは比較的少なく、どことなく静かな印象を受けた。


「ここっていつもこれぐらいの人通りなの?」

「うーん、夕方だとこれぐらいかな? この時間だと屋台街の方に集まってるだろうし」

「屋台街があるんだ」

「普通そうじゃないの? 市場と露店と屋台はそれぞれ決められた地区じゃないと営業できないと思うけど」

「僕の知っているところは、割と乱雑に並んでたなぁ」


 ゲームの話だけど。


(区画整理と商業管理がかなりしっかりしてるな。税収安定化のためか? 衛生面も一つにまとめたほうが管理は楽だが、水道あたりがどうなってるのか気になるな。見たところ、道路にうんこが落ちてることはないし、下水のシステムは構築されていそうだな)


 レイギスは視界に入る情報から、マヌアヌの環境を推測していた。

 こういう思考を見ていると、本当に科学者なんだと思う。普段が酷いだけに、さほど尊敬はできないけど。


「酒場はこの先だよ」


 町の中をしばらく進み、角を曲がるとそれはあった。

 分かりやすいビールの絵が掘られた木札を下げ、オープンテラスになっているテーブル席からは賑やかな話し声と笑い声が聞こえてきていた。


「今日も五月蠅くやってるなぁ」

「人気店なんだ」

「おかげで儲けられてるけどね」


 近づいていくと、テラス席にいた人たちがレオラの姿に気付き声を掛けてくる。

 看板娘でもやっていたのだろう。お代わりなどの声も聞こえてくるが、レオラは今日の私は休みだと言って適当にあしらっていく。

 酔っ払いのあしらい方を良く分かってらっしゃる。

 そして店の中へと入り、奥に向かって大声を上げた。


「お父さんただいま!」

「ん、レオラ! いいところに戻ってきた! 店員が足りん。店を手伝え!」


 そんな言葉で出迎えたのは、スキンヘッドにピンクのエプロンをしたゴツイ男。いや、凄くエプロンがミスマッチなのだが、もう少しどうにかならなかったのだろうか……

 というか、彼がレオラのお父さんか。酒場のマスターのイメージが一撃で崩壊したなぁ……


(現実なんてそんなもんさ)

(いや、きっとどこかには僕のイメージ通りのマスターがいるはず! 僕は見つけてみせるよ!)

(まあ頑張れ)


 夢をあきらめない!


「そんなこと言うと、お父さんには手に入れたお宝見せてあげないわよ!」

「なに! 宝を見つけただと!?」

「「「「なに!?」」」」


 マスターの声に、酒場にいた客全員が反応した。

 そう言えば、探索者たちが情報交換も含めた交流目的に集まっているって言ってたなぁ。じゃあ今ここにいるお客さん全員探索者なんだ。なら反応するのも仕方がないか。


「内容は秘密よ」

「レオラちゃん! どこで見つけたかだけでも!」

「南に二日のところにある遺跡よ」

「あそこは探索され切った遺跡だったろ? 領主が探索終了の宣言してたはずだぜ?」

「隠し通路を見つけられてこその探索者よねぇ」

「マジか!」「嘘だろ!」「あの遺跡俺も探索したのに!」「新人に負けただと!?」


 自慢げに笑みを浮かべるレオラに、男たちは悔しそうに悲鳴交じりの声を上げた。

 ほとんどお父さんのメモのおかげだけど、言わなければバレないしね。


「レオラ、あれを使ったのか?」

「ええ。役に立ったわ。まあ色々あったけどね」

「その色々に後ろの坊主も含めていいのか?」


 マスターの視線がこっちに向いたことで、初めて僕の存在が注目される。

 僕は日本人らしく軽く会釈を返した。


「レオラちゃんが男を連れてきただと!?」

「俺たちのレオラちゃんが!?」

「尻触っただけで殴りかかってきたレオラちゃんが男だと!?」

「おい、お前うちの娘に何してる」

「あ、やべ」


 一人墓穴を掘った男がマスターに今日の料金二倍を告げられガックリと肩を落としていた。

 それ以外の連中には、レオラが順番に拳を振るっている。


(これが酒場の雰囲気かぁ。飲まれそう)

(ま、酒が入れば誰だってこうなるさ。レオラもそれに慣れてるからあんな性格になったんだろうな)

(僕はお酒飲めないしなぁ)


 一口飲んだだけで潰れちゃうし。そしたらレイギスが出てくるから、地獄が――始まる……


(俺はいつでもウェルカムだ)

