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結論からいうと、日向の願いは叶わなかった。
長門の運転で、ワゴン車はあてもなく、ひたすら人気のない方へと向かっていた。
後部座席には、日向と、苦しそうに呻く加賀の姿がある。
加賀の腹部からは、大量の出血があり、徐々にシートを赤黒く染め上げていった。
「加賀さん、とにかく傷口を押さえて!」
日向は持っていたタオルを使い、加賀の腹部を必死に圧迫している。
しかし、それが気休めでしかないことを、車内の全員が理解していた。
3人は予定通り、明神市内の質屋を襲撃した。
そこは聞いていたとおり、高齢の店主が1人で営む、小さな店だった。
誤算があったのは、その老人が血気盛んな、武道経験者であることだった。
店主は、傍にあった日本刀を抜き、正眼に構えて3人を威嚇した。
刀剣の知識が皆無であった彼らは、それが真剣なのか、模擬刀なのかの区別すらつかなかった。
撤退すべき、と日向は思った。
刀の真贋がどうであれ、斬りつけられたらただでは済まない、と感じたからだ。
しかし、長門が出した指示は、「続行」だった。
まとめ役である彼は、「組織」との窓口役を担っている。ここまで来て、おめおめと引き下がっては、上から何らかの制裁を課せられると考えたのだろう。
刀を向けてくる老人を相手に、日向は一歩も動くことができなかった。
そこで、痺れを切らした加賀が、店主に襲いかかった。
向かってくる彼に対し、老人は半歩ほど下がったかと思うと、すぐさま足を前に踏み出し、鋭い突きを放った。
こうして、刀は加賀の腹部に刺さり……
3人は、その場を立ち去るしかなかった。
(――ダメだ。このままじゃ、加賀さんが死んでしまう)
気づけば、長門の走らせた車は、人気のない町工場の駐車場に停められていた。
「長門さん、加賀さんがやばいです。どこか病院に連れていきましょう」
しかし、長門はハンドルを握ったまま、うつむくだけだった。
「長門さん!」
長門が、ゆっくりと顔を上げる。
ルームミラー越しに、鋭い眼光を向けて、日向に対しこう言った。
「置いていきましょう」
「……えっ?」
日向は、耳を疑った。
「置いていきましょう。病院に連れていくことはできません。足がつきますから」
「で、でも……」
「彼は、動けないのでしょう? でしたら、置いていくしかありません。
仕方がないですよ。我々は元々、そういう集まりなのですから」
「それは、そうかもしれないですけど……」
3人は元々、それぞれの事情で闇バイトに応募し、「組織」の指示で組まされただけの関係だ。
友情など存在せず、ましてや自身の人生を捧げてまで助け合う義理は、微塵もない。
しかし、ここ数回ほど仕事をともにして。
日向は、3人の間に、かすかな仲間意識を感じていた。
犯罪に加担している自覚は、ある。
しかし、この3人なら、できるだけ他人を悲しませず、それなりの収入を得て、穏やかに暮らすことができるのではないか……
そんな想いは、長門の言葉で、跡形もなく砕け散った。
いかに、自分にとって都合がいいだけの、夢物語であったかを思い知った。
「身元が割れそうなものは、回収してください。スマホや財布、マンションの鍵もです」
日向は、自問自答する。
本当にそれでいいのか。まだ、自分たちは引き返せるのではないか。
「早く!」
長門の怒号に、日向は体を強張らせる。
おそるおそるといった様子で、加賀のポケットに手を入れた。
「日向さん、助けてください……」
「……すいません、加賀さん」
胃液がこみ上げてくるのを感じながら、日向は加賀の私物をまさぐる。
そうして、目当ての物を取り出し終えると、日向と長門は車を降りた。
「長門さん、これからどうすれば……」
「『ファントム』です。外では、コードネームで呼んでください」
本名を明かさないよう、仕事中はコードネームで呼び合う決まりだ。
日向は「ドラゴン」、加賀は「クラウン」だ。
「まずは、ここを離れましょう。ドラゴン、あなたは部屋に戻っていてください。
私も一度、家に帰り、それから上に連絡をして、クラウンの扱いを相談します」
「……わかりました」
こうして、加賀を置き去りにし、2人はその場を後にした。
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