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4−3

 結論からいうと、日向の願いは叶わなかった。


 長門の運転で、ワゴン車はあてもなく、ひたすら人気のない方へと向かっていた。

 後部座席には、日向と、苦しそうに呻く加賀の姿がある。


 加賀の腹部からは、大量の出血があり、徐々にシートを赤黒く染め上げていった。


「加賀さん、とにかく傷口を押さえて!」


 日向は持っていたタオルを使い、加賀の腹部を必死に圧迫している。

 しかし、それが気休めでしかないことを、車内の全員が理解していた。


 3人は予定通り、明神市内の質屋を襲撃した。

 そこは聞いていたとおり、高齢の店主が1人で営む、小さな店だった。


 誤算があったのは、その老人が血気盛んな、武道経験者であることだった。


 店主は、傍にあった日本刀を抜き、正眼に構えて3人を威嚇した。

 刀剣の知識が皆無であった彼らは、それが真剣なのか、模擬刀なのかの区別すらつかなかった。


 撤退すべき、と日向は思った。

 刀の真贋がどうであれ、斬りつけられたらただでは済まない、と感じたからだ。


 しかし、長門が出した指示は、「続行」だった。

 まとめ役である彼は、「組織」との窓口役を担っている。ここまで来て、おめおめと引き下がっては、上から何らかの制裁を課せられると考えたのだろう。


 刀を向けてくる老人を相手に、日向は一歩も動くことができなかった。


 そこで、痺れを切らした加賀が、店主に襲いかかった。

 向かってくる彼に対し、老人は半歩ほど下がったかと思うと、すぐさま足を前に踏み出し、鋭い突きを放った。


 こうして、刀は加賀の腹部に刺さり……

 3人は、その場を立ち去るしかなかった。


(――ダメだ。このままじゃ、加賀さんが死んでしまう)


 気づけば、長門の走らせた車は、人気のない町工場の駐車場に停められていた。


「長門さん、加賀さんがやばいです。どこか病院に連れていきましょう」


 しかし、長門はハンドルを握ったまま、うつむくだけだった。


「長門さん!」


 長門が、ゆっくりと顔を上げる。

 ルームミラー越しに、鋭い眼光を向けて、日向に対しこう言った。


「置いていきましょう」


「……えっ?」


 日向は、耳を疑った。


「置いていきましょう。病院に連れていくことはできません。足がつきますから」


「で、でも……」


「彼は、動けないのでしょう? でしたら、置いていくしかありません。

 仕方がないですよ。我々は元々、そういう集まりなのですから」


「それは、そうかもしれないですけど……」


 3人は元々、それぞれの事情で闇バイトに応募し、「組織」の指示で組まされただけの関係だ。

 友情など存在せず、ましてや自身の人生を捧げてまで助け合う義理は、微塵もない。


 しかし、ここ数回ほど仕事をともにして。

 日向は、3人の間に、かすかな仲間意識を感じていた。


 犯罪に加担している自覚は、ある。

 しかし、この3人なら、できるだけ他人を悲しませず、それなりの収入を得て、穏やかに暮らすことができるのではないか……


 そんな想いは、長門の言葉で、跡形もなく砕け散った。

 いかに、自分にとって都合がいいだけの、夢物語であったかを思い知った。


「身元が割れそうなものは、回収してください。スマホや財布、マンションの鍵もです」


 日向は、自問自答する。

 本当にそれでいいのか。まだ、自分たちは引き返せるのではないか。


「早く!」


 長門の怒号に、日向は体を強張らせる。

 おそるおそるといった様子で、加賀のポケットに手を入れた。


「日向さん、助けてください……」


「……すいません、加賀さん」


 胃液がこみ上げてくるのを感じながら、日向は加賀の私物をまさぐる。

 そうして、目当ての物を取り出し終えると、日向と長門は車を降りた。


「長門さん、これからどうすれば……」


「『ファントム』です。外では、コードネームで呼んでください」


 本名を明かさないよう、仕事中はコードネームで呼び合う決まりだ。

 日向は「ドラゴン」、加賀は「クラウン」だ。


「まずは、ここを離れましょう。ドラゴン、あなたは部屋に戻っていてください。

 私も一度、家に帰り、それから上に連絡をして、クラウンの扱いを相談します」


「……わかりました」


 こうして、加賀を置き去りにし、2人はその場を後にした。

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