2-1 道に迷った先にあるのは、ボロボロのつり橋と偶然の出会い
夏コミの原稿、無事入稿が完了しました。
お待たせしました。投稿再開します。
試験的に分量を五千から少し減らして、投稿間隔を狭めてやっていきます
村を出発してから早一日。僕たちは森の中の一本道を地図を見ながら進んでいた。
大雑把な地図なため、正確な位置は分からないが、だいたいこの辺りだろうと当たりをつけて進んでいる。
けどどうも様子がおかしい。
「ねえ」
(んあ)
「道、間違えたんじゃない?」
地図的にはそろそろ森を抜けて草原に出てもおかしくはないと思うんだけど、一向に森を抜ける気配がない。
(予定的にはどうなってんだ?)
「そろそろ森を抜けてもおかしくない感じかな」
(なら間違ってんだろうな)
「そんな。しっかり地図通りに歩いてきたのに」
ここまでの道はほぼ一本道。分かれ道も複雑なものはなく、二本に分かれているのが一つあっただけだ。それも左右がはっきりしていた道だから、地図に合わせて左へと曲がったのに……
(爺さんが言ってたじゃねぇか。その地図だいぶ古いやつだって。新しい道が出来ててもおかしくはねぇだろ)
「そんなぁ。じゃあ今から戻るの?」
(特に急ぐ旅でもねぇし、このまま真っ直ぐ行ってみるのもいいんじゃねぇか。新しい道が出来てるってことは、その先に何かがあるってことだ)
「村とか?」
(遺跡とかかもしれねぇぞ)
そんな頻繁に遺跡ってある物なのだろうかと首を傾げつつ、けどレイギスたちは結構好き勝手建てたって言ってたから意外とあるのかもしれないと思い直す。
「遺跡だったら潜ってみるんだよね」
(ま、道が整備されるほどってことは、きっちり調べられた後の可能性が高いけどな)
確かにそれもそうだ。となると期待薄かぁ。まあ、本当に遺跡があるのかどうかも分からないんだ。食料もまだたくさんあるし、行けるところまで行ってみよう。
淡々と道を進んでいくと、川に出た。
やや幅広であり、流れもなかなか強そうだ。時折水しぶきが上がっている。
そんな川にかかっている橋は、今にも崩れそうなつり橋だった。
「これは……落ちるね」
(落ちるかもな)
渡ってみないと分からないなんて馬鹿なことは言わない。
僕は今、旅の道具五キロ以上を背負っているのだ。体重が六十前後だから、合わせれば六十五キロ以上。あのボロボロのロープと足板が耐えられるわけがない。
「別の橋を探せるかな?」
(難しくねぇか?)
ここ以外の道はない。左右を見ても、森、森、森。一応川辺に木は生えてないけど、斜めに飛び出している木もあるぐらいだ。歩いていくのはちょっと厳しそう。
(行ってみるか!)
「バカなの!? 落ちるって言ったばかりじゃん!」
(じゃあ戻るのか? さっきの何もない道を淡々と歩き続けるのか?)
「それしかないでしょ。それとも一緒に溺れてみる?」
確かにちょっと辛いかもしれないけど、川に落ちて流されるより断然マシだ。というか、レイギスは自分が体を共有していることを忘れているのか? 僕が死ねばレイギスも死ぬんだぞ?
(まあ仕方ねぇか。宿主様の意見は絶対だからな)
「そうそう。安全第一」
踵を返して元来た道を戻ろうとしたとき、魔力で強化されている僕の目が、橋の向こう側から掛けてくる人の姿を見つけた。
少女だ。
僕と似たような動きやすいシャツとズボン、それにポケットの沢山ついたベストを羽織っている。
背中にも何か背負っているようで、走るたびに激しく揺れている。
少女は一目散に走ってくると、躊躇うことなくつり橋へと飛び込む。
ロープが軋み、床板が悲鳴を上げる。とても渡り切るまで耐えられるものではない。
「あぶない!」
僕が声を上げるのとほぼ同時に、少女が床板を踏みぬいた。
茫然とした表情の少女が、一瞬にして僕の視界から消える。
ドボンッという音と共に、水しぶきが舞った。
「レイギス!」
(荷物は置いてけ! 邪魔なだけだ!)
助けるよというよりも早く、レイギスはやるべきことを教えてくれる。
即座に背負っていたリュックを木の根元へと投げ捨て、川へと飛び込む。
いったん水面へと浮かび、少女の位置を確認。すでに流されてしまっていて少し距離が出来ている。
張り付いた服で動きにくい体を強引に動かし、少女の元へと近づく。そしてその腕を取った。
無我夢中だったのだろう。少女はそのまま僕の体に抱き着いてくる。
しっかり抱き着いてくれたのはむしろありがたい。下手に暴れられると、僕まで溺れちゃうし。
川の流れは強いけど、僕の体なら何とか!
