3−6
凛の運転する車に、5人が乗り込んでいた。
生駒が助手席に座り、後部座席には左から順に、彰、深雪、吹雪と並んでいる。
何でこんなことに、と彰は思った。
この生駒という警察官には、できるだけ関わるべきでないのに。
車内の居心地は、最悪だった。
ただでさえ気まずい雰囲気が漂っている上に、車の揺れがひどい。
「こ、ここは通っていい道なのか?」
彼女は運転が苦手らしく、数分おきに生駒へ助言を求めていた。
ならばいっそ、彼が運転すればいいのでは、と彰は思っていた。
(何か、そうしない理由でもあるのだろうか?)
そこから少し走り、大きな直線の道路まで来ると、凛が口を開いた。
「――本当に、何事もなくてよかった。ところで、なぜあの場所に?」
「ごめんなさい」
と、深雪が答える。
助手席の生駒が、振り向いて深雪を見た。
「昨日、あの場所で、飛び降り自殺があったのは知ってるっすか?」
「えっ?」
深雪が、本当に驚いた様子で、目を大きく開いた。
それから、何かを考え込むようにして、うつむく。
「知らずに、あの場所へ行ったっすか?」
彰は、自分が何かを話すべきか、悩んでいた。
吹雪を見ると、彼女も困ったような顔をしていた。
深雪が、再び口を開く。
「その事件は、よく知らなかったです。
うまく言えないんですけど……
今朝、目が覚めてからずっと、あの場所に行かなきゃって」
「さっきも話しましたけど、深雪は今、不安定で」吹雪が口を挟んだ。
「秋月くんと吹雪さんが、最近よく、人死に現場に来ることは知ってるっすか?
昨日も、さっきの現場にいたっす」
車内に、緊張が走った。
深雪の体が強張るのを、隣に座る彰は、直に感じていた。
「……そうなの? 知りませんでした」
「秋月くん。きみはどうやって、人死にの情報を得ているっすか?」
やっぱり、この人は危ない、と彰は思った。
予想していたよりもずっと、自分たちの行動に対して、生駒は深い疑念を抱いているようだった。
(これはもう、下手な嘘じゃ逃げられない)
「していませんよ、そんなこと」
と、彰は真っ向から否定した。
(たぶん、生駒さんは信じないだろう。
でも、追及することもできないはずだ。彼の推理は、決め手を欠いているのだから。
僕が情報を得ているのは、レンゴクアプリだ。
いくらネットを検索しても、影も形も見つからない、正体不明のソフトウェアだ。
仮にスマホを奪われたとしても、このアプリは、他人が起動することはできない。
仕組みはわからないけど、そういう仕様になっている。調べるなんて、不可能だ。
なら、変な嘘でかわそうとするよりも、これ以上、余計な情報を与えない方がいい)
「人が死ぬと知っていて、現場に来るきみたちは、そうとは知らず、法を侵している可能性があるっす」
「あの。さっきもそう言ってましたけど、それってどういう意味ですか?」
と、吹雪が問いかける。
生駒は、「一般論」と前置きした上で、
「人が死ぬという情報があって、それが実際に起きているということは、誰かが故意に起こしているかもしれないっす。
それはもう、事故じゃなく、事件っす。
犯罪の可能性があるっす。
その加害者に対して、犯行を促すようなことを言ったり、手助けをしたりすると――
共犯者とみなされて、罪に問われる場合があるっす」
生駒が、ポケットからスマホを取り出し、画面に映った文字を読み上げる。
刑法第61条第1項。
人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
刑法第62条第1項。
正犯を幇助した者は、従犯とする。
「『教唆』は犯行を決意させる行為、『幇助』は犯行を決意している者に対して、犯行を容易にさせる行為を言うっす」
「『犯行を容易にさせる行為』って、具体的にはどういうものですか?」
彰がそう尋ねると、生駒はゆっくりと振り向き、こう言った。
「――例えば、人払いとか」
彰の背筋に、悪寒が走った。
(そうか。僕はもう、れっきとした犯罪者だったんだ……
昨日、吹雪に頼んで、生駒さんを足止めした行為。
あれは、自殺という犯行を容易にする、幇助行為だったということだ。
確かに、僕のその動きがなければ、自殺は未然に防がれていたはずだった。
それは、レンゴクアプリから一度は消えた予定が、また復活したことで証明されている。
わざわざ、「人払い」なんて例を、生駒さんが出してきたのは……
僕のしたことが、幇助に当たる行為だ、と疑っているのだろう。
まずい、まずい、まずい。
これ以上、この人にはもう、どんな情報も与えるべきじゃない)
その後、病院に到着するまでの間、生駒の質問は続く。
しかし、彰は適当にあしらうか、ひたすら沈黙を貫いた。
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