ょぅι゛ょときこり
ガルバン回です
久々にガルバンに会った。
町への用事のついでにアマンダの店に顔を出したのだが、なかなかにモテている。
・・・女性冒険者たちに。
前回、俺たちと来た際には彼女たちがいなかったので分からなかったのだが、かなり前からガルバンを冒険者にして自分たちのパーティに入れようと考える人間は多いのだそうだ。
この体格だ、フルプレートでがっちり固めて、大き目の楯でも持てばタンク役としては魅力的だろうし、武器としてではないが斧も使い慣れている。
性格だって悪く無いし、コワモテの外見も女性主体のパーティならば異性関係のトラブル避け兼抑止力として、かえってプラス条件だろう。
アマンダとの力関係で女性の命令に従うということに慣れているのも、女性がリーダーのパーティの場合、いい要素となる。
うん、確かに争奪戦起きるレベルだな。
あのチンピラたちがガルバンに絡んでたのって、単に自分たちを強く見せるためだけでなく、こうした状況への嫉妬もあったんじゃね?
俺も前世だったら「あのガルバンですらモテているのに~!」と嫉妬してただろうしな。
見てくれに反して争いごとを好まないガルバンはすべての誘いを断っているが、その肉体を見れば「もったいない」と思ってしまう気持ちも分かる。
この宿は女性主体だから女性冒険者からの誘いの光景をこうして俺は見ているのだが、もちろん男性冒険者たちもガルバンに誘いをかけていて、過去には恩着せがましく「騎士にしてやろう」と勧誘してきた貴族も居るとか。
こんだけデカくて強そうな騎士従えてりゃ気分もいいだろうし、他者への見栄が大事な貴族の場合、立派な鎧着せて側に居させりゃ自分も偉く見えるしな。
たとえ見かけだけの木偶の坊だったとしても貴族的には「買い」だろう。
本人は樵をしてる方が幸せみたいだけどな。
こうして久々に会ったことで「そう言えばガルバンの家にその内に遊びに行くようなことを言ってたっけ」と思い出した俺は、ウサルを介してガルバンと話をし、その間に2号と3号を動かして、シルバーくんとニシャちゃんの都合の確認と母親からの許可を得て、ガルバンの家に遊びに行く約束を取り付けたのであった。
◆
◆
「ち・よ・こ・れ・い・と」
「「「じゃんけんぽん!」」」
「ぐ・り・こ」
ガルバンの家に向かう道すがら、ミミルはニシャちゃんとシルバーくんと遊びながら楽しそうに笑顔を見せている。
最初に会った時から比べると、声も大きくなったし、良く笑うようになったな、ミミルも。
走るのが好きなシルバーくんは自分の足で、ミミルとニシャちゃんはウサルと3号に乗ったり、自分の足で歩いたりしている。
2号と4号は冒険者稼業で俺たちの向かっているガルバンの家とは逆方向の郊外に出かけている。
「だからな、ぎゅっとやってがーっとやってぶーんとやるんだ!」
「よくわきゃ・・・わからにゃいよ、しるばーくん・・・。」
シルバーくんはかなり使いこなしているいる魔力の手、別に亜人以外の人間が使えないわけではなく、興味を持ったニシャちゃんが「とっさの防御とかにも使えるし、魔力の使い方の練習にもなるしね。本人にやる気があるんなら練習してもいいんじゃないかな」とのガーデオの許可も得て練習をしているのだが、それを見たシルバーくんが使い方の解説をしていたのがさっきの会話。
うん、ニシャちゃんは悪くない、俺もあの説明じゃ分からん!
ミミルはなんとなくだが、理解しているみたいだが・・・。
「こんなかんじでしゅか?」
「わあ、ミミルちゃんしゅごーい!」
「ほらな、ぼくのいったとおりだろ?」
ミミルが魔力の手を作り出すのに成功したようだが、俺だと「なんとなく」しか分からん。
魔法が使える組は視覚的に情報を得ているみたいだが、俺は気配的にしか感じられないのだ。
ミミルが制御がミミルより得意なニシャちゃんより先に魔力の手を成功させたのは、ここ最近の本体の操作練習で意志で何かを動かすというものに慣れていたせいかもな。
「にしゃたん、えっとね。かりゃだのにゃかのまほーのちからをおててにあちゅめてみて?」
「こうかな、ミミルちゃん。」
「しょう、しょしたりゃね。しょれをおしょとにのばしちぇみて?」
「む、むじゅかしいけど、にゃんとか。」
「しょれをいっぱーいれんしゅうしゅればできるよーになりましゅ!」
ミミルがニシャちゃんに自分の言葉で一所懸命教えている。
うん、感動だな!
自分より引っ込み思案で、何かあれば頼ってくるニシャちゃんに会って、ミミルはかなりしっかりしてきた様に見える。
ミミルと会って少し社交性を取り戻し、魔法を勉強するようになって自信らしきものも身につける様になってきたニシャちゃんも、お母さんが喜ぶほど子どもらしく元気に遊ぶようになってきている。
お互いにいい出会いだったよな。
一方、シルバーくんは魔力の手の勉強にちょっと飽きてしまったのか、少し先まで駆けていっては戻ってくるのを繰り返している。
子どもは元気だよな。
大人だと、こういう無駄と思える動きはしたくないもんだ。
遊びと生活の区分が不分明というか、そもそもそういう意識が全く無いというか。
・・・なんか、俺年寄りくさくね?
