4−1
今回より、第4話に突入です。
ここは、とあるマンションの1室。
1LDKの間取りの、小さな部屋だ。
そのリビングで、部屋の住人である日向大我は、テーブルに広げた宅配ピザを1口かじると、缶ビールでごくごくと流し込んだ。
彼の前には、テーブルを挟んで、加賀民生が座っている。
「これ見てくださいよ、日向さん。ここの造形、最高じゃないですか?」
加賀が、買ったばかりのフィギュア2体を見せ、嬉しそうに言った。
魔法少女プリティーロイヤル、というゲームのキャラクターだった。
「おお、本当だ! これすごいじゃないですか、加賀さん」
「日向さんのおかげです。本当にありがとうございます!」
と、加賀が日向に頭を下げた。
このフィギュアの購入には、販売元であるゲームショップのポイントカード会員限定で、かつ1人1体という条件があった。
よって日向は、加賀がフィギュアを複数体購入できるよう、自分名義のカード作成に協力した、というわけだった。
現在、日向の財布には、そのキャラクターがプリントされたコラボカードがしまってある。
「いいんですよ。お世話になってますし、これくらい」
と、日向は首元の双竜を撫でる。
金髪である彼の上半身には、他にもびっしりとタトゥーが刻まれていた。
一般人からすれば、近寄りがたい見た目の日向だったが、その実、彼の性格は穏やかで、愛想がよかった。
とはいえ、日向にとって加賀は、自分とは相容れないタイプの人間に思えた。そのため、同居を始めた当初は、不安の方が大きかった。
しかし、いざ接してみると、多趣味である彼のオタクエピソードを聞くのは面白かった。日向の気さくさも手伝い、2人の共同生活は、今のところうまくいっている。
(部屋が狭いのは不満だが、まあ仕方ないよな。
そもそも俺は、文句を言える立場にはないし)
彼がこの部屋に住むようになったのは、1か月ほど前。
きっかけは、とある事件だった。
日向と加賀。そして、まとめ役の長門優一郎。
この3人で、白竜市の宝石店に、強盗に押し入った。
盗み自体は、大きなトラブルもなく行えた。戦果も上々だった。
しかし、いざ逃亡する頃になって、問題が起きた。
人気の多い通りに面した店のため、侵入も脱出も、当初は裏口を使う想定だった。
しかし、侵入時には使用できた裏口が、脱出時には開かなくなってしまったのだ。
(たぶん、店員の誰かが、何か細工したんだろうな)
想定外の出来事に、3人とも焦ってしまっていた。
元々、彼らは素人だ。強盗のような犯罪について、経験が豊富なわけでも、特別な訓練を積んだわけでもない。
半ばパニックに陥ってしまった日向は、とにかくここを立ち去らねばと、表口から出ようとする。
しかし、そこには高校生らしきカップルが、呆然とした表情で道を塞いでいたのだった。
日向は、手に持ったナイフを向けて、道を開けるよう恫喝した。
実際に刺すつもりなど、彼の脳内には、微塵もなかった。
しかし、不幸な偶然が重なった。
男の子を庇おうとして、女の子が前に出るのと。
一刻も早く逃げようと、日向の背中を、加賀が押したのと。
同時だった。
互いに踏み出した1歩が重なり、日向が構えていたナイフが、少女の腹部に突き刺さってしまった。
(あれは、本当に可哀想なことをした)
その日以来、ネットやテレビでは、この話題で持ちきりだった。
連日の報道の中で、自分が刺してしまった女子高生が、どうやら一命をとりとめたらしいことを知る。
日向にとって、そのことだけが救いだった。
あれから、いつ自分の名前がニュースに出てくるかと、ひやひやしながら過ごしていた。
ただでさえ彼は、目立つタトゥーを入れているからだ。
犯行当日は、タトゥーが人に見られないよう、長袖の上着に加えて、ネックウォーマーを巻いていた。
しかし、逃亡する最中に少しずれてしまったようで、誰かに首元の双竜を目撃されている可能性を、否定できなかった。
双竜のタトゥーについて、日向が見ている限り、一連の報道の中で触れているものはないようだった。
とはいえ、それは意図的に伏せられているのかもしれない。このまま身を隠さなければ、いずれ警察に捕まってしまうのではないか。
そうして日向は、「組織」が用意した潜伏用のマンションに転がり込み、加賀との同居生活を送っている、というわけだった。
「しかし、長門さん、遅いですねー」
ひとしきり談笑が済んだところで、加賀が言った。
すると、タイミングをはかったように、玄関のドアが開く音がした。
「お疲れ様です。すみません、遅くなりました」
長門が、リビングに入ってくるなり言った。
「お疲れ様です。何かトラブルでもありましたか?」
日向の問いに、長門は首をふる。
「今度の仕事の、具体的な指示が来て、その打ち合わせをしていました」
「おお! 次はどんな仕事ですか?」加賀が言った。
「また、強盗です。高齢の店主が1人で営んでいる、明神市内の質屋だそうです」
内容を聞いて、日向は少し安堵する。
(高齢の店主1人なら、あまり手荒なことはしなくてよさそうだ)
可能な限り、けが人も死人も、出したくない。
自分たちは、金目の物が貰えればそれでいい。
そんなことを願いつつ、日向は缶ビールの残りを飲み干した。
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