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夏まつり (2)

ご感想のご指摘により全面見直しました。

魔法禁止であるのに、魔法を使っていました。

攻撃魔法じゃなきゃいいと勝手に思い込んでいたのですが、だめだめですね。


 今朝は朝から晴れていて雲ひとつない。絶好の漁日和だ。

 アルフォンス達は競技開始の時間まで、モリスに銛の取り扱いについてレクチャーを受けていた。タマも真剣に聞いている。コムギは銛を投げられないので、興味がなさそうだった。


 千夏とリルは簡単に釣竿の説明を聞いていた。船べりに竿を固定し釣り上げるタイプの竿で、正直獲物がかかったとしても千夏とリルだけで引き上げられるかどうかが怪しい。とにかく何か反応が来たら船員を呼ぶようにと言われた。


「そろそろ開始時刻だ。全員船に乗り込め!」

 モリスが太く通る声で、全員に呼びかける。

 船の帆先には緑色の地に黒文字で24と書かれた旗がたなびいている。これは競技船に参加する24番目の船であることを示している。


 すでに日差しが結構強くなってきた。千夏はタマに麦わら帽子をかぶせ、自分もかぶる。

 船室の一室を借りて涼めるように氷のたらいをいくつも置く。ここは誰でも出はいり自由だ。涼しい船室に船員達が「こりゃいいな」と喜ぶ。


 いよいよ出発の時刻だ。

 マルタの港から一斉に26台の船が出港する。船の半数以上が漁船でこの海を知り尽くしているプロだ。

 優勝賞金は金貨30枚。金額自体は大したことはない。だが、これは海の男のプライドをかけた勝負なのだ。

 今日釣りあげた魚はセリにかけられ、全て買い取ってくれることになっている。獲って獲りまくるしかない。


 千夏は船が沖に出てしばらく経つとまずは少しほっとする。思ったより海が荒れていないのだ。

 小型快速艇は漁船を引き離しドンドンと海の中央へと向かっていく。出だしは好調のようだ。


 しばらくの間甲板で透けるような海を見つめていたが、やがて飽きて千夏は船室に籠る。アイテムボックスからグルメ本を取り出し、どんな魚がおいしいのだろうかとそちらに夢中になっていた。

