6−8
まもなく深夜を迎える時刻の、森家。
夕食を済ませた後、吹雪と深雪はそれぞれの自室で、思い思いに過ごしていた。
しかし、吹雪は深雪に、どうしても聞きたいことがあった。
いつもの就寝時間より前に、吹雪は深雪の部屋の前に立ち、ドアをノックする。
「はい」
深雪が、ドア越しに返事をした。
「あたし。入ってもいい?」
どうぞ、という声を聞いてから、吹雪は部屋に入った。
普段、2人の間に、部屋の行き来はない。
そのため、吹雪が深雪の部屋に入るのは、久しぶりだった。物は少なく、いつも整頓されている。
「……どうかした?」
深雪が、吹雪に尋ねる。
部屋着姿の深雪は、物憂げな表情で、床に座り込んでいた。
夕食の時からそうだったが、今日の深雪は、体調が悪そうに見えた。
再配置の直後だから、記憶が混濁しているのかもしれない、と吹雪は考えていた。
立ったままの吹雪が、深雪に向かって言う。
「先月、あんたがナイフで刺された事件、あったでしょ?」
「うん」
「その時のこと、詳しく教えて。あの日、誰と出かけてたの?」
「やっぱり、一緒に出かけていたのは、涼風くんなのね」
深雪が、うなずく。
「まだ他の皆には、付き合っていること、あまり言ってないから。
映画を観に行ったんだけど、近所で誰かに見つかると面倒だから、白竜市まで行こうってなったの」
「犯人に会った時って、涼風くんもいた?」
「……うん、いたよ。
ナイフを持った犯人を見て、涼風くん、呆然としてた。
『どけ!』って言われてるのに、わかっていないみたいで。
犯人、すごくイライラしてた。
それからあの人、ナイフを突き出して、涼風くんに向かってきたの。
だから、『危ない!』って思って。私、咄嗟に前に出ちゃったんだ」
深雪が、自分の腹部を触る。
怖い記憶を、わざわざ思い出させていることに、吹雪は少しだけ心が痛んだ。
「あんたたち2人が、白竜市に出かけること、誰かに話した?」
「……サッカー部の子たち、何人かに話したけど。どうして?」
深雪が、不思議そうに首を傾げた。
吹雪は、意を決して尋ねる。
「――ねぇ、深雪。変なことを聞くようだけど」
「何?」
「その、白竜市に出かけた日――近くに、彰はいなかった?」
深雪が、目を丸くした。
それから、言葉を選ぶように、ゆっくりと喋り始める。
「わからない。少なくとも、私は気づかなかった。でも……」
「でも?」
「もし彰が、あの場にいたとしても……
私、あんまり驚かないかも。『やっぱり』って感じ」
今度は、吹雪が目を丸くする。
「どういう意味よ、それ」
「……私。彰のこと、嫌いじゃないよ、もちろん。幼馴染だしね。
でも少しだけ、『怖い』と思うこと、あるんだ。あの子のこと。
昔から、私のこと、慕ってくれているの、知ってる。
でも時々、行き過ぎているな、度を超えているなって感じること、あるの」
吹雪は、次の言葉が出てこなかった。
彰の、そうした傾向には、うすうす気がついていた。
でも、それは彼の純粋さ故と、前向きに捉えていた。
しかし、彰のそうした面を、深雪は恐れていた。
その事実を、吹雪は、想像すらしていなかった。
「だから、もしあの日、あの子がついてきていたとしても……
驚くというよりは、『彰ならやりかねない』って。そういう気がするの」
「……わかったわ。ありがとう、話してくれて」
部屋を出ようとする吹雪に対し、深雪が言う。
「ねぇ。彰、あそこにいたの?」
吹雪は、無言のまま、ただ首を横に振った。
自室のベッドで、吹雪は横になっていた。
(やっぱり彰は、深雪の後を、ついていっただけなのね)
彰がどうやって、深雪たちの予定を調べたのかは、わからない。
しかし、最近の彰の行動力を見ていれば、彼がそうした情報を調べるのは、造作もないことのように感じられた。
(どうして、あたしじゃないのよ。同じ顔なのに……)
深雪を責めるべきでないことは、わかっている。
しかし、彰に慕われ続ける彼女のことが、吹雪は妬ましくて仕方がなかった。
(眠れない。朝になったら、また忙しい1日が始まるのに)
時計は既に0時を回り、現在12月16日。
今日の再配置の対象者は、もう選んである。
レンゴクアプリの表示を、吹雪は確認した。
『橘出雲、18歳。現在地、白竜市九頭町一丁目。消滅予定時刻、本日19時38分』
(あたしと、大して変わらない歳なのに。かわいそう)
もう1日経てば、深雪と吹雪、2人の誕生日だった。
深雪のために、彰はプレゼントを用意するのだろうか。
そんなことを考えながら、吹雪はぎゅっと目を瞑った。
今回で、第6話は終了です。
次回より、第7話「実行」を開始します。
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