初めてのおでかけ 後編
バハブの港町はダンジョンがある以外特に他の街と変わった特徴はない。
巡回船が止まる漁港なので、貿易の中間点となるため、小さい町であるがそれなりに店もある。
とりあえず、港から回ってみることにした二匹は、朝のせり市を覗き込んだ。
途中の人ごみの中で、レオンの懐に手が伸ばされた。
レオンが素早くその手をはたいたら、手ごわいと思われたのかその後はぴたりと狙われることがなくなった。
競市ではいろいろな種類の魚が所狭しと並べられている。
赤や銀、黒い魚や魚貝類などレオンだけでなくタマもみたことがない魚がいっぱいだった。
ぐるりと回ると競市の近くで食事ができる店があった。
「食べてみるか?」
レオンがじっとそれを見つめているタマに尋ねる。
「はいでしゅ」
タマはこくんとうなづくと、レオンの手をひっぱって屋台へと向かう。
銅貨5枚で丼にごはんとその上にたくさんの魚の切り身がのせられた海鮮丼が手渡される。
竜体では一口サイズだが、人の口ではフォークを使ってうまく小分けして食べなければならない。
ぼろぼろとこぼしながらタマが海鮮丼を食べ始める。
レオンはタマがたべこぼしたご飯や切り身を拾い、テーブルの上に載せる。
軽く水魔法で手をすすぎ、自分もフォークを使って食べ始めるが、なかなかうまく食べることができない。やはりタマのようにボロボロとご飯が落ちる。
「スプーンも使えば落ちないわよ」
笑いながら売り子の女性がスプーンをタマとレオンに渡してくる。
切り身はフォークで、ご飯はスプーンを使いなんとかこぼさずに食べ始める。
雑食な竜にとって食事とは腹が膨れることが第一で味など気にしない。
だが、人の体での食事は一口一口が少ししか食べらないが、味わって食べるということができる。
「なんかこれくちゅくちゅしてるでしゅ」
タマはタコの切り身を指さしてレオンに教える。
レオンはタマが刺したタコの切り身をフォークで口に運ぶ。確かに食感が他のとは違う。
「こっちのはぬるぬるしてるでしゅ」
次はイカの切り身を指さす。
「不思議な食感だ」
丼を持ちながらレオンは神妙な顔つきでイカの切り身を味わう。
初めて食べたご飯はもちもちしており、何もかもが新鮮だった。
食事を終えると、レオンはタマの手もきれいに水で洗い流しすぐに乾かす。
再び手をつないで港から町の中に入っていく。
まずはタマが欲しがっていた紙を購入すべく、千夏に教わった雑貨屋を探す。
わからないときは歩いている人に聞くようにとエドから言われていたので、レオンは通りを足早に歩いていた少女に声をかける。
「雑貨屋を教えてくれないか?」
レオンが声をかけると黒髪の少女は貴公子のようなレオンに見とれてうっとりとする。
「雑貨屋かい?こっちだよ」
何やら急いでいたようであったが、少女は親切にも雑貨屋の前まで二匹を連れて行ってくれる。
「あ・・ありがとう」
「ありがとうでしゅ」
レオンはぎこちなく、タマは素直にお礼をいう。
「いいってことよ。じゃあね」
少女は二人に手を振って足早に去っていく。
少女を見送ったあと2匹は雑貨屋の中に入っていく。
雑貨屋というだけあり、いろいろなものが店頭に並んでいる。
レオンはザルを手にとり、何に使うのかを考える。
となりのタマを見て帽子なのかと頭にかぶってみたりするがゆらゆら揺れて落ち着かない。
わからないので、一旦商品を戻す。
少し奥にいくと食器やコップなどが左手に置いてあり、右手には掃除用具が並んでいる。
レオンはほうきを手にとると、「これは武器なのか?」とタマに尋ねる。
タマもほうきをみたことがないので、ほうきを受け取り振ってみる。
「何やってるんだい?」
店の奥から呆れたようにひょろりとした中年男性が現れる。
「これは武器か?」
レオンが生真面目に質問する。
「それはほうきだよ。掃除したことがないのかい?」
「掃除とはなんだ?」
「家の汚れやごみを綺麗にすることだよ。それで何を買いにきたんだい?」
呆れながら店主はほうきを受け取りもとの場所に戻す。
「手紙用の紙が欲しいでしゅ」
タマが答える。
「どのくらいいるんだい?」
「3回くらいかけるくらいでしゅ」
店主は店の奥にもどり、10枚ほど紙と3枚の封筒を持ってくる。
