5-16.
「ぼ、僕……、お、親から、外出、禁止に、されちゃって」
明がポツリとこぼした本音に、俺は明の親に対しての不満が漏れそうになって、咄嗟にそれをこらえる。
予想してただろ。散々、明のことや、家のことを考えて、そういうこともありえるって、わかってたじゃねえか。だから、今は。
俺の不満を勝手にぶつけるんじゃなくて、明の話を最後まで聞かなくては。
俺が聞くぞって態度で示せば、明は戸惑いがちに、けれど、覚悟を決めたようにうなずいた。
赤くにじんだ目をゆっくりと閉じて呼吸を整える明の姿が痛々しくて、俺の心臓がギュッと縮む。
「……スマホ、取り上げられちゃって」
「うん」
「ゲームも、は、配信、してるって、いうのも、全部、バレて」
むしろ、今まで隠し通せてたのかよ、なんてツッコミを飲み込んで「うん」ともう一度うなずく。余計な口出しは不要だ。何度も自分に言い聞かせる。
「ぜ、全部……き、禁止、されちゃって……」
俺がうなずくと、明は小さく、小さく縮こまって食べかけの弁当にフタをした。
「それで、僕……どうすればいいか、わかんなくて……。りょ、亮くんたちに、迷惑、かけたくなくて……た、大会とかも……もうすぐなのに……全部、わかんなくなって」
また、泣くんじゃねえかってくらい声は震えているのに、明は泣きかたを忘れたみたいに笑顔を作った。
「こ、こんなこと、話したって、困らせる、だけだよね。ご、ごめんね」
それが、俺にはなによりも辛くて。
俺は首を横に振って、いつもの明みたいに、できるかぎり、表情も、態度も、全部、わかりやすくなるように努めた。嘘でもないし、お世辞でもないし、俺の全部、本当だって、明に伝えたかった。
明は再び深呼吸する。
沈黙で終わってしまうのが嫌で、俺はなにから話せばいいのか、話すべきことはなんなのか、事前に考えてきたことを思い出す。
「……前に、家には来ないでほしいって言ったのって、それと関係ある?」
まずは、外側から。本題から遠いところから、少しずつ、踏み入っていいラインまで探る。
ゲームの攻略みたいで嫌だったけれど、人間が人間をもとにしてゲーム作ってんだからいいんだって、大斗が言っていたことを呪文みたいに唱えた。
そうしているうちに、明が「う、うん」と控えめに肯定する。どうやら、これで正解だったらしい。
「親が、関係してる?」
ちょっと前に流行った、特定アプリみたいだなって思った。はいか、いいえ。二択の質問で、想像したものがなにかを当ててくれる、そんなアプリのインド人みたいなおじさんを思い出して、俺は顔をしかめる。
明はそんな俺には気づかず、またも「うん」と小さく答えた。
「明ん家の親、厳しそうだな」
「そ、そうかも」
「外出禁止にして、スマホ取り上げて、ゲームとかも全部とったんだろ?」
「うん」
「厳しいんじゃね」
「……だね」
「それさ、中間テストも、関係あんの」
「うん」
「期末テストは?」
「関係、ある、かな……」
いくつもの質問を重ねて、俺はようやく見えたラインの上に立つ。
そこから一歩を踏み出すのが怖くて、俺も、明をまねて深呼吸した。これで、最後だ。
「……俺と、ゲームしてたせい?」
先ほどまで肯定を繰り返していた明が脊髄反射で顔を上げたのがわかった。その表情は驚きや戸惑い、悲しみを含んでいた。
その表情が質問を肯定していると同義だと受け取る俺に、
「違う!」
と明は真逆の言葉を発して首を大きく横に振った。
そうだと認めたくない、と本心で訴えているのがわかって、現実と明の心、どっちも本当だろうなって、今度は俺が「うん」とうなずく番だった。
どっちも、正解なんだ。多分。
俺とゲームをしていたせいで、こいつは勉強をする時間がとれなかった。成績が下がって、中間テストの点数も悪くなって、期末テストも多分、点数悪くて。それで、親に色々と勘づかれたのだろう。外出禁止、スマホ禁止、ゲームも配信も、もちろん禁止。
だけど、明は、ずっとそれが悲しくて、辛くて、俺にも言えなくて、不安で――
俺とゲームしたいって、そう思っててくれたんだって。それだけで。
それだけで。
「……よかった」
安堵とともに素直な言葉を吐き出すと、同時、自然と笑みがこぼれた。
俺が笑っていることに驚いたのか、明は「え、え⁉」と困惑している。そりゃそうだよな。だって、まじ、意味わかんねえもんな。
「……なんでもねえ。いや、なんでもなくはないか。別に。嫌われたわけじゃなくてよかったわって話」
「ぼ、僕が⁉ 亮くんを⁉」
「そ。俺とゲームすんの嫌になったんじゃねって……正直、めっちゃびびってた」
「そんなわけない!」
「避けてたじゃん」
「さ、避けては……い、いたけど……ごめん……」
「いいって。まじで、いや、よくねえけど。お前の状況考えたら、まじでなんとかしねえといけないけど」
でも。明が、俺とゲームしたいってまだ思ってくれているのなら。
「困ってるのを助けるのが、友達なんだと」
俺、お前のこと助けられるって自惚れてもいいよな。
圭介の言葉を借りなくちゃ、助けたいって本音すら言えない自分が恥ずかしいけれど。借りてでも、こんなくさいセリフを言えるようになっただけマシだと俺は自分に言い聞かせて、明を見つめる。
「俺にできること、あんなら、全部言え。俺が、なんとかする」
嘘じゃねえぞって気持ちを全部込めた。
明が俺を見つめ返し、真っ赤になった目を潤ませる。
「りょ、亮くん……」
明が泣くのを見るのは何回目だろう。
明が泣くのを、俺はこの先、何度見ることになるのだろう。
俺は持っていたポケットティッシュを明に手渡して苦笑する。
「泣くな。謝んな。堂々としてろ。胸張れ」
言いたいことはまだまだあって、でも、いつか全部明に届いて、明が俺の隣で当たり前に笑うようになればいいって、泣きながら苦笑いを見せた明に俺はそんなことを思った。




