5-14.
明がオドオドしながら初めてだと笑っていた茅ヶ崎駅前のコーヒーショップに翔太たちと陣取って、俺は早速ルーズリーフとペンを取り出す。
どうすれば、明に本当のことを打ち明けてもらえるのか?
RTAの大会までにやるべきことはなにで、明とどうやって時間の折り合いをつけていくべきなのか?
もしも、本当に家庭の事情とやらで明がどうにもならない状況だったら、誰に頼って、どんなふうに助けてやれるのか?
高校生の、それも、今までこんなことを意識したこともないような、比較的恵まれた家庭育ちの俺が出せるギリギリ限界のところまで、疑問や対策を話しながら詰めていく。
「だいどーくんって、押せば絶対に言うよねぇ」
「脅す?」
「大斗、言いかた。でも、そんな方法で聞いたって、本当のことは全部言わないんじゃね?」
「えー、じゃあ、遠回しに聞くってこと?」
「てか、そもそもあんな状況で会話できんのかよ」
「たしかに……。明を捕まえるところからだよな」
「だいどーくん、ゲットだぜ! ってこと?」
「翔太、悪い、ちょっと黙ってて」
「え、圭ちゃん、ひどくない?」
「いや、圭介の言う通りだろ」
口々に好きなことを言いながら、出た案をひとつずつメモしていく。
放課後じゃなくて、昼休みに話しかけたほうがいいとか。変にごまかさないほうがいいとか。RTAの大会を引き合いに出せば、責任を感じて、勝手にしゃべりだすかも、とか。
家に行くのはやっぱり強行突破かも、ってそこは全員で意見を合わせて、逆にそのレベルになるなら、先生とか、兄貴とか、信頼できる大人を頼るのもありなんじゃないかって圭介らしい意見も、取り入れたほうがいいだろうなと俺はペンを走らせる。
拉致だの監禁だのと途中で挟まれた大斗のブラックジョークはスルーして、もしも明が本当に時間のとれない状況だったらどうするか、まで話を飛躍させていく。
「明との練習は諦めるべき?」
「……まあ、そのときはそうじゃね?」
「だねぇ。残念だけど。別に二人じゃなきゃできないってわけじゃないじゃん」
「だな。てか、その解説? ってやつはどうすんの?」
「あー……それは結構迷ってる。明にも相談してぇけど……こんなことで負担かけさせんのもな」
「だよなあ。大斗、誰か知らない?」
「さすがに無理」
「あ、それさぁ、俺たちじゃダメなの? ほら、俺も、ヒロも圭ちゃんも、一応だけど、亮ちんと一緒にゲームはできるわけだし?」
「……まじ?」
「大マジ~! いい案じゃない?」
「ま、でもそれも大道くんに相談したほうがいいんじゃない? もう誰か声かけちゃってるかもだし」
「だな……。それも相談っと……」
俺がメモを書いている間にも、三人が話を進め、次から次へといろんな案が出る。
俺一人じゃ、なにもできなかったかもしれない。そう思うと、翔太たちが当たり前に明を受け入れて、俺だけじゃなくて、明を真剣に心配してくれていることが、どれほどありがたいことかわかる。
俺が三人をじっと見つめていると、それに気づいた大斗が「手、止まってる」と指摘する。
感謝を伝えるべきなのだろうけど、俺の中で、もう聞き飽きたって言われるんだろうなって予感がして、今は明攻略RTAに全力を注ぐことに改めて意識を向ける。
「とにかく、できるだけ早いほうがいいよな」
「だねぇ。このままじゃ、本当に会話なくなって自然消滅って感じだしぃ」
「大会、いつだっけ?」
「まだ正式なスケジュールは出てねえけど……今のところ、年末らしい」
「え、もうあとちょっとしかないじゃん!」
「そう、だから急ぎたい。できれば、明日にでも明捕まえて、ちゃんと話して……って感じだな」
「やっぱ好感度足りてないんじゃね? 大道の好きなもんくらい持っていけよ」
「あいつの好きなもん……」
ゲーム。RTA。きらメモ。じゃなくて……甘いもんとか? 本は読まないって言ってた気がするから……あ、コーヒーも飲めねえんだっけ……。
かなり知った気でいたけど、ほんとあいつのこと、まだまだ知らねえんだな。
「甘いもん? 多分」
「多分ってなに」
「いや、あんまよく知らね。そういう話しねえし」
「えー! そこからじゃん! 亮ちん、色々すっ飛ばしすぎじゃない?」
「……わかってる」
でも、今はやれることを全てやらなければ。このまま、明とろくに会話もできず、モヤモヤしたまま大会に出れたって、なにも嬉しくない。万が一にも、そこで一位が出たって……多分、俺は素直に喜べない。
翔太がやいやいと文句を言う隣で、圭介が「でもさ」と口を挟む。
「大道くんって、なんかお揃いのものとか好きそうじゃない?」
俺と、明が? てか、お揃いって。カップルかよ。
想像して、ないない、と俺は首を振ったが、明のことを想像すれば、たしかに甘いものを突然渡すよりもそのほうが喜びそうな気がした。
「……なんか、圭介のほうが明の解像度高いの、ちょっと悔しいわ」
俺が不満を漏らせば、圭介は軽く笑って、自らのカバンを見せる。
「いや、ほらさ。重く考えずに、こういうのでいいと思うんだよ」
やけに鮮やかなバスケットボールのストラップは、マネージャーからお守りとして渡され、部員全員がつけているのだと圭介は付け加えた。
たしかに、それなら自然かも。
RTAにはお祈りってやつがある。どうぶつの町でも、町のマップは完全に運だし、借金を返済するにしたって何かと運要素がついてまわるのだから。
「……やっぱ、あり。採用。サンキュ」
俺は圭介とグータッチを交わす。
明とも、いつか自然にこういうことができればいい、と思った。
まだ見ぬお揃いのお守りに祈るように、俺はルーズリーフに『お守り』と書きつけた。




