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彰は、深雪の顔を見るために、朝から病院に来ていた。
学校には、「体調不良で遅刻」と連絡してある。
本日は午前中授業で、かつ内容も全校集会のみのため、授業に遅れる心配がない、という打算があった。
昨日は余裕がなく、深雪に会うことができなかった。
そして今日も、午後から予定があり、学校帰りに病院へ行くことが難しかった。
それが、多少無理をしてでも、朝から寄った理由だった。
面会時間は午後からのため、病室で会うことはできない。
そのため、ロビーで待ち合わせて少し話そうと、深雪にはあらかじめ連絡をしてあった。
顔を合わせるや否や、彰は深雪に、胸ぐらを掴まれる。
「どうして、私を殺したの!
彰が鞄を投げつけて、私を驚かせるから、他の車に突っ込んだじゃない!」
周囲が、ざわめき始める。
病院のスタッフが、何事かとこちらへ近寄ってきた。
「あなたがうまく避けてくれれば、私は死ななかったのに!
あれは、車が壊れていたせいなの。私は全然悪くないの!」
「どうされました? 何かありましたか? 手を離してください」
あっという間に、深雪がスタッフたちに囲まれる。
にもかかわらず、強引に伸ばしてきた彼女の腕に、彰は首根っこを掴まれた。
「私が死ぬくらいなら、あなたが死ねばよかったのに!」
スタッフたちが間に入り、彰と深雪を引き離す。
続けてやってきた看護師たちに取り押さえられ、彼女は奥へと連れてかれていった。
「森さん、今日は面会できる状態じゃないわね」
深雪担当の看護師が、彰に言った。
ロビーの椅子に座らされた彰は、まだしばらく立ち上がれそうになかった。
「秋月くん。今日、学校どうしたの?」
彰は、返事をしなかった。バツが悪そうに視線を逸らす。
「彼女が心配なのもわかるけど。自分のこともちゃんとしないと」
学校、行きなさいね、と言って、看護師はその場を立ち去った。
彰の心は、打ちのめされていた。
他でもない深雪に、「死ねばよかった」とまで言われ、過去にないほど落ち込んでいた。
深雪の本心でないことは、わかっている。
あれは、昨日の死亡事故で亡くなった、老人の記憶だ。
再配置をしてすぐは、死者の生前の記憶が、彼女に強く影響を与える。
それが原因で、深雪が脈絡のない話をすることは、これまでにも幾度となくあった。
しかし、ここまで強い言葉で責められたのは、今回が初めてのことだった。
(恨まれることも、予想はしていた。
僕は、人の死を待ち望んでいるのだから。
誰かが死ななければ、深雪が死ぬ。
だから、他の何を犠牲にしてでも、僕の見えるところで、他人に死んでもらう必要があるんだ。
昨日のこともそうだ。あの老人は本来、死ぬ予定ではなかった。
それが、僕の行動のせいで、命を落とすことになってしまった。
そのことに、罪悪感はある。でも、後悔はしていない。
レンゴクアプリを手にして以来、こうした事態が訪れることは、少なからず覚悟していたから。
そう。
だったら、前を向かないと――)
彰はようやく立ち上がり、病院を出た。
「レンゴクアプリ、深雪の残り時間は?」
『森深雪、領域解放までの時間、32時間1分』
残り時間は、まだ丸1日以上ある。
しかし、実はこの時、彰はある問題に直面していた。
レンゴクアプリで見る限り、深雪の領域解放時刻までに亡くなる人間が、1人しかいなかったのだ。
『斉藤初音、30歳。現在地、明神市王子町一丁目。消滅予定時刻、本日14時34分』
彰は今日、必ずこの人物の死を、見届けなければならなかった。
でなければ、タイムリミットまでに、再配置できる見込みがなくなってしまう。
そのために、彼は病院へ来る前に、実はこの場所にも足を運んでいた。
そこは、オフィス街の一画にある、様々な企業が入居するビルだった。
時間的にもちょうど、業務を開始している時間帯であったため、消滅予定者の勤務先だと思われた。
(亡くなるのは、14時頃。ということは、まだ仕事中の可能性が高い)
彰はビルの中に入り込み、部外者でも立ち入れる場所を確かめていた。
その結果、どの階も受付より先はロックがかけられており、室内に侵入するのは難しそうだった。
しかし、自宅とは違い、内部には他の社員が複数いるだろう。
もし、社内で人が死ぬようなことがあれば、救急車を呼ぶに違いない。搬送時に居合わせることができれば、きっと目的は達成できる。
もちろん、死亡場所が本当にこことは限らない。
昨日、それが読めずに苦戦したのは、記憶に新しかった。
消滅予定時刻まで、予定者である斉藤初音の、動向を注視する。
もし移動するようなことがあれば、手段を選ばずに追いかける。
そう、彰は考えていた。
(そろそろ学校、行かないと)
昨日の疲れも抜けきらないまま、今日も動き回らなければならず、彰の全身は鉛のように重かった。
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