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行き止まり

 目指すはとりあえず3階。

 そう決めたからには1階と2階は最短距離を進むことになった。


 シルフィンの案で竜に戻ったタマを先頭に歩く。

 襲い掛かる10匹ほどのゴブリンの攻撃など痛くもかゆくもない。

 襲い掛かってくる低級魔物達はタマの振り回す腕で弾き飛ばされるか、鉤づめでえぐられ倒れていく。

 タマは満足できるし、安全でもあるので千夏はこの作戦は結構いいかもと思っていた。


「俺もそろそろ前に出たい!」

 タマが倒したゴブリンの討伐部位である左耳を剣でそぎ落としながら、アルフォンスが叫ぶ。

「確かに、そうなの。3階に行くまでに体を温めておきたいの」

 セレナもアルフォンスに同意する。


「クゥー」

 かりかりとタマの脚を引っ掻きながらコムギは鳴く。

「コムギも狩りの練習したいそうでしゅ」

 タマは竜から人に戻り、前を開ける。

 兄たるもの弟の成長を見守らなければならないのだ。


 物量は多いもののダンジョン一階、地下一階はランクCの魔物だけだったので、さくさくと進み地下二階へと降りる。

 地下二階の半ばまですぎた頃、エドが青白い光に包まれたダンジョンに疑惑の視線を向ける。


「地下二階もあまり変わらないようですね。少し、Bランクの魔物が出てきていますが、メインはランクCの魔物。普通のダンジョンであれば地下2階あたりはBランクの低級魔物がゴロゴロいるはずです。おかしいですね」

 ポイズンスネークの攻撃をかわし、そのまま反撃にでたセレナが止めをさすところを見学していたエドがそう語る。


「弱い魔物しか出てこないということは魔力の溜まり具合が他のダンジョンより少ないということ?そうなると、ドラゴンオーブがこのダンジョンにあるってのが眉唾ってことかな?でも、ダンジョンマスターは混血竜(ハーフドラゴン)だよね?」

 リルも思っていたより、ダンジョンで出てくる魔物が弱いことに首をひねる。


「そう、混血竜(ハーフドラゴン)。そもそもそれがおかしいのです。ダンジョンマスターも含め魔力の吹き溜まりからダンジョンの魔物は生まれてきます。混血竜(ハーフドラゴン)は異種の竜が結ばれた場合に生まれてくる特別な竜のことです。最初から単体で混血竜(ハーフドラゴン)が生まれるとは思えません」

 エドは腕を組んで思案気に答える。


「じゃあ、セラの情報が間違っているってこと?」

 果敢にビックベアの首に食らいつき、振り回されているコムギをじっと見つめながら千夏がいう。

 アルフォンスがすぐさま走り寄り、コムギをさけてビックベアの心臓を貫く。


「そこが難しいところですね。セラ様が信憑性のない噂を、私たちに告げるとは思えません。混血竜(ハーフドラゴン)は地下3階にいる。だが混血竜(ハーフドラゴン)はダンジョンマスターではないと考えるのが妥当なところでしょうか」

「うーん。まぁ行ってみればわかることか」

 千夏は考えることを放棄し、倒れた魔物の死骸をアイテムボックスへと収納していく。

 次の角を曲がれば地下三階へと降りる通路が見えてくるはずであった。


「なんだこれ?」

 アルフォンスは行き止まりとなっている、通路をみて声を上げる。

 地下三階へとつながれているはずの通路が土砂崩れにでもあったのか、大量の岩や石で埋め込まれ行き止まりとなっている。


(一旦、休憩しよか。もともとここで休憩予定だったしな。)

 シルフィンの提案により、ここで休憩することにする。

 エドが次々と取り出す椅子に腰かけながらも、全員行き止まりの道に視線をじっと見つめている。

 まさかこんなところで中断されるとは思ってもいなかったのだ。


「なんで地下一階や二階の魔物が弱かったのかの原因はわかったね。地下から登ってくる魔力が、あそこで岩でせき止められていたんだ。上層には岩からしみだした微量の魔力しか伝わらないから弱い魔物だけしか生まれなかったんだね」

 リルはエドから受け取ったお茶を飲みながら自分の考えをまとめる。


(ダンジョンは自己修復機能があるんや。壊れたらしばらくしたら戻る。つまり、あの塞いでいる岩はダンジョンの岩やないちゅーことや。誰が何の目的で蓋しめたんやろ。)

「ラヘルの人?入口に扉つけたりしてるの」

 シルフィンの問いにセレナが答える。


「でもラヘルの人が塞いでいるなら、セラからそういう情報回ってきそうな気もするよね?扉の話は伝わってるし」

 千夏も首を傾げる。

 エドは懐中時計を取り出し時間を確認する。今の時間は夜の11時を過ぎている。さすがにセラもすでに就寝中のはずだ。たたき起こすと後が面倒なことになりそうだ。


「外からここまで運んできたんでしゅか?」

 タマが目の前の大量の土砂をみて質問する。

「たぶん、土魔法の岩生成(クリエイトストーン)だと思う。いくらなんでも、地上から運んできたわけじゃないと思う。でも、これだけの場所を埋め尽くすには膨大な魔力が必要だね。かなりの大人数でやったのかな」


