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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
二章 探索者の少女と無価値の魔導具
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2-9 乙女の生足膝枕(強制)

 四匹目を食べたところで眠気が襲ってきた。

 月兎が目覚めようとしているのだろう。なら俺はそろそろお暇させてもらうとしようか。


「レオラ、俺はそろそろ寝るわ。次起きたら月兎が出てきてると思うぜ」

「あら、朗報じゃない。ならすぐに寝なさい。お休み。良い夢を」

「つれないねぇ。添い寝ぐらいしてくれねぇのか?」

「はぁ! するわけないでしょうが! そこらへんの石でも枕していればいいわ」

「ちぇっ」


 ま、期待はしてなかったけどな。けどさすがに石を枕は辛いし、なんか代わりになるものは――そうだな。あれにしよう。

 俺は周囲を見回して、一つ良いものを見つけた。

 魔法の設定は三十分ぐらいでいいか。


「プーダー・アンスサクトメドゥム、ダーゾインペリウム」


 俺が魔法を唱えると同時に、レオラの影が突然あふれ出し、レオラ自身をその場に拘束してしまう。


「ちょっ、なにしたのよ!?」

「拘束魔法だ。三十分ぐらいそのままにしててくれ。んじゃお休み」


 ジタバタしようにもしっかりと影で拘束されているレオラへと近づき、その膝に頭を乗せて足を投げ出す。

 うん、やっぱ枕は膝に限る。ちょっと筋肉質で硬いのは減点だが、短パンだから生足ってのがなかなかいい。


「あ、こら! ちょっと! するにしてももう少し紳士的に頼むもんじゃないの!」

「いいじゃねぇか。起きた時には月兎に膝枕してることになるんだから。あいつも膝枕好きだしな」

「え、ほんと!? じゃなくて、ならせめてこの拘束を解きなさいよ!」


 がやがやと騒がしいが、俺の眠気は最高潮に達していた。もうこれで交代だな

 さて、月兎が目覚めた時が楽しみだ。

 その後の騒動を想像して、俺は笑顔のまま眠りに付いた。


   ◇


 起きたら女の子の膝枕されていたのは二回目です。

 だけどこれが嬉しい出来事なのかどうかはちょっと疑問。だってレオラ、凄い形相で睨んでるんだもん。


「えっと……おはよう?」

「おはよう。あなたはどっち?」

「月兎です」

「そうみたいね」


 レオラはホッとしたように息を吐き、形相を解いた。


「良かったわ。レイギスは起きれば元に戻ってるって言ったけど、やっぱり不安だったもの」

「心配かけてごめんね。でももう大丈夫だから」


 体を起こして顎をさすってみる。殴られた後は残っておらず、痛みもない。


(当然だな。俺の魔法が失敗するわけないし)

(レイギスもおはよう。状況は?)

(野郎どもぶっ倒して、昼飯後にレオラの膝枕で一休み)

(良く分かったけど、明らかにマズいことしたでしょ)


 じゃなかったら、起き掛けにレオラの怖い顔を見ることもなかっただろうし。

 強引に膝枕でも迫ったのだろうか? けど、レオラがそんなことで膝枕させてくれるかな?


「レオラは大丈夫だった? レイギスに何かやられたりしてない?」


 フレアの頬にキスした前科があるしなぁ。

 僕の体であんまりそう言うことはしないで欲しいんだけど。


「現在進行形でやられてるわよ! この拘束早く解いて!」

「拘束!?」


 想像以上にマズいことをやらかしていたみたいだ。


(レイギス何やってるの!?)

(膝枕してくれないから、拘束して膝枕してもらっただけさ。生足もいいもんだろ)

(確かに気持ちよかったけど――ってそう言うことじゃなくて! 早く解いてあげないと!)

(無理無理。三十分は解けない魔法だからな。まあ、俺の魔法以上の威力(インペリウム)の対抗魔術を使えば解けるだろうが、月兎やレオラじゃ使えないからな)


 ああもう! なんでこんなことになっちゃってるかな!

 とりあえず試しにレオラを拘束している影をもって引っ張ってみる。


「ちょっ、ちょっと待って月兎! 今は不味いわ!」

「けどこれをどうにかしないと。三十分は解けないってはなしだし」

「魔法を掛けられてから二十分ぐらいは経ってるわ。だから待ってればいいから大丈夫!」


 うーん、けどずっと正座は辛いだろうし。

 せめて足の拘束だけでも外せないかな?