(絶対にやだ)


 そして一通り殴り終え戻ってきたレオラに手を捕まれる。


「月兎、ここはうるさいし奥に行くわよ」

「待てレオラ。今戻ってきたばかりなんだろ? 坊主の宿は決まってるのか?」

「あ、そうね。うちじゃダメ?」

「それはさすがに僕が困るよ」


 知り合ったばかりの女の子の家に泊まる。しかも親付きとか気まずいってレベルじゃないって。


「じゃあ適当に空いてる宿探してくるわ」

「そうしろ。どっちみち店が閉まらんと話を聞いてる余裕はないからな」

「はーい」


 あっという間に話が進み、僕たちは再び店の外へと出ることになった。

 そしてレオラに案内されて、近くにある宿へとやってくる。

 五階建ての石造り。町中に溶け込んだいい雰囲気の宿だ。


「こんばんわー」


 レオラが中へと声を掛けると、年配の女性がカウンターに現れる。


「あらレオラちゃん。しばらく見ないと思ったけど戻ってきたのね」

「うん。初探索は終了よ。ばっちり成果もあげてきたんだから」

「あらあら、それはジンも喜ぶでしょうね」


 ジンというのはおそらくレオラのお父さんのことだろう。


「こっちは探索中に知り合った探索者の月兎よ。宿さがしてるんだけど、空いてる?」

「一人なら問題ないよ。何日止まるんだい?」


 おばさんとレオラの視線がこっちに集中する。


(とりあえず一週間ぐらいでいいかな?)

(料金聞いてからにしとけ)

(あ、そうだね)


 僕たちの手持ちは、村でもらったいくばくかの謝礼金だけだ。あまり高かったりしたら泊まれないし、長く宿泊するのも問題だ。


「一日いくらになりますか?」

「二食付けるなら千五百ホンズ。食事なしなら千ホンズだよ」


 僕は持っていた貨幣用の袋を取りだし中身を確認する。

 全部銀色のメダルであり、表面に刻印された数字でその貨幣価値が決まっている。村長さんに一通り聞いた限りでは、今いる国プアル王国の貨幣がホンズであり、国内ならどこでも通用するとのこと。

 袋の中には五万ホンズ入っている。これだけあれば、食事付きでも大丈夫だろう。


「じゃあ一週間食事付きでお願いします」

「あいよ。部屋は305だよ。鍵は内鍵しかないから、出かけるときは貴重品の管理を忘れないようにね。食事はここの奥の食堂でできるよ。この札を見せてもらえれば食事を用意するから」


 そう言って渡されたのは部屋番の書かれた木製の板。これが借りている証拠ということなのだろう。


「分かりました」

「あと部屋では静かにね。周りの客と揉めたら、両方とも叩きだすから」

「気を付けます」


 喧嘩両成敗。気を付けないと。


「じゃ、ごゆっくりどうぞ」

「どうも。じゃあレオラ、僕は荷物を整理するから、しばらくしたらそっちに戻るよ」

「分かったわ。じゃあまた後でね。おばさんもまたね」

「また客連れてきておくれよ」

「いい人がいたらね」


 レオラが手を振って駆けていく。それを見送り、僕は部屋へと向かった。

 割り当てられた部屋は三階の角部屋で、広さはお世辞にも広いとは言えない。ビジネスホテルみたいな感じだな。ベッドと小さな机。荷物置き場があるだけ。トイレや水道は全て一階のものを共有だ。

 この世界ではこれがデフォルトなのだろう。


(下水はしっかりしているみたいだが、水を上階まで上げる技術はまだまだ未発達みたいだな。それとも値段的な問題か?)

(ちゃんとしたトイレがあるだけ十分だよ)


 流せるトイレがあるだけで、どれだけ気持ちが楽なことか。

 村の生活で外でするのも慣れてきたけど、やっぱり囲まれたところでひと目を気にせずにリラックスしたいしね。あの村がやっぱり辺境だったんだと思い知らされるけど。


(荷物の整理って言っても、使った服とかを置いていくぐらいかな?)

(内鍵しかないからな。金目の物は全部持って行ったほうが良さそうだぞ)

(けど寝袋とかテントとかって重いんだよね。かさばって邪魔だし)

(そこまで高価なもんでもないし、新品でもない。売っても金にならんし、置いていっても大丈夫だろ)

(そうかな?)


 結局、旅の荷物は一通り置いていき、お金と装備だけを持ってレオラの酒場へと向かうことになるのだった。

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