6-2.
昼休み、昨日の成果報告をしたいという俺の勝手な理由にも関わらず、明は「僕も」と、中庭までついてきた。
それだけでなく、明も、昨日両親と話した内容を打ち明けてくれたのだから、相変わらず俺の友人とは思えないほどの善人ぶりだ。
「よ、よかったねぇ!」
俺の話を聞き終えた明は、俺の手を握りしめ、ブンブンと上下に振る。そのはずみで俺のひざにのっていた弁当箱が落ちそうになり、俺は慌ててそれを食い止めた。
「お前もな」
苦笑しながら弁当をひざの上に戻せば、明は「ご、ごめん、あ、ありがと」とちぐはぐな返事をしてはにかむ。
「ま、明は条件つきだから、手放しで喜んでいいのかわかんねえけど」
「で、でも……亮くんと、ゲーム、できるから」
明はにへらと俺にだらしのない笑みを向け、ようやく自分の弁当のフタを開ける。手をそろえ「いただきます」と背を丸めて言う明の丁寧さは、親への感謝にも見えた。
明の両親は、大学受験が終わるまでゲーム配信を禁止にしたと言う。
ゲームもしていいし、大会にも出てもいいとのことだったが、メイとしての活動はしばらく休止になるそうだ。
明はそれでも晴れやかな顔で、
「僕、ずっと、寂しかったんだと思う」
と、弁当のおかずを口に運んだ。
なんの話かわからなくて、俺は首をかしげる。と、明は「配信のこと」と付け加える。
「い、一緒に、ゲームできる人、あ、あんまり、いなかったから……。は、配信すれば、み、みんなと、一緒に、しゃべりながら、ゲームできるでしょ。だから、そ、それで、やってた、みたいなところもあって」
明は卵焼きを箸で二つに分けると、俺にその半分を差し出した。
「今は、りょ、亮くんがいるから」
話している意味はわかったけれど、明の行動の意味は全く分からなかった。
「……これ、もしかしてそのお礼?」
俺が卵焼きを見つめると、明は明らかに慌てる。
「ち、違うよ! お、おいしいから! あげる!」
「はは、サンキュ」
変なやつ。俺は代わりに母さんお手製のポテトサラダを半分、明の弁当に放り込んで、もらった卵焼きを口に運ぶ。あ、出汁巻きじゃん。俺の好きな味だ。
「たしかにうまいわ」
「りょ、亮くんの、家の、ポテトサラダ、り、りんご、入ってるんだね」
「兄貴の好物」
「あ、えっと……ご、ごめん」
「もう、気にしてねえから。兄貴のことも、嫉妬すんのやめたし」
照れ隠しってわけじゃないけど、素直になることに慣れていないせいか、なんとなく落ち着かなくて、俺もポテトサラダを頬張る。相変わらず、兄貴とは味覚あわねえなあって思うけど、別に、それも前ほど嫌じゃない。
「……とりま、これで練習できるな」
「う、うん! もうすぐ、冬休みだし、そうしたら、一日中、できるよ!」
「だな。あ、てか、泊まれば? 俺ん家、毎日通うのだるいだろ」
「え、お、お泊まり⁉」
「あ、嫌じゃなければな」
「嫌じゃない!」
明の声が中庭いっぱいに響き渡る。圭介の持っているバスケットボールを一生懸命に追いかけていた翔太と大斗がこちらを振り向く程度には大声だった。
「声、でか」
「ご、ごめん……」
苦笑する俺に、自分の手で口をふさいだ明はしおしおと小さくなる。興奮すると声がでかくなるのは、どうやらこいつの癖らしい。
「で、いつがいい? うち、いつでもいいけど。誰もいねえし」
俺はスマホを取り出して、カレンダーを表示させる。
すでに冬休みに入っている大学生の兄貴は、テニスサークルの合宿とやらで年末まで帰ってこない。両親も、俺の冬休みと同時に毎年恒例の温泉旅行に出発する。
普段なら翔太たちを誘って朝から晩まで遊んだりするけれど、今年はまだその予定も立てていない。
「もしかしたら、翔太たちも誘うかもしんねえけど」
「ほ、ほんとにいいの?」
「いいって。てか、よくなかったら誘わねえし」
「い、行きたい! い、いつでもいい! あ、た、大会前に合わせたほうがいいよね?」
「だな。RTA合宿じゃん」
「が、合宿……!」
適当な俺の発言に、明の目がキラキラと輝く。あ、そうか。こいつ、こういう行事とか憧れてる系か。
明の食いつきが面白くて、俺はわざと、もう一度「合宿だな」と繰り返す。
明は首がとれそうなくらい顔を縦に振って、
「大会の前に! あ、お母さんたちに行っていいか聞いてみるから!」
とすぐさまスマホでメッセージアプリを立ち上げた。いつにも増して行動力がすごい。あと、声がでけえ。
明の声が聞こえていたのか、翔太たちが俺たちに大きく手を振った。
「今年も鍋パでしょ~! 俺、絶対参加ね~!」
「俺も部活終わったら行くから、よろしく~」
翔太と圭介の隣で、大斗もちゃっかり挙手している。参加する、ということなのだろう。
「RTA合宿だっつってんだろ」
俺が声を張れば、翔太は両手で大きな丸を作り、圭介も「了解~」とバスケットボールを弾ませた。大斗もうなずいて、圭介の手からボールを奪う。
「あいつらも来るって」
「う、うん! 楽しみだね!」
メッセージを送り終えたらしい明はふんすと鼻息荒く答え、残りの弁当を頬張った。
秋が戻ってきたんじゃないかって錯覚させるくらいあたたかな陽射しが俺たちを照らす。
隣から聞こえた「早く、冬休みにならないかなあ……」なんて小学生みたいな独り言が、俺の心にもひだまりを作る。
それは、今までの俺なら鼻で笑っていたか、学校がだるいからって理由でしか考えなかったであろう願いごとだ。
だけど、今日ばっかりは、俺も何年ぶりか、素直に楽しみな気分で、早く冬休み来ねえかなって思った。