「おーい、千夏。着いたぞ」

 アルフォンスに呼ばれ千夏は再び甲板へと出る。

 見渡す限り海で来た方向もまるっきりわからない。涼しい風が何も遮ることのない海の上を吹いていく。


「この辺りがポイントらしい。ちょっと潜って確認してくる」

 アルフォンスが海の中に飛び込む。

 タマも船の見張り台へとするする登り、この辺り一体の気を探索する。

 その間にエドが冷たいお茶を全員に配る。お茶がしはマルタ名産の魚の骨を揚げたものだ。ぱりぱりした食感がたまらない。


 お茶菓子を食べているところにタマとアルフォンスが戻ってくる。

「あっちのほうに大きな気を感じるでしゅ」

 タマが指をさす。

 セレナに持ち上げられ、アルフォンスは船にあがってきた。

「あっちか。ここにしばらくいればそのうちカジキの群れにあたるとおもうが、どうする?」

 モリスがアルフォンスに尋ねる。


「タマが指したほうに行ってくれ」

 勿論アルフォンスはタマを信じている。タマは気も読めるし、間違いないだろう。

「わかった」

 モリスは頷くと操舵室へと戻っていき、船員達が固定した錨を引き上げていく。


 魚を獲ることはできないが、気を読むことくらいなら出来るかもしれない。千夏はじっと船が進む方向に視線を固定する。確かにタマが言う通りに進行方向に大きな気を感じる。

 30分ほど船を走らせ、千夏は大きな気がある方向に船を誘導していく。


「ここで止めて」

 目標まであと100メートルというところで、千夏は船を止めさせる。

 近づいてみてはっきりと異様に大きい気であることに気が付く。


「あの辺にいるわ。気の大きさからいっても竜の半分くらいの強さね」

「竜の半分だと?カジキじゃあるまい。一体なにがいるんだ」

 モリスは千夏が指さした場所を食い入るように見つめる。


「気の距離からいって海の中水深、2、30メートルくらいいるのかも。獲物が大きすぎない?やるの?」

 千夏はじっと海の中を覗き込む。

 魔法禁止で、大物に立ち向かうのは無謀だ。できればやりたくはない。


「どうにか誘きだせないかな……」

 うーんとアルフォンスが考え込む。


 どうやら、やる気でいるようだ。まぁここまできてやらないとは言わないか。

 千夏は諦めて、覚悟を決める。

 最悪まずそうだったら、魔法を使えばいいのだ。


「魔法は禁止でしたよね。気功術はどうでしょうか?」

 エドが漁大会のちらしをみながら提案する。

「そういえば、駄目って書いてないね」

 千夏もエドが持っているちらしを覗き込む。


(そやな、気功砲を数発撃ち込んで、おびき寄せるか。距離もあるし、タマに乗って近くから撃った方がよさそうやな)

 シルフィンがそう提案する。


 千夏は今までタマに乗ったことはない。不安そうにタマを見つめる。

「大丈夫でしゅよ、ちーちゃんは落とさないでしゅ」

 そう答えるとタマは竜に戻り、千夏が背中に乗りやすいように体をかがめる。


「タマ、落ちないようにロープで固定してもいい?」

「いいでしゅよ」

 タマから返事をもらい、早速千夏はアイテムボックスから取り出したロープをタマの首へまわし、「きつくない?」と何度も確認しながら結びつける。そのロープで自分の体もしっかり結びつける。


 置いて行かれると思ったのか、コムギもタマの背に乗ってくる。

「コムギ、危ないからここで待っていて」

 千夏はそうコムギに言い聞かせるが、嫌々とコムギは暴れる。暴れるコムギをセレナが腕を伸ばして抱え上げる。さすがにサイクロプスの腕輪をしているセレナの腕からは、コムギは抜け出せない。


「コムギ、いい子にしていてね。タマ、ゆっくりと飛んでみて」

「はいでしゅ」

 タマは船から飛び上がり、ゆっくりと獲物がいる海域へと飛んでいく。意外と安定した乗り心地である。

 タマは海から数メートル上の低空飛行で飛び、気を感じる位置で止まる。


 千夏は目を閉じ、頭の中で魚雷をイメージしながら気を練っていく。3発ほどそれを捏ね上げると、目標に向かって全弾発射する。

 魚雷は海の中を真っ直ぐに、すごい勢いで突き進む。しばらくすると何かに突き当たったのか、目の前の海の波が変則的に流れに逆らい、逆方向に流れていく。


「来るでしゅ」

 グングンと目標の気が海を上昇してくるのを感じ、タマも上空へと駆け登る。

 やがて海からそれは顔を出す。


「でっかいイカ?」

 海から飛び出してきた全長20メートルほどもある魔物を見て、千夏は呟く。

「クラーケンか!」

 100メートル離れた船からアルフォンスは現れた魔物を見て叫ぶ。


「キュルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 海上へ顔を出したクラーケンが脚を突き上げ、怒号を放つ。

 気功砲があたったのか数本の足がもげてなくなっている。以前戦った大岩ガ二と同じ大きさだ。だが触手のような脚は大岩ガニよりも長い。


 クラーケンは上空のタマを見つけると足を振り上げ攻撃をしていくる。タマは更に上空へとあがり、クラーケンの攻撃をかわす。


『どうする?』

 千夏は遠話のイヤリングを使って、パーティメンバーに問いかける。

『これからそっちに向かう』

 すぐにアルフォンスからの応答が入る。

 船がゆっくりとこちらに近寄ってくるのを確認すると、千夏は注意をこちらに向けるため、ミニチュア戦闘機を一機作り上げクラーケンに飛ばす。


 的が大きいだけあって、簡単に気功砲が当たる。一本の腕が爆発で吹き飛ぶ。

「キュルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 怒り狂ったクラーケンは海水を持ち上げるとタマに向かって高速で海水を飛ばしてくる。クラーケンの持つ水魔法『水流(ウォータスプラッシュ)』だ。