 リルは埋まっている場所を見ながら答える。通路の大きさは横幅6メートルに縦が10メートルほどだ。

 問題は何メートルほどこの土砂が埋まっているかだ。


「誰が埋めたかわからないが、別にこれを排除しても問題ないんだよな?」

 剣先を岩の間に突っ込みながらアルフォンスが尋ねる。

「排除しても問題はないと思いますが、どう排除するかが問題ですね。まさか1つずつ岩を掘り出すつもりじゃないですよね?」

 もしや何も考えていないだろうかと訝しげにエドがアルフォンスを見返す。


「まさか。そんなの時間かかりすぎだろう。千夏、魔法でここ壊せないか?」

「魔法ね……」

 千夏は自分が持っている魔法を頭の中で思い浮かべる。

 だが、岩を弾き飛ばすような魔法は思いつかない。


「爆弾があればな……。あ、そうか気功砲で爆弾を作ればいいのか」

 千夏の気功砲は基本爆撃がモチーフとなっている。

 目を閉じ例の作り出す手で小型爆弾をイメージして気をこねまわす。

 小型爆弾を通路前に置くと、千夏はみんなを一カ所に集め二重のウォーターウォールを発動させる。


「爆破!」

 千夏が叫ぶと、小型爆弾がバーンと音をたてて爆破する。

 爆発の威力で吹き飛ばされた岩や石があたりに飛び散る。

 しばらくたってから、ウォーターウォールからひょっこりと顔をだし通路の様子を確認する。


 爆破によって通路に縦1メートル、横2メートルほどの穴が開いている。

 ゆらゆらと通路はまだ揺れており、穴の上にある岩や石がぼろぼろとくずれてくる。

 穴はあいたが土砂が積もって再び穴が埋もれていく。

「うーん。微妙」

 千夏は大きな手を土砂が降りぐ穴の中に入れ、土砂をかき出す。


「人力よりは早いけど……。どのくらいの距離が埋もれているかわからないけど、結構時間かかりそうだよこれ。爆破もっと大きくしてもダンジョン壊れないかな?」

「竜が暴れてもこわれないので、大丈夫だと思いますよ」

「じゃあそれならば」

 千夏は小型ミサイルをを何発か作り出すと、穴が開いている場所に向かって叩き込む。

 ものすごい爆裂音が鳴り響き、ガラガラと通路内の岩や石が飛び散る。


 今度は10メートルほど穴が先に広がっている。

 2,3回繰り返すと、通路が開通し、穴の向うに空洞が見える。

 あとは土砂をかきだすだけだ。

 千夏は気でブルトーザーもどきをつくりあげ、土砂をぐいぐいと押して地下3階まで押し流す。

 爆破開始から30分後、なんとか通れるように通路が整理された。


「ちーちゃん、お疲れ様でしゅ」

 タマに労わられ、千夏はぐったりと椅子に座り込む。

 爆破はそうでもなかったが、ブルトーザーもどきをずっと崩れないように、維持し続けるのがかなりしんどかった。

 全員に労われながら、千夏は冷たいお茶をぐびぐびと飲み干す。


(穴が開いたら穴の向う側から魔力がどっと押し寄せてきよった。かなり3階に溜まっとったようやな。これなら3階に魔石がゴロゴロ転がっとるかもしれんな。)

 魔力が感じ取れない千夏にはシルフィンが言っていることがわからない。

 だが、かすかにドラゴンオーブで触った火竜の記憶を思い出す。


「確かドラゴンオーブの火竜は、魔力溢れるダンジョンを終の棲家に選んだらしいんだけど。竜は魔力が多いところにいるのが好きな魔物なの?」

「竜は魔素を自分の魔力に少しずつ取り入れることができる稀有な魔物だ。力が弱ってきている竜には効果があるだろう」

 千夏の質問に竜マニアのアルフォンスが答える。

 アルフォンスのこの知識は、ランドルフ著書の竜の生体について書かれている本を読んで得たものだ。


「もしかして、混血竜(ハーフドラゴン)が弱っていて、通路を塞いで魔力をせき止めていたとか?土と水の混血竜(ハーフドラゴン)だよね。竜ならこの通行止めを作ることができる」

 アルフォンスの言葉を聞き、リルが考えながら意見を述べる。

「可能性としてはありますね」

 エドは茶器を回収しながら答える。


「念のための質問なの。力が弱ってない竜でも魔力を取り込んでさらに強くなるってこともあるの?」

 セレナがおずおずと手をあげながら質問をする。

「長期間ずっと魔力が濃い場所にいればそうなるケースもあるらしいが、どうなんだろうな」

「竜がダンジョンマスターとして生まれたときには、早めに倒したほうがいいという噂を聞いたことならあります。事実なのか不明ですが」

 アルフォンスが少し考えて答えたあと、エドが補足する。


「じゃあ、タマもずっとダンジョンにいたら強くなれるでしゅか?」

 キラキラと目を輝かせタマが質問する。

「そうかもしれないけど、タマだけここに残るの?人である私はここでは住めない。私は寂しいよ」

 千夏はタマの身長に合わせて屈み込み、タマの頭を撫でながら答える。

 確かにタマとコムギだけならここに住めるかもしれない。


「タマはちーちゃんといるでしゅ」

 タマは嫌々とかぶりをふると、千夏に抱き付いてくる。

 置いて行かれたくないのだ。

 千夏はほっとして、タマを抱きしめる。

 ここに残りたいと言われたらどうしようかと少し考えていたからだ。


(とりあえず、用心して3階に進んだ方がよさそうやな。そろそろいこうか?)

 話がひと段落したところで、シルフィンが声をかける。

 すでに、休憩用に取り出したアイテムは回収済である。

 全員が頷き、アルフォンスを先頭に地下三階へと向かった。


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