「あわせて銀貨1枚でいいよ」
紙の値段の相場がよくわからないので素直にタマは銀貨1枚を渡す。
「まいどあり」
タマはかばんに紙をしまう。
「僕も鞄が欲しい。なにかいいのはあるか?」
レオンはじっとタマの様子をうかがったあと、店主にそうたずねる。
「あんたに似合いそうな高級な鞄はうちにはないよ。安物でよければこっちにある。ついてきな」
店主に誘われごみごみした店内をついて歩く。
「鞄はこの辺だな」
じっと鞄が並んだ棚をレオンは見つめる。
大きいものはいらない。お金やちょっとしたものが入るもので十分だ。
リルがつけているような小型のポーチを見つけ、レオンはそれを手にとり腰に巻いてみる。
いまいち服装とミスマッチだったので、せめて同じ色の黒を探す。
値札がついているが文字が読めないのでいくらかわからない。
レオンはタマに「いくらだ?」と尋ねる。
「銀貨1枚と銅貨3枚でしゅ」
タマが読み上げた値段を店主にレオンは払う。
「まいどあり。他にはなにか?」
店主に尋ねられるが、ぱっと思いつくものはない。
レオンは小銭をポーチに入れタマの手をひいて店をでる。
あとはブラブラとこのあたりの店でも覗いてみることにした。
露店をひやかしながらタマとレオンは露店街を歩いていく。
ときおり、レオンがタマに商品について質問をしタマが答える。答えられないときは店主に質問をする。
右側の露店をすべて制覇し、さて逆側も覗こうとしたときに甲高い女の悲鳴が聞こえてくる。
レオンとタマ以外には聞こえていない。
結構ここから遠いところから聞こえてきているからだ。
「さっき案内してくれた娘の声だな」
レオンがぼそりとつぶやく。
「何かあったんでしゅかね。行ってみるでしゅ」
タマがそう答えると二匹は娘の悲鳴が聞こえた方向に向かって走り出した。
「いやー、離して!」
少女は両腕を捕まれ、必死にもがき逃げ出そうとする。
「そっちからぶつかってきて、それはないだろう」
「謝ったじゃない」
「ああ?こっちはお前が勢いよくぶつかってきたせいで骨が折れちまったんだよ。どうしてくれるんだ?」
「ああ、いてぇ!」
大げさに腕を抑え騒ぐ男と別の男が、騒ぐ少女の頬をはたく。
「痛っ!」
強い力で頬をはられた少女は短い悲鳴を上げる。
今日は久しぶりに漁に出た父親が戻ってくる日だった。
急いで港まで駆け抜けたときに、店の裏口から突然出てきた男に少女はぶつかってしまったのだ。
そのあと押さえつけられ、路地裏に引きずり込まれた。
「治療費に金貨10枚もってきな」
崩れ落ちるように座り込んだ少女の前にこの集団の頭らしき男がしゃがみ込み、金を催促する。
少女の周りには10人前後のゴロツキが囲んでいる。
とても逃げられそうにない。
「そんなお金があるわけないじゃない」
少女は頭を振って叫ぶ。
「だったらお前を売るしかないな。まだ15,6だろう。初物だったら高く売れるかもな」
にやりと男は笑う。
「運がいいな、お前。ちょうど今港に奴隷商人がきてるんだよ」
少女の髪をひっぱり、屈辱にまみれたその顔みてさらに笑う。
彼らはこの町の裏の組織の人間達だった。
悪どい手を使って、人をさらい奴隷商人に売りつける。
特に少女を殴った男--ハンクはこの町の裏の世界を取り仕切っている頭だ。
「お前たちなにをしている」
駆けつけてきたレオンが人垣に向かって声を投げつける。
少女がこの奥にいることはわかっている。
「お前らには関係ないだろう。なんだよ、餓鬼連れが」
手前の男がレオンとタマを恫喝する。
レオンは手前の男をよけ、人垣をかきわけ中へと進んでいく。
「あっ」
少女はレオンを見ると驚いたように声を上げる。
「ケガしたのか。治してやる」
レオンは水魔法を使い、口の中の切り傷とはれあがった頬を治療する。
みるみるうちにはれあがった頬がもとに戻っていく。
「治療師か?邪魔なんだよ、さっさとあっちに行きやがれ」
ゴロツキの一人がレオンに殴り掛かる。
レオンは殴り掛かってきた拳をそのまま手のひらでつかみ、逆にその男を放り投げる。
「全員でやっちまえ!」
ハンクが獰猛に叫ぶと、周りを囲んだ男たちが一斉にレオンに向かって突っ込んでいく。
レオンはよけもせず、突っ込んでくる男たちを次々と放り投げる。
