表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その指先に閃光を  作者: 安井優
ボーナスステージ.俺は、一番になれない、でも

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/61

後日譚

 俺と明の借金返済RTAは、あの後伝説になった、らしい。


 らしい、というのは、俺は自分の映っているRTA大会の配信を見返す気にはなれなくて、翔太から聞いた話でしかないから、なのだが。


 ネットでも騒ぎになったようだが、俺と明は、どうぶつの町借金返済RTAを引退し、次なるゲームに勤しんでいたし、そもそも明は配信活動もやめて、俺も表舞台から完全に消え去ったことで、その話題に触れる機会はなかった。


 情報だってどんどん入れ替わる。一か月も過ぎれば、俺たちの話題もすっかり落ち着いて、春休みを迎えた今、俺たちを追いかける者もいなくなりつつあった。


 そんなわけで、俺と明は相変わらず親からの「勉強しなさい」なんて圧に耐えながらも、俺の家に集まってはコントローラーを握っている。


「え、そこ通れんの?」

「う、うん。む、難しいんだけど、コツ掴めば通れるよ」

「まじかよ。てか、それどこ情報?」

「な、なんか、海外の人に教えてもらって……」

「相変わらずすげえな、お前」

「え、えへへ……」


 今は、この冬発売されたばかりの新作ゲームのやりこみ中で、俺と明はやっぱりRTAにこだわってプレイしている。


「ねぇ~! そろそろ休憩しようよぉ!」


 熱中する俺たちを画面から引き剝がすように、翔太が俺の脇に手を入れる。


「おい、やめろ、バカ!」

「えっへへへぇ~、亮ちん、くすぐったがりぃ!」


 嫌がる俺を見て、明がクスクスと笑う。


「おい、助けろよ」

「えっ⁉ む、無理だよ!」

「相棒だろ」

「そ、それでも、無理!」


 明に助けを乞うた俺が悪いのか? 俺は翔太にくすぐられ、身をよじって笑いを耐える。明はそんな俺と翔太を楽しそうに見ながら、コントローラーを置いて圭介と大斗に餌付けされていた。おい。


 仕方なくコントローラーを離せば、翔太がようやく手を止める。


「はぁ……まじで、お前、覚えとけよ」


 翔太と明を睨みつければ、二人は顔を見合わせて「こわぁい!」「ねぇ」とうなずき合った。まじでお前ら、覚えとけ。


「まあまあ、休憩も大事だし。てか、このシュークリームめっちゃうまいよ。明のお母さん、料理うまいよなあ」

「圭ちゃん! 食べ過ぎ! 俺の分はぁ⁉」

「翔太の分とかあんの?」

「信じらんない! ねぇ、亮ちん、ヒロがひどぉい!」

「お前を助ける義理はねえ」


 俺は翔太を置いて、明が持ってきてくれたシュークリームを口に放りこむ。明の好物らしい。


 部屋で騒いでいると、ノックの音が聞こえた。


 やべ。うるさくしすぎたかも、と俺たちは全員口をつぐむ。びしりと姿勢を正して扉を見れば、うっすらと開いた扉の向こうから、兄貴が顔を出した。


「ただいまー。賑やかだったから、つい」

「わりぃ」

「いいよいいよ。はい、これ、差し入れ」


 俺が謝ると同時、兄貴は爽やかな笑みで俺たちにお菓子とジュースの入った袋を差し出す。


「え、まじで。サンキュ」

「ゲーム頑張ってってのも変だけど。あ、四人とも、亮と仲良くしてくれてありがとね」

「どういたしましてぇ!」

「おい、恥ずいからやめろ。てか、兄貴もさっさと部屋戻れよ」

「はいはい。それじゃ、みんな、ゆっくりしていってね」


 もらった差し入れを片手に、兄貴を部屋から追い出す。


 扉を閉めれば、みんなのニヤニヤとした顔が目について、「うぜぇな!」と俺は顔をしかめた。


「仲良くしちゃってぇ」

「す、すっかり仲よし、だよね!」

「いいお兄ちゃんだよなあ」

「まじそれ。亮にはもったいなくね?」

「うざ! これやんねえぞ!」

「あ、うそうそうそ! ください、ごめんなさい、ちょうだい!」


 身代わりの早い翔太たちに苦笑しつつ、俺はまた五人の真ん中に袋を下ろして座る。


 一人部屋は狭くて、ギュウギュウになりながら、五人で固まってお菓子やジュースを好き好きにつまんでいく。


 部屋にはゲームのBGM。


 そのBGMの変わり目で、俺と明は反射的に顔をあげる。


 今練習中のRTAで技を出すタイミング。


 顔を上げたら目が合って、俺と明は同時にフッと笑みをこぼした。


「あ、また脳内RTAやってる」


 圭介に気づかれ、大斗からも


「まじで二人ともきめぇ」


 とからかわれる。唯一気づいていなかった翔太だけが「へ?」とシュークリームを口いっぱいに頬張りながら首をかしげた。


「なんでもねえよ」


 俺が笑うと、明も大きくうなずいてごまかす。


「これ食い終わったらゲームすっか」

「えぇ! またぁ? ほんと好きだねぇ」


 翔太からの悪態も気にせず、俺と明は手を拭いてコントローラーに手を伸ばす。


 瞬間、指先にチリリと閃光が走る。


 高鳴る鼓動と、上がる体温。


「明、ゲーム、やろうぜ」


 もはや口に馴染んだそのセリフに、俺と明は笑いあった。


 俺は一番になれない。


 でも。


 明と、みんなと、一緒にいられれば、それ以上に幸せなことなんてなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 大変遅くなってしまいましたが、完結まで読みました。 RTAと男子学生の青春を結びつける題材にびっくりするとともに、その感情の機微にただただのめり込んでしまい、一気に読んでしまいました! 素…
[良い点] 最後までの執筆、お疲れ様でしたーッ! 青春をRTAでやる、という視点に、最初から驚かされっぱなしでした。 しかしその中にある王道のストーリーには、もうずっと手を握りっぱなしで……喧嘩から…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