(岩が近い。気を付けろ)
(うん)
必死に川辺を見ていても、レイギスが視界の隅に入ったものをチェックしてくれる。
流れと岩の位置を確認して、迂回しながら僕たちは川辺へとたどり着いた。
「ふぅ、何とか助かったね」
「ケホッ、ケホッ」
少女は水を飲んでしまっていたのか、ゴホゴホと咳き込んでいる。けど、意識も呼吸もしっかりしているし大丈夫そうだ。
「大丈夫?」
少女の咳が落ち着いてきたところで、僕は尋ねる。
少女は深呼吸して息を整えると、座り込んだまま答えてくれた。
「スー、ハァー。もう大丈夫よ。助けてくれてありがとう。あなたは誰?」
「僕は月兎。旅人みたいなものかな? それにしても、あの橋を駆け抜けようなんて流石に無茶でしょ」
(だな。荷物はほぼないようだし、慎重に行けば渡れたかもしれねぇけど)
少女の荷物は、小さなリュック一つだけ。とても旅をしているようには見えない。
この近くに村でもあるのかな?
「私はレオラ。ごめんね、ちょっと追われてたもんだから」
「追われてた?」
うん、トラブルの気配だ。
(レイギス、困っているなら助けるよ)
(まずはしっかり事情を聞けよ。こいつが悪いって場合もあるからな)
(うん)
実はレオラが万引きやスリで追われてたのに、追ってきた人を悪い奴だと決めつけると大変だ。
両者の事情はきっちり把握しておく。人助けにおいてこれは欠かせない確認である。これを疎かにすると、僕が人を困らせる存在になっちゃうからね
「なんで追われてたの?」
「私、探索者なのよ。この先にある遺跡の調査をしてたんだけど、後から来た探索者の人たちがここは俺たちが調べるから出て行けって。それで口論になっちゃって、それがなぜか女一人なら捕まえろって話に変わってきたから身の危険を感じてね」
「それで逃げてきたと」
「うん」
うーん、話を聞く限り相手側が悪い気がする。後から来て先に調べていた人に出て行けっていうのも酷いし、それ以上にレオラを捕まえろっていうのはかなり問題だ。やってることが完全に盗賊だし。
「こういうことってよくあるの?」
「遺跡の調査でぶつかることはまあまああるけど、捕まりそうになったのは初めてかな。たぶん半分盗賊みたいな集団だったんだと思う。じゃなと、調査の終わってるあんな遺跡にくることなんて無いだろうし」
探索者になったはいいけど、遺跡の調査で思うように稼ぐことができず、結局盗賊のような存在になってしまう。そんなことは意外と少なくないらしい。
もともと探索者なんて、フィールドワーク派の研究者か、一攫千金を狙ったならず者が多いからだ。
研究者は資金を提供してくれるパトロンがいるから困らないが、自分の資産でなんとかしなければならないならず者は、食うに困れば盗賊になるしかないとのこと。なかなかギャンブルな職業である。
(レイギス、どう思う?)
(まあ、ありがちっちゃありがちだな。嬢ちゃんの言い分に違和感はねぇ)
(じゃあレオラを信じて助ける方向性でいいと思う? どっちみちこの先に遺跡があるなら、僕も調査してみたいし)
(そうだな。ま、この嬢ちゃんが諦めてなければの話だけどな)
確かにそうだ。レオラがもういいというのであれば、一緒に町まで行く方向になると思う。見たところ食料も持ってないようだし、こんなところには放っておけない。
「レオラはどうしたい?」
「どうするって?」
「もう一度その遺跡に行きたいか、それとも諦めて町に戻るのかだよ」
「もちろん行くわよ! あそこに私の道具一式もあるし、何より私隠し通路みたいなのを見つけたんだもん! せっかく未探索エリアがあるかもしれない場所を見つけたのに、みすみす逃したくなんてないわ!」
なんだかんだ言ってこの子探索者をやるだけ我は強いようだ。襲われる危険性よりも夢を追いかけている。まあ、結構危険な思考だとは思うんだけどね。
「じゃあ行こうか。あ、橋壊れちゃってるんだよな。どこか違う道知ってる?」
「え、え? 行くって、あなたも来るんですか?」
「乗り掛かった縁だからね。それに僕も探索者なんだ。協力するよ」
「えっと、ありがとうございます?」
こういう時には女顔って意外と便利かもしれない。同じ探索者から襲われたばかりだって言うのにすんなり受け入れてもらえるんだから。




