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その指先に閃光を  作者: 安井優
ステージ6.栄光を勝ち取れ!

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58/61

6-16.

「みっなさぁーん! はっじめましてぇ! 解説役の翔太どぅぇすっ!」


 明が戻ってきたことで、緊張を吹き飛ばしたのか、いつもの数十倍以上テンションを上げた翔太の声がキィンと会場中に響き渡った。


「さてさてぇ、今回の走者はこちらぁ! 亮ちんとぉ! 皆さんおなじみ、メイくんです!」


 翔太に紹介され、俺と明は控えめに会釈する。それだけでも会場はざわめいて、やっぱメイって人気なんだな、と俺はその知名度の高さに舌を巻いた。当の本人は、顔だしが初めてってことや、いつもとは違うゲームを走る緊張感でそれどころではなさそうだが。


「今回は、みなさんお馴染み! どうぶつの町で、借金返済RTAやっていきまーす! 気になる季節は、なんと! 超ハイリスク、ハイリターンでおなじみ! 冬のチャートです! しかも、リモコン型のコントローラーで操作します!」


 説明を受けて再びどよめきが起きる。コメント欄も『待ってました!』『生放送で冬⁉』『楽しみ』『お祈り?』など、パッと見ただけでもすごい数のコメントが流れていく。


「みんなで完走のお祈り、お願いしまーすっ! あ、後! 俺の推しキャラねこちゃんが出てくるのもお祈りよろ~!」


 翔太の軽快なトークに笑いが起きる。会場の雰囲気はあたたかく、俺たちの緊張も少しほぐれた。それを見計らってか、翔太が「じゃ、走りますかぁ!」と俺たちに合図を送る。


 俺は明に拳を見せた。


 明は一瞬、キョトンとしたが、すぐにハッと目を見開いて拳を握った。俺が笑えば、明も笑う。


「かまそうぜ」

「う、うん!」


 コツン、と軽く拳をぶつけあえば、翔太の「それじゃあ、カウントダウン、行きまーす」と五秒前のカウントダウンが始まる。


「三、二、一……」


 会場一体となったカウントダウンに俺と明はリモコン型コントローラーをかまえ――


「スタートです!」


 同時にボタンを押し込んだ。それまで流れていたなごやかなBGMが途切れ、軽やかな電子音を立てて、画面を暗転させる。


 はじまった。


 もう、戻れない。


 俺は画面の切り替わる一瞬も見逃さぬよう、ボタンを連打していく。


「さあ、まずは町へのお引越しをする、ということで、町の名前と主人公の名前、性別、それからお誕生日を決めていきますよぉ!」


 名前は最速入力できると明から教わった記号、性別は決定ボタンに近い男。


「おおっと! ここでまさかの二人とも同じ誕生日だ! すごいです、すごい確率です! うるう年なら三六六日分の一の確率です」

「なんでうるう年なんだよ」


 俺と翔太の掛け合いに、会場からまたも笑いが起こる。


 もちろん、俺も明も実際の誕生日は別々だ。プレゼントをもらって借金返済の足しにするため、わざと日付を決めている。ここだけは少し時間がかかってしまうが、トータルでみればこのほうが速い。二人で練習しながら決めたチャートだった。


「さ、ここまでは二人同時! メイくん、調子はどうですか?」

「あっ、げ、元気です!」

「亮ちんはぁ……あ、緊張してますねぇ」

「元気だろ」

「はい、というわけで早速町に着きましたね! お引越し完了ということで」

「おい、流すな」

「亮ちん、うるさいなぁ。元気なのはわかったから、集中してくださーい」


 再び会場から笑い声が聞こえる。大斗の「おい、やる気だせー」という野次も加わって、会場はさらにアットホームな雰囲気に包まれていく。


 俺は言われなくても、と手慣れたリモコン操作でマップを開く。ロード中の暗転画面に切り替わり、俺と明は同時に息をついた。


 どうやら、明も同じタイミングだったらしい。


 翔太も画面が暗転したことを確認して、


「さ、ここで一つ目の運試し、マップガチャです! 皆さん、お祈りを!」


 と声を上げる。


 どうぶつの町のマップ生成は毎回完全ランダムだ。これについては、本当に固定化する方法が見つからなかった。


 借金を返済するため、タヌキの店でアルバイトをするのだが、当然、RTAではこのアルバイトをいかに素早く終わらせるかがタイムを縮める鍵となる。


 町の住人たちへの荷物を届けるウーバーイーツもどきなアルバイト、という性質上、店から近い住人の家が出れば早く完了させられる。だから、店の周りに住人たちの家が集まっていればラッキー。遠ければ遠いほど、ここで余計な時間を使う羽目になり、アンラッキーというわけだ。


 また、チュートリアル中、何度も役場へ向かう用事があり、役場の位置も重要だ。


 俺たちの画面が切り替わり……


「お」

「あ」


 俺と明は声をそろえた。同時、俺は机に置いていたタブレットに、明はメモ帳に手を伸ばす。


「おぉっと、ここでそれぞれ秘密兵器の登場だぁ! メイくんは何やら怪文書を生成中、そして亮ちんも写真撮影を行っています! こんなに真剣にこのマップを覚える人をみたことがあるでしょうかぁ⁉」

「うっし」

「行きます!」

「二人とも気合充分、マップの運もよかったみたいですね! 亮ちんが中吉なら、メイくんは大吉といったところ! さぁ、この差がどうでるのでしょぉ!」

「まじかよ」

「い、いい、マップ引けてよかった」

「これが日頃の行いの差です!」

「なんか今日の翔太、俺に当たり強くね?」

「日頃の行いの差です!」

「おい、大事なことじゃねえよ。二回言うな」


 明のマップのほうがいいのか。くそ。遅れをとらないように、操作でリカバリーしていかなければ。


 俺は翔太に悪態をつきつつ、早速役場へと走っていく。現在地と役場の位置は、俺のほうが近かったらしく、画面の暗転でチラと視線を横に投げれば、明はまだ町の中を走っているところだった。


「先に役場についたのは亮ちんだぁ! でも、ここからがこの借金返済RTAの怖いところ! 恐怖のウーバーイーツがついに始まります!」


 翔太の声に、会場がまたもざわめく。


 俺は呼吸を整えて、リモコンを握りなおした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >恐怖のウーバーイーツ 言い得て妙なのが、本当に笑います(笑) さあて運も味方につけ、隣には嫁さん。 あとは走り抜けるだけだが、果たして……ッ!? (*´ω`*)
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