◆
◆
遊んだり、かけっこしたり、魔法の練習をしたりと、時間をかけながらもガルバンの炭焼き小屋に到着した時には、すでにお日様も高い位置に来ていた。
「昼ぐらい」という約束であったので、時間的に遅れたということはないが、既に一仕事を終えてきたらしいガルバンは、少し手持ち無沙汰な様子に見えた。
なんか、ちょっと可愛げのある姿だ。
弟分としてアマンダが可愛がっているのも分かる気がする。
さて、ここでお待ちかねのお昼ご飯だが、ガルバンが狩って来たイノシシ丸焼きとか、そういう男の豪快料理ではない。
そもそもガルバンは猟師じゃないし、自衛のためか害獣の駆除でも無ければ狩りはしない。
言ってみればガルバンの斧は料理人にとっての包丁みたいなもの。
咄嗟の際には身を守るために使う事はあっても、それを戦いや狩りのために使うなどとは考えないものなのだ。
話がそれたが、じゃあ昼飯は、というとアマンダに作ってもらったシチューと、宿屋で冒険者にお弁当としても販売しているサンドイッチを作ってもらってきたのだ。
シチューも含めるとガルバンも一緒に食べても多過ぎる量だが、そこは姉貴分としてのアマンダのガルバンへの心遣い。
余ったシチューは火を入れなおせばしばらくはもつし、食べ終わったら鍋を返しにいかなくてはならない。
なかなか山から町に出てこない弟分に対する「もう少し町に顔を出しなさい」という無言のメッセージなのだ。
宿で忙しいアマンダの方からガルバンに会いに行くのも難しいしな。
ガルバンが転がしてきた大き目の切り株をテーブルに、輪切りにしただけの木を椅子にして外での食事。
既に食べ慣れたといっていいくらい馴染んだアマンダの料理だが、外で食べるとまた違った気分で格別だ。
子どもたち3人とも旺盛な食欲で、ガルバンより食べてるんじゃないかと思えるほど。
「遊びに来てくれたのはいいけど、この辺りに見て面白いものなんかないぞ?」
「ガルバンには見慣れたものかもしれないけどね、町で暮らすミミルたちにしてみれば物珍しいし、生まれて初めて見るものだってあるんじゃないかな?」
「そういうもんか?」
「そういうもんなの。」
炭焼きの窯を見せてもらったり、切って乾かしている木を見せてもらったり、木の側で虫を見つけたり、その虫にシルバーくんが鼻を噛まれそうになったり、周りの森から聞こえる鳥の声に「どこかな?」「あっちだよ!」と姿を探してみたり、ガルバンの「子どもには面白くないんじゃ?」という懸念を吹っ飛ばす勢いで子どもたちは自分たちで色々と楽しいことを見つけていた。
「ここが普段飲む水を汲んでる湧き水だ。」
斜面からちょろちょろといった感じで水が流れている。
量は多くないが、下に甕が置かれていて、時間をかけて溜まった水を利用しているのだとか。
「ちゅめたーい!」
「おみじゅおいしいよ!」
「まちのみずよりおいしいや。」
ミミルたちも飲んでみて感想を口にしている。
ただ、水の量がさほど多くないので、洗濯などは下まで降りて川でやっているのだそうだ。
「雨水とかも使うけどな、いつでもあるってもんでもないし。」
「洗濯物貯め過ぎるとアマンダに怒られるよ?」
「町に行く時はマシなのを着る様にしてる。」
そんなこんなでそろそろお別れの時間。
日はまだまだ高いが、同じ宿のシルバーくんはともかく、ニシャちゃんは日が暮れる前におうちに帰さなくてはならない。
「がるばんしゃん、ありがとー!」
「たのしかったでしゅ!」
「また、あそびにきていい?」
別れの挨拶を済ませ、手を振りながら帰途へ。
ガルバンデカいから、視界が遮られるまで良く見えるな。
ミミルたちも楽しかったみたいだし、もう少し大きくなったらキャンプみたいな感じで来てもいいかもな?
◆
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「きょうは、がるばんしゃんのところへあそびにいきました。がるばんしゃんはおおきいけど、まわりのきはもっとおおきかったでしゅ。みんなでごはんをたべて、がるばんしゃんのいえのまわりをみました。おみじゅがおいしかったでしゅ。」
声を出しながらミミルが絵日記を書いている。
町に戻ってニシャちゃんをおうちに送り届けると、夕食を済ませ、先ほどお風呂も終わったミミルは、楽しかった今日の出来事を絵日記に書いているのだ。
先に絵を描いて、文を書き上げたところ。
嬉しそうに毎回書き終わるとウサルに見せてくれる。
楽しかったのが良く分かる絵だ。
・・・でも、ガルバン、大きすぎじゃね?
手がミミルの全身よりデカいぞ?
またまたちょっと短め^^;




