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2−3

 彰は、深雪の顔を見るために、朝から病院に来ていた。


 学校には、「体調不良で遅刻」と連絡してある。

 本日は午前中授業で、かつ内容も全校集会のみのため、授業に遅れる心配がない、という打算があった。


 昨日は余裕がなく、深雪に会うことができなかった。

 そして今日も、午後から予定があり、学校帰りに病院へ行くことが難しかった。


 それが、多少無理をしてでも、朝から寄った理由だった。


 面会時間は午後からのため、病室で会うことはできない。

 そのため、ロビーで待ち合わせて少し話そうと、深雪にはあらかじめ連絡をしてあった。


 顔を合わせるや否や、彰は深雪に、胸ぐらを掴まれる。


「どうして、私を殺したの!

 彰が鞄を投げつけて、私を驚かせるから、他の車に突っ込んだじゃない!」


 周囲が、ざわめき始める。

 病院のスタッフが、何事かとこちらへ近寄ってきた。


「あなたがうまく避けてくれれば、私は死ななかったのに!

 あれは、車が壊れていたせいなの。私は全然悪くないの!」


「どうされました? 何かありましたか? 手を離してください」


 あっという間に、深雪がスタッフたちに囲まれる。

 にもかかわらず、強引に伸ばしてきた彼女の腕に、彰は首根っこを掴まれた。


「私が死ぬくらいなら、あなたが死ねばよかったのに!」


 スタッフたちが間に入り、彰と深雪を引き離す。

 続けてやってきた看護師たちに取り押さえられ、彼女は奥へと連れてかれていった。





「森さん、今日は面会できる状態じゃないわね」


 深雪担当の看護師が、彰に言った。

 ロビーの椅子に座らされた彰は、まだしばらく立ち上がれそうになかった。


「秋月くん。今日、学校どうしたの?」


 彰は、返事をしなかった。バツが悪そうに視線を逸らす。


「彼女が心配なのもわかるけど。自分のこともちゃんとしないと」


 学校、行きなさいね、と言って、看護師はその場を立ち去った。


 彰の心は、打ちのめされていた。

 他でもない深雪に、「死ねばよかった」とまで言われ、過去にないほど落ち込んでいた。


 深雪の本心でないことは、わかっている。

 あれは、昨日の死亡事故で亡くなった、老人の記憶だ。


 再配置をしてすぐは、死者の生前の記憶が、彼女に強く影響を与える。

 それが原因で、深雪が脈絡のない話をすることは、これまでにも幾度となくあった。


 しかし、ここまで強い言葉で責められたのは、今回が初めてのことだった。



(恨まれることも、予想はしていた。

 僕は、人の死を待ち望んでいるのだから。


 誰かが死ななければ、深雪が死ぬ。

 だから、他の何を犠牲にしてでも、僕の見えるところで、他人に死んでもらう必要があるんだ。


 昨日のこともそうだ。あの老人は本来、死ぬ予定ではなかった。

 それが、僕の行動のせいで、命を落とすことになってしまった。


 そのことに、罪悪感はある。でも、後悔はしていない。

 レンゴクアプリを手にして以来、こうした事態が訪れることは、少なからず覚悟していたから。


 そう。

 だったら、前を向かないと――)



 彰はようやく立ち上がり、病院を出た。


「レンゴクアプリ、深雪の残り時間は?」


『森深雪、領域解放までの時間、32時間1分』


 残り時間は、まだ丸1日以上ある。


 しかし、実はこの時、彰はある問題に直面していた。

 レンゴクアプリで見る限り、深雪の領域解放時刻までに亡くなる人間が、1人しかいなかったのだ。


『斉藤初音、30歳。現在地、明神市王子町一丁目。消滅予定時刻、本日14時34分』


 彰は今日、必ずこの人物の死を、見届けなければならなかった。

 でなければ、タイムリミットまでに、再配置できる見込みがなくなってしまう。


 そのために、彼は病院へ来る前に、実はこの場所にも足を運んでいた。


 そこは、オフィス街の一画にある、様々な企業が入居するビルだった。

 時間的にもちょうど、業務を開始している時間帯であったため、消滅予定者の勤務先だと思われた。


(亡くなるのは、14時頃。ということは、まだ仕事中の可能性が高い)


 彰はビルの中に入り込み、部外者でも立ち入れる場所を確かめていた。

 その結果、どの階も受付より先はロックがかけられており、室内に侵入するのは難しそうだった。


 しかし、自宅とは違い、内部には他の社員が複数いるだろう。

 もし、社内で人が死ぬようなことがあれば、救急車を呼ぶに違いない。搬送時に居合わせることができれば、きっと目的は達成できる。


 もちろん、死亡場所が本当にこことは限らない。

 昨日、それが読めずに苦戦したのは、記憶に新しかった。


 消滅予定時刻まで、予定者である斉藤初音の、動向を注視する。

 もし移動するようなことがあれば、手段を選ばずに追いかける。


 そう、彰は考えていた。


(そろそろ学校、行かないと)


 昨日の疲れも抜けきらないまま、今日も動き回らなければならず、彰の全身は鉛のように重かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] んー、ジレンマですね。 彰くんの気持ちも痛いほど分かります。 警察と死神少年の絡みがどうなるか楽しみです。 [一言] 積み本がたくさんあるので、また時間がある時にお伺いします。
[良い点] レンゴクアプリ…とても面白いです! どうなるんだろうという展開で引き込まれました。 アプリが一体どういうものなのか想像が掻き立てられます。領域や再配置という用語にも何かありそうですね…ラン…
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