「ダメダメダメ! 待って待って待って! ひぎぃ!?」

(あら、エッチな声)


 僕の指が足に触れた瞬間、レオラの体がビクンと跳ねて変な悲鳴が聞こえた。


「れ、レオラ?」

「だから……ダメって……言ったのにぃぃいいい!」


 正座の状態のまま横に倒れ、涙目で睨みつけられる。

 これはもしかして――


「足、痺れてたの?」

「そうよ! 二十分も正座してるんだから当たり前でしょ! あなた実はまだレイギスなんじゃないでしょうね!?」

「ご、ごめん」


 横に倒れたままビタンビタンと体を跳ねさせては地面に足をぶつけて悲鳴を上げるレオラ。

 その姿に、僕はただ謝ることしかできなかった。


 十分後、レオラの拘束が解ける。瞬間、脳天にチョップをくらった。


「痛い……」

「これで許してあげるんだから感謝しなさい」

「はい」


 まあ、僕とレイギスが全面的に悪いしね。素直に怒られるとしよう。

 そして僕たちは、改めて戦利品の確認をすることにした。

 もうレイギスの存在も、レイギスがグロリダリア時代の人間だってことも知っちゃってるみたいだし、あのレシピを翻訳してあげてもいいでしょ。

 レシピの書かれた羊皮紙を受け取り、それを翻訳してレオラへと伝える。

 すると唖然としたようにぽかんと口を開いたままになってしまった。


「え、じゃあ無価値の魔導具ってもしかして、全部料理のレシピなの?」

「全部とは限らないね。同じ人が作った遺跡とは限らないし。けど、かなりの数のレシピがあるってレイギスは考えてみるみたいだよ」

(料理好きの科学者は何人かいたからな。そのうちの誰かが、自分のレシピを残したがったんだろ)


 せっかく自分が生み出したものなんだもんね。それに、レイギスの言うグロリダリア人の行った昇華という行為は肉体からの解放だ。つまり食事を必要としなくなってしまうということ。これまでの研究が向こうの世界では全て無駄になってしまうと分かっていれば、物質世界であるこっちに残しておきたいと思うのは当然のことかもしれない。

 僕はもう一枚の羊皮紙に、レシピの翻訳を書いてレオラへと渡す。


「これが今回の財宝だね」

「ありがとう。お父さんに自慢できる――ううん、むしろお父さんに再現してもらわなきゃ」

「酒場の主人だもんね。料理も上手いの?」

「うん。自分で酒場始めちゃうぐらい、お酒も料理も好きなの。探索者の時も、自分で食材を調達して色々な料理に挑戦してたんだって。だからこのレシピのことを知れば、きっと子供みたいに大はしゃぎすると思う」

「それはちょっと見たくないかも」


 酒場の店主って僕のイメージだと髭の生えたダンディーなおじさんだからなぁ。そんな人がレシピを貰って子供みたいにはしゃいでいるところを想像すると笑いが。


(やったー! このレシピがあれば私の酒場はより繁盛するぞ!)

「ぷふっ」


 突然脳裏に、作った様な低い声ではしゃぐレイギスの声が響いた。


「え、どうしたの?」

「な――何でもない……くふっ」

(ワクワクして今晩は眠れないよ!)

(れ、レイギス……やめて。それはズルい)


 想像通りのセリフを言うレイギス。どうやら動揺して僕の思考が漏れてしまっていたようだ。


(フリかと思ってな)

「あ、レイギスが何かやってるのね! こら! 月兎に変なことするんじゃないわよ! 月兎もやられっぱなしじゃダメよ! 一発ぶん殴ってやんなさい!」

「それ自分を叩くことになるよ」

「そうだったわ……」

(ワハハ! 俺は誰にも止められない!)


 とりあえずレイギスの笑い声が非常にうるさい。

 高笑いは頭に響くのだ。


「そんなことより、月兎。あなたはこれからどうするの? どこか行く予定とかある?」


 レオラがまたもじもじとしながら尋ねてきた。もしかして、まだ足が痺れているのかな?


「特に決めてないよ。適当に町を渡り歩いて、遺跡があれば寄るって感じかな」

「じゃあ私の家――というか酒場に来ない? 遺跡の情報もあるだろうし、お父さんにこのレシピを作ってもらって食べてみましょ」

「それは嬉しいけど、レオラの家ってどこなの?」


 観光気分でもあるから、ここから一カ月離れた町まで直接行くとかはちょっと遠慮したいんだけど。大きな町とか交易都市とか王都とかも行ってみたいし。


「大丈夫よ。ここからなら二日ぐらいの距離にある町だし」

「意外と近かった」

「初めての探索だったからね。お父さんに近場にしなさいって言われて必死に探したのよ」

「そうだったんだ。でもそれならお邪魔しようかな」


 二日の距離なら、もしかしたら僕たちの行く予定だった町かもしれないし。


「やった! じゃあ決定ね」

「うん。道案内よろしく」


 小さくガッツポーズした後、手を差し出すレオラ。僕はその手をがっちりと握り握手を交わした。

 こうして僕たちはレオラの実家がある町、マヌアヌへと向かうことになったのだった。

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