くれぐれも殺すなと言われているので、優しく投げ飛ばす。
形勢不利を悟ったハンクはタマに駆け寄り喉元にナイフを当てる。
「こいつがどうなってもいいのか?」
タマは突きつけられたナイフを素手でつかみ、ナイフごとハンクをひょいっと軽く放り投げる。
「あ、もめごとのときは連絡するんでしゅ」
今思い出したタマは腕輪の脇にある小さなボタンを押す。
レオンとタマに優しく投げられたゴロツキたちはそれほどひどいダメージは負っていない。
軽い打ち身ができた程度で、次々と立ち上がってくる。
「なめたまねをしやがって!もう許さないぞ!」
全員が腰にさした剣を引き抜き、じりじりとタマとレオンを囲み近寄ってくる。
「ちーちゃん、あのでしゅね。もめ事中でしゅ」
タマはそんな周りの状況などお構いなく腕輪に向かって話しかける。
『もめ事ってなに!』
千夏より先にセラが叫ぶ。タマが千夏と離れてもめ事中とは・・・
何をやらかしているのかかなり不安だ。
「うりゃー!」
次々と剣をふるって襲い掛かるゴロツキたちをレオンが殴り飛ばしていく。
「相手の力量もわからないのか」
レオンは少しだけ力を入れ、立ち上がってこないように痛めつける。
少女は唖然としながら、レオンの立ち回りを見つめている。
「道を教えてくれた親切な女の人が、変な人達に乱暴されていたでしゅ。ケガしてたでしゅ。レオンが治したでしゅ」
『つまり助けに入ったということね?千夏、さっさと現場にいって!』
『了解』
「とりあえずやっつけたんでしゅが、どうしたらいいでしゅか?」
タマはレオンに転がされ、気絶した人の山をみて首をひねる。
タマではらちがあかないと考えたセラは、助けた少女と話ができるかと尋ねる。
「あ、はい」
少女はきょとんとしながら腕輪から聞こえてくる声にこたえる。
『あなたはなんで絡まれていたのかしら?絡んできた人たちは誰?』
少女は簡単に事情を説明する。
『だいたいの事情はわかったわ。でもその町、警備兵も人身売買に加担しているから突き出しても無駄ね。すぐ釈放されるわ』
「そんな!」
少女がセラの言葉に叫ぶ。まさか警備兵までが結託しているとは思っていなかったようだ。
『とりあえず、その辺に転がしておきなさい。夕方の船の出航まで見つからないように転がすのよ。お礼参りなんかされたら出発できないし』
転がすといわれてもレオンとタマにはよくわからない。
「転がすとはどういうことだ?」
レオンはタマに質問する。
「こうでしゅか?」
タマはとりあえず、伸びた男たちをゴロゴロと転がしてみる。
「人の考えていることはまったくわからない」
レオンは男たちを転がしながら、嘆息する。
しばらくするとエドと千夏、気絶から意識が戻ったアルフォンスが現場に駆けつけてくる。
気絶した男たちををゴロゴロと転がすタマとレオン。それを見ておびえている少女。
「いったい何をしてるの?」
ゴロゴロと転がし続けるレオンとタマをみて千夏は目を丸くする。
「あなたはもう帰りなさい。あとは私たちがなんとかしますから。大丈夫ですよ」
エドは少女を立たせると、帰るようにうながす。
少女はレオンに向かってお礼をいうと、そそくさと帰っていった。
助けてもらったが、何を考えているのかまったくわからず少し怖かったのだ。
「転がすってのは、縛り上げてどこかに放置することだぞ?」
アルフォンスがレオンとタマにそう説明をする。
とりあえず、ゴロツキたちを縄で縛り上げ更に声を出せないように口を布で縛る。
「ここがいいんじゃない?」
その場所から少し外れた樽などが積み上っている場所を千夏が指さす。
レオンとタマは積まれた樽の裏に縛り上げた男たちを移動させる。
最後にエドがアイテムボックスから少し汚れたシーツを何枚か取り出し、その上にかける。
「これで当分は見つからないでしょう。まだ町を見学しますか?」
エドがレオンとタマに尋ねる。
「いや、十分だ」
「タマも欲しいのが買えたのでいいでしゅ」
2匹は揃って首を振る。
「それじゃあ、昼時だしなんか美味いものでも食べてから帰ろう」
アルフォンスがそう提案する。
誰も異論はなかった。
竜たちをちょっと暴れさせようかとおもったのですがうまくいきませんでした。




