8−3
翌日の明神署。
生活安全課の自席で、生駒は書類仕事をしていた。
その背後では、凛と金剛が何やら言い争っている。
「結局、クソガキからは何も聞き出せてないも同然じゃねぇか。
あいつのことは、自分たちに任せろって、そう言ったよなぁ?」
金剛の問いに、凛がすかさず答える。
「何も聞き出せていないわけではありません。
聞き出した結果、あの公園にいたのは偶然、とのことでした」
「どんな偶然だ、バカヤロウ!
その嘘を暴いて、真相を聞き出してくるのが、『任せろ』とか言い出したヤツの責任じゃねぇのか。あぁん?」
(よそでやってもらえないっすかね……)
生駒は、ため息をついた。
他の同僚たちは皆、金剛を恐れて視線を逸らしている。
結局、彰がなぜあの場所にいたのかについて、生駒は聞き出すことをしなかった。
理由は複数あるが、最大の目的は、彰にとって話しやすい雰囲気を作ることだった。
これまで一貫して沈黙を守ってきた質問に対して、今回に限り、急に答えてもらえるようになるとは考えにくかった。
それならば、これまでとは大きくアプローチを変え、できるだけ彰に話をさせる、というやり方を心がけた。
(出てきたのは、思いがけない話だったっすけどね)
生駒は、不思議に思っていた。
なぜ、彰はあそこまで頑なに、情報の出どころを隠し続けるのか。
彼が、進んで人死にの現場に現れるのは、もはや周知の事実だ。
加えて、今回の事件に関して言えば、日向に対し微かな殺意を抱いていたことも、自らが語ったところだ。
にもかかわらず、この上なぜ、情報源だけを秘匿しようとするのか。
その背景には、自分たちの想像すら及ばない、重大な事実が隠れているのではないか。
(死の運命、っすか……)
およそ、現実的ではない内容だ。
到底、真に受ける事はできない。
しかし、それは彰の行動を理解する上で、とても重要な話なのではないか。
人死にの現場をさまよう、彼の動機を解き明かす、鍵となる予感が生駒にはあった。
(ますます、死神みたいっすね)
形はどうであれ、日向が死んだ今、彰の復讐は終わった。
しかし、彼の真の活動は、まだ終わっていない。そう思わずにいられなかった。
「秋月くんが、強盗犯の仲間など、ありえません。
むしろ彼は、自分の幼馴染を刺した日向を、恨んでいました」
凛の言葉に、金剛は舌打ちする。
「そんなん、俺だってわかってる。あくまで念のためだ。
その死神小僧が、フカシこいてるのは間違いねぇしな。
……まぁいい。もうじき長門がここに来る。
そいつを締め上げりゃあ、わかるだろうよ」
「逮捕したんすか?」
生駒が、金剛に尋ねた。
「任意だ。まだ、な。
今、令状請求の準備も並行して進めている」
「日向の遺留品である、ゲームショップのポイントカードから、潜伏先のマンションが判明した。
魔法少女プリティーロイヤル、とのコラボカードだそうだ。私は詳しくないが……
そのマンションの防犯カメラに、事件当日、日向たちを車で迎えに来た、長門の姿が映っていた。
同車種の車について、現場付近での目撃情報も、得られたところだ」
「日向と長門の立件に関しちゃあ、時間の問題だな。
残った1人、『クロウ』とかいうクソアマは、今も逃亡中なわけだが……」
目下、白竜署の協力も仰ぎ、捜索中とのことだった。
しかし、今のところ、有力な手がかりは得られていないらしい。
金剛が言う。
「おまえに話せるのは、こんなところか、生駒。部外者を巻き込んだ、俺なりの礼だ」
(……お礼のつもりだったんすか)
「『死神小僧』の件が、心残りといえばそうだが――
まぁ、助かったぜ。おまえ、なかなかいい勘してるじゃねぇか」
生駒が、思わず金剛を見る。
褒められるなど、まさに想定外のことだった。
「ひょっとして、刑事志望か? 上役連中に、俺が口聞いてやろうか?
おまえがイノシシの手綱を握ってくれりゃあ、こっちも助かるんだがな」
「……ありがとうございます。でも、刑事の件はお断りするっす。
自分には、生活安全課の仕事が、性に合ってるっす」
「ふん。そうかよ」
と、金剛は笑った。
「そろそろ行くぜ。やることが山積みだ。
先月の強盗事件との繋がりについても、まだ捜査が残っているからな」
金剛が、凛を見る。
「行くぞ、天城。忙しくなる。覚悟しておけ」
彼女は、少し意外そうな顔をした。
「――はい」
2人が、颯爽と部屋を出ていく。
その背中を、生駒は晴れやかな気持ちで見送った。
「面白い」「続きを読みたい」「作者を応援したい」と思ってくださった方は、ぜひブックマークと5つ星評価をよろしくお願いいたします。