「ちーちゃん、捕まってるでしゅよ」

 タマは襲い掛かる水流を避けるため、高速で動き始める。

「嫌ー!」

 千夏は必死にタマにしがみつく。


 しばらくするとクラーケンから魔法が飛んでこなくなる。エドの魔封じの盾で魔法が無効化されたのだ。


 セレナとアルフォンスが銛を掴むとクラーケンの頭部に向かって力いっぱい投げつける。クラーケンは脚で銛を弾き飛ばそうとするが、セレナの放った銛はそのまま足を貫き頭部へと縫いとめる。

「キュルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 クラーケンは届かない相手から船に目標をかえる。船に向かってぐんぐんと近寄って行く。


(あいつの攻撃手段は脚や、まずは邪魔な脚を切り落とすんや!)

 シルフィンが叫ぶ。

 千夏の気功砲によって10本あった脚は6本までに減ったが、それぞれが自在に動き回る。船を壊されたらやっかいだ。

 セレナとアルフォンスは銛を捨て、剣を抜くと船に襲い掛かる脚に向かって走り寄る。


 コムギも襲い掛かる脚の一本に噛みつく。コムギは噛みつきながらクラーケンから気を奪い始める。ただでさえ、ダメージを受けているクラーケンの動きは気を吸われ段々と鈍くなっていく。


 エドは誰も張り付いていない残りの3本の脚の動きを追う。船を壊そうとする動くのを見計らって、蹴りで脚を弾き飛ばしていく。動きが鈍くなってきているので、なんとか対応可能だ。


「ちーちゃん、戻るでしゅ」

 目標が変わったからにはここにいても仕方がない。タマは、千夏を連れて戦闘中の船に降り立つ。


 千夏が急いでタマから飛び降りるのを確認すると、タマは人の姿に変化する。タマも甲板に置いてある銛を使って、クラーケンに飛びかかる。竜のままで攻撃してもよかったが、今回は漁なのだ。教えてもらった銛で倒したかった。


「行くでしゅよ!」

 タマは銛を構えると、襲い掛かってきた脚に向かって突き進んでいく。


 モリスは船を壊そうとするクラーケン脚を巧みな操船で船の進路かえ回避する。船員も船に設置されている、太さがおよそ1メートルもある巨大な銛をクラーケンの本体目がけて撃ち放つ。


 セレナとアルフォンスは、なんとか一本ずつ足を切り落とすと、すぐに残りの脚に向かって走り始める。

 リルは全員の動向をじっと見守っている。リルは魔法が使えないこの状況では何も手伝うことができないのだ。いざ誰かが怪我をしたら、すぐに魔法を使えるように周りの状況を監視する。


 千夏は噛みついたまま振り回されているコムギの動向をじっと見守っている。できればコムギをこの乱戦から引き離したいところではあるが、本人はやる気に満ちており、今の状況ではコムギを脚から引き剥がせない。


 コムギは遠慮なくクラーケンから気を奪い続ける。コムギが噛みついている脚が弱弱しく動く。


「ハァー!」

 セレナが駆け寄りその足を斬り落とす。

 千夏はすぐにかけより、切り落とされた脚を噛んでいるコムギを抱き上げる。どうやらそれほど大きなケガをしていないようだ。


 ほっとした千夏の腕からコムギはするりと抜け出し、クラーケン本体へと駆け寄っていく。

「あ、コムギー!」

 千夏はコムギの後を追うが速度が違う。追いつけない。


 やがて全ての脚を失い、魔法を封じられたクラーケンはついに倒れた。


「なんとかなったな」

 息を弾ませ、アルフォンスが倒れたクラーケンを見下ろす。

「まったく、クラーケンをやるとは。船が無事でよかったぜ」

 呆れたように声を上げ、モリスは船を止める。


 エドは船内に散らばる脚をアイテムボックスへと収納する。最後にクラーケン本体を噛みついたままのコムギを抱き上げて、本体をアイテムボックスに収容する。


「さて、船に戻って次の獲物探しだ!」

 アルフォンスが元気にそう叫んだ。

 まだやるの?と千夏はぼやいた。

ご感想ありがとうございました。

魔封じの盾はこの回でちょっとだけ出してみました。


タマが海に入っているところを訂正しました。

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