105話 瞬殺
俺達が92階層に上がろうとした時、不意にルイスの足が止まった。
「どうしたんだ?」
「いや、今91階層のボス部屋付近に4人のプレイヤーがいるぞ。エンマくんの友人かもしれない。事情を話すか?」
4人のプレイヤー。確かに、クウガたちの可能性は高いだろう。
だが、もし違った場合はどう説明するんだ。
「とりあえず俺の力でどんなやつか見ておく。情報を伝えるから友人だとしたら少し考えてみてくれ。仲間は多い方が良いからな」
ルイスはボス部屋から92階層へと繋がる道を凝視した。
数秒のあいだ俺たちの居る場所に沈黙が流れた。
「お兄ちゃん。遅い。エンマ。大丈夫。今から来る人たちエンマの知り合い。先に行ったエンマとシズクを心配して来てるみたい」
沈黙を破ったのはルシフェルだった。
ルイスが俺に情報を伝える前に、完璧な情報を俺へと伝えてくれた。
むしろ、どうやって俺とシズクを心配していると分かったのか教えてもらいたいくらいだ。
「ルシフェルちゃん凄いわね……」
「私は天使の力が強いから、エンマ以外の人の心をすぐに読み取れる。シズクのことは意図的に読まないようにしてる。お兄ちゃんはあんまり天使の力強くないから、私より遅い」
俺とシズクとルシフェルが話している時に、ようやくルイスの口が開いた。
「よし!やっと分かったぞ! あいつらやっぱりエンマくんの友人みたいだ!」
ルイスの言葉にもちろん、俺たちはどう反応すればいいか迷ってしまう。
「あ、あの。頑張ってもらったとこ悪いんだけど、ルシフェルが先に教えてくれちゃってな?」
相手の顔色を伺うように俺はルイスへと恐る恐る告げた。
だが、俺の言葉でルイスの顔色は変わることなく、むしろ、妹の力に感激を覚えているようだった。
「いやー!ルシフェル凄いなぁ!!僕よりもめちゃくちゃ力あるじゃないか!」
ルシフェルの肩を掴み、全力で頭を撫でて自分の事のように喜んでいるルイスを見て、俺は少し羨ましいと思ってしまった。
俺はいつから妹と会えていないのだろう。こんなにも会えないとさすがに寂しくなってしまう。
「お兄ちゃん。頭やだ。それに、お兄ちゃんの力が弱いだけ。たまたま私の天使の力が強いだけだから」
「そ、そうか。ごめん。なんか嬉しくてな」
「でも、記憶とか取り戻せたのはお兄ちゃんのおかげだから感謝してる……よ?」
「お、おう!」
ルイスは少し恥ずかしくなったのか、早歩きで歩き始めた。
「おっと、そうだ。エンマくんどうするんだい?」
「いえ、大丈夫です。あいつらにあんま負担かけさせたくないですから」
「そうか。では、急ぐとしよう」
俺達が92階層に着いた頃、きっとクウガ達はボス部屋に入っただろう。
だが、そこには誰もいない。
これから、俺とシズクがこの世界のプレイヤーに会うこともないはずだ。
クウガ達に事情を話せば、きっとあいつらは無理してでも協力してしまう。
だから、俺はあいつらには事情を話さなかった。
こうして、俺たちは92階層に到達した。
ルイスの後に続いてどんどん進んでいく。
最短ルートを進み、俺たちの道を阻むモンスターはルシフェルによる最速の攻撃で仕留めていく。
俺とシズクに攻撃する暇もないままにボス部屋へと到達してしまった。
「よし。結構早く着いたな。あとはボスを倒すだけだ」
「ダンジョンのアイテムとかは取らなくて良いんですか?」
俺はルイスへと訊ねる。
俺達が進んできた道にいくつものアイテムが入ってる宝箱などが見えたが、どれも無視していた。
個人的にはいらないが、ルシフェルやルイスはどうなのだろう。
「あぁ。アイテムはいらないよ。あんなもの今貰っても無駄だからね。どうせ消えてしまうんだ」
「うん……この世界は消えるから意味無い……」
「そうなのか。ま、少し気になっただけだしな」
「さてと、それじゃボス部屋に入りましょ。少し情けないけど、ルイスさんとルシフェルちゃんがいれば安心だものね」
シズクが扉を開け、俺たちはボス部屋へと入った。
入ってすぐに気づいたが、ボス部屋には至る所に焦げあとのようなものがあった。
そして、明かりが灯され、ボス部屋のモンスターが明らかになった。
「ふむ。さすがにここはボスが変わってるか」
ルイスがなにかを呟きながらボスモンスターを見ていた。
「インドラ……それじゃあ、私が倒すからお兄ちゃんは観てていいよ」
ルシフェルが俺たちの前に出て、インドラと呼ばれるドラゴンの前に立った。
ボスモンスターはルシフェルの存在に気付くと、辺りに雷を放ち始めた。
そして、その雷を自らの体に当て、ドラゴンは雷を纏った。
「ごめんね。バイバイ」
ルシフェルがモンスターに対して謝る言葉を聞いた直後、モンスターはルシフェルへと攻撃を繰り出した。
だが、攻撃したはずのモンスターがルシフェルの体に触れた途端、俺たちの前で爆散したのだった。




