5-3.
「え」
俺の決死の告白に反応したのは、明ではなく、翔太と大斗と圭介だった。
一番なんて必死に目指すより、もっと効率よく、楽して、それなりに楽しんで生きていければそれでいいって、それが賢い生きかただって、そんな態度を俺が見せてきたからだと思う。
だから、一番になりたいっていう俺に対して、三人は、まさに三者三様という言葉に相応しい態度を見せた。
翔太は驚き、大斗は疑い、圭介は喜んでいるようだった。
「……なんだよ」
なんとか言えよ。俺が三人を見渡せば、翔太が最後のポテトをなぜかそっと袋に戻して
「……まじ?」
と俺を見つめ返す。いつものうざいくらいのんびりとした声色は硬く、戸惑っていた。
そのせいか、冗談だって笑い飛ばしたくなるような空気がなぜか流れる。
けれど、ここで逃げるわけにはいかなかった。余計なプライドを捨てて、正直でいる以外、俺に残された道はなくて。その道を選んだのも、自分だった。
「……まじ」
俺がうなずくと、大斗はまるで双子かドッペルゲンガーでも見たみたいに俺を観察する。
「偽物?」
「んなわけねえだろ」
「……まじか」
「まじだよ」
開き直れば、圭介のほがらかな笑い声が俺たちを取り巻いていたなぞの空気をやわらげた。
「いいじゃん。本気の亮、俺、見たいわ」
他の人間が言えば、嫌味に聞こえるであろうセリフも、圭介から発せられればなんてことはない。それ以上でも以下でもなく、けれど、どこかそれを祝福しているように聞こえる。
「正直、亮がそんなこと言うなんて思わなかったけどなあ」
圭介のおかげで、俺たちはまた、いつも通りに戻れる。
いや、もう、いつも通りなんかじゃなくて。昨日とは違うと思った。
「正直、俺もびびってる」
少なくとも、圭介たちには、こんなこと言えなかったから。
重荷を下ろしたからか、達成感からか、俺の口からは自然と笑みがこぼれた。清々しさには抗えず、止めることすら億劫だった。
今まで言えなかったことが全部、口から出てきそうな勢いで――俺はそれを食い止めることもやめた。
「黙っててごめん」
「ごめん、つか……謝るなら、嘘ついてて、だろ」
紫の髪の奥から、大斗の目がきゅっと細められたのが見える。
「だな。嘘ついてて、ごめん」
「てか、俺、亮ちんによくそんなに必死になれるなってバカにされたことあったんですけどぉ⁉ 一位になりたいなら、必死になるもんですけどぉ」
「悪かったって。八つ当たりした。ごめん」
わざとらしく頬を膨らませた翔太が、「たはっ」と冗談めかした笑い声をあげる。
「一位、とれよ」
「そうだよぉ! てか、協力するし! 亮ちんなら絶対やれるでしょ!」
「だな。俺もどうぶつの町、妹に借りるから」
まじかよって声が漏れそうになって、俺は慌てて代わりの言葉を探す。
俺、もっといい言葉を知ってる。
「……サンキュ」
絞り出すように言えば、三人はにっと笑って、示し合わせたみたいに俺の袋に手を伸ばした。残り少ないポテトを、これまた残り少ないソースにディップして奪っていく。それもたっぷりと。
「おい!」
「はい、借金返済」
大斗は手についた塩を舐めとり、いつものいじわるな笑みを浮かべる。翔太と圭介は二本目に手を伸ばしていて、俺はその手を必死に遮った。
そんなしょうもない、馬鹿みたいなやり取りの隙間、
「……なんか、いいね」
と声が聞こえた。
「は? ってか、おい、なに、なんで」
見れば、明がメガネを外して顔を必死に覆っている。
「あ~あぁ、亮ちんが泣かした~!」
「え、亮、最悪」
「おーい、大道、どうした? 大丈夫かあ?」
ゴシゴシと腕で涙を拭う明は、大きく首を縦に振った。大丈夫、らしい。
いや、なんでお前が泣くんだよ。てか、どこに泣くとこあったんだよ。俺の決死の覚悟伝わった? いや、だとしてもまじで意味不明すぎる。
ペーパータオルを渡すと、明はそれで鼻をかみ、呼吸を整えて俺たちを見た。メガネの奥には情けない、でも、情にあふれた瞳がある。
「ほんと、よかったなって思って……。その、なんていうか、新野くんって」
「亮でいいって」
「……りょ、亮くんって、なんか、そういう辛いこととか、ずっと一人でしょってたのかなって、昨日からずっと考えてて。僕なんかでいいのかな、とかも、考えてて。今日も、みんなでいるときの亮くん見てて、僕でいいのかな、とか、亮くん自身も、大丈夫かなって、思って……。ってごめん、こんな、なに言ってるかわかんないよね」
明はごまかすようにへらりと笑みを浮かべて、再びペーパータオルで鼻を拭いた。
こいつ、まじで意味わかんねえ。意味、わかんねえけど、
「心配、してくれたんだろ」
多分、そうなんだよなって、俺が明を見れば、明が小さくうなずいた。おこがましいとでも思っているのか、控えめな反応が明らしくて俺は笑う。
「サンキュ」
俺の感謝に、明の顔色がパッとよくなったのがわかった。こういうところは、わかりやすいやつ。
「頑張ろうね。絶対、一位とろうね」
明が言ってから、ぎこちなく視線をさまよわせ、それから、そっと俺のほうへと拳を突き出す。
「おう」
俺が素直にその手に自分の拳を合わせると、明が照れくさそうにはにかんだ。
「……さっき、見て、羨ましかったから、嬉しい」
「変なやつ」
俺が吹き出すと、翔太も身を乗り出して、「大道くん、いぇ~い」と拳を突き合わせた。それになぜか圭介がのっかり、大斗ものっかり、最後に俺たちは全員で意味不明、と声をあげてゲラゲラと笑って。
少し離れたところにいた社会人らしきカップルに怪訝な顔をされるくらいには、俺たちはバカみたいにしばらく騒いでいたらしかった。
さすがにそろそろ迷惑だろうか、と俺は最後に控えめなグータッチをもう一度明と交わして、席を立つ。
翔太たちのせいでもうポテトはなくなっているし、シェイクもなくなっていた。
そのはずなのに、なぜかお腹はいっぱいで。
「……帰ろうぜ」
一番になりたいって言うくらい、帰宅を促す言葉を発するのは大変で。
ああ、俺、今までいろんなことを逃してきたんだなって。一番になれないからってだけで、いろんなことを多分、諦めて、ごまかして、見て見ぬふりをして、バカなふりして、取りこぼしてきたんだなって。
そんなことを気づいてしまうくらいには、俺も変わったらしかった。
夏の終わりを告げるひぐらしの鳴き声が、どこからか響いていた。




