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後宮

「宰相を務めています、イズスと申します。宝物庫にご案内します。こちらにおいでください」

 実直そうな中年男性が千夏達に近寄り、軽く会釈をする。

 千夏も会釈を返して、イズスに誘導されるまま謁見室を出る。


「宝物庫は、後宮にあります」

 イズスはこれから向かう場所について簡単に説明する。

 千夏の後ろには騎士が二人ほどついてきている。

 宝物庫の鍵は現在イズスが持っている。念のために護衛としてついてきているのだ。


 イズスの後を歩くアルフォンスの表情はすぐれない。

 物語で憧れていた勇者として自分が選ばれたのだが、勇者とはもっと強いものだ。

 己の力を十分に理解しているので、そんな称号をもらってもいいものだろうかと考えていたからだ。


 千夏とセレナはそんな事情など知らないので、ただ初めて見る王宮の華やかな内装をキョロキョロと観察している。

 門の前の中央広場まで戻り、後宮へと進んでいく。

 後宮は王の住まいとして割り当てられている。


 千夏の中では後宮というとハーレムのイメージが強い。

 このエッセルバッハでも一夫多妻制は認められている。

 だが、現在の王は側室を持っていない。


 現在の後宮は男子禁制でもなく、自由にで入るできる場所になっている。

 自由といってももちろん入る資格があるものだけに限られているが。


 官僚や王の執務室など政治が行われる主塔から後宮へと続く回廊を通り抜ける。

 回廊の下は小さな池になっており、そこから整えられた見事な庭園を眺めることができる。


「わぁ、すごいの」

 庭園に咲き誇る見事な花々にセレナは釘づけになる。

 千夏にちょいちょいと突かれ、慌てて振り返り先に進んでいるアルフォンス達の後を追う。


 後宮の入口を警護していた女騎士が、イズスに気が付き後宮の門をあける。

 鉄門をくぐり抜けるとそこはさきほどの回廊から一部見えていた見事な庭園が続いている。


 庭園の一角に青い薔薇が咲き乱れていた。千夏は今まで見たことがない青い薔薇を足を止めて眺める。

 青い薔薇を作るのに苦心している研究者のドキュメンタリーを、昔テレビで見たことがあったのだ。

 今度は千夏がエドに突かれて我に返る。


「すみません、本当はゆっくり後宮をご案内したいところなのですが、仕事が立て込んでいましてご案内する時間がありません」

 申し訳なさそうにイズスが先ほどから立ち止って後宮を眺めている千夏とセレナに謝る。


 今文官は通常業務とは別に、過去の書物を読み漁って魔族対策を探すという仕事が割り振られている。

 文官の長である宰相も仕事におわれているのだ。


「いえ、こちらこそお忙しいのにすみません」

 千夏は少し赤くなって謝る。セレナも同様にぺこりと頭を下げる。


「セラ様にお願いすれば、今度ゆっくりみることができると思います。では、まいりましょうか」

 イズスは微笑みながらそう答えると先へと進み始める。

 千夏とセレナはキョロキョロすることをやめ、素直に後ろについて歩いていく。


 庭園を10分ほど歩いた先に後宮の建物が見えてくる。

 宝物庫は後宮の地下に設置されている。

 後宮の侍女たちが、後宮のエントランスホールで出迎える。

 後宮へと続く鉄門が開けられるとこちらに設置しているマジックアイテムが光ってそれを教えるのだ。


 背筋をぴんと伸ばした初老の女官長がイズスに軽く会釈をし、一行を先導していく。

 王以外の男はこの後宮を女官の先導なしに勝手に出歩くことができないのだ。


 地下へと続く階段をおり、分厚い鉄門が見えてくる。

 宝物庫を見張っていた女騎士が、女官長とイズスに向かって軽く会釈をする。

 イズスは会釈を返すと、懐から黄金に輝く鍵を取り出し宝物庫を開ける。


「どうぞ、こちらへ」

 イズスは宝物庫の中へ入っていく。

 宝物庫の一番手前は大量の虹色に輝く貨幣が山のように積まれていた。

 千夏は見たことがないがこれは白銀貨と呼ばれるもので1枚で金貨500枚に相当する。


 白銀貨の山を過ぎると木造の棚が数個設置されており、その棚に武器や鎧、マジックアイテムなどのレアアイテムが置かれている。

 ひとつひとつみて説明を受けていたらものすごく時間がかかりそうだ。


 イズスは宝物庫の目録を数枚テーブルの上に広げる。

「まずはご覧いただき、不明点がありましたらご質問ください。本日お決まりにならなかった場合はまた別の日にご覧いただくことになります。あと、一人ひとつと王がおっしゃっておりましたが、今回活躍した竜の分についても持っていかれて問題はありません」


 とりあえず、今日はちらっとみて欲しいものを考えて出直してきたほうがよさそうだ。

 全員で相談した結果、そういうことにしてばらばらと広い宝物庫の中に散らばっていく。

 アルフォンスは剣を、エドは防具の棚を興味深げに覗いている。

 セレナはどこをみていいのかわからずうろうろする。剣は妖精剣があるし籠手もこの前もらったばかりだ。


 千夏は杖の棚をとりあえず見てみることにした。

 いろんな形の杖がありなにがいいのかさっぱりわからない。

 杖はだいたいが幅5センチほどのもので長さは30センチのものから1メートルほどのものが置いてある。手前の一本を手にとってみるが、結構重い。

 千夏はその杖を戻すととりあえず棚の中を眺めることにした。


 その中にひとつだけ長さが3センチほどの古木の木片が置いてある。

 ごみではないらしく、きれいな箱の中におさめられている。

 千夏はそれを手にとる。握れば手の中にすっぽりと収まってしまう。

 とても杖といえるものではない。


 千夏はイズスを呼び、この木片について質問をしてみた。

「6番の棚の一番左ですね」

 目録から該当する杖の説明をイズスは探し始める。

「あ、ありました。その杖は世界樹の枝の一部で作られているものらしいです。世界樹……。ああ、妖精王が守っている木のことだと思います。昔文献で読んだことがあります。実際にそんな木があるんですね」

 イズスは千夏が手にしている木片をじっくりと眺める。


 世界樹。昔やったRPGのゲームにも登場していた。確か蘇生アイテムだった記憶がある。

 というか、やっぱりこれも杖と呼ばれるものなのか。

 特殊な木の枝なので、材料が手に入らず小さいのだろうか。


「それで効果ですが、魔法の威力が20%向上、それと特殊効果でユニークスキルの威力が2倍になるそうです」

「ユニークスキル?」

「はい。一般的に出回っている誰でも覚えられるスキルではなく、個人が生まれたときから持っているスキルをユニークスキルといいます」


 ということは食いだめが1食分で2食分に増えるということだろうか。

 千夏はふむと考え込む。

 経済効果としてはお得だ。もしお金がなくなったとしても今あるうちに食べておけば飢え死にすることはないだろう。だが戦力としてアップするかといえば微妙だなぁと千夏は考え込む。


「ユニークスキル効果アップに向いている杖ですね。魔法の威力を上げたいのであれば他の杖のほうがよいでしょう」

 イズスの説明を聞き、千夏はとりあえず木片を棚に戻そうとする。

 すると木片が一瞬青白く光り、その光はすぐに消えた。


 千夏は、イズスに顔を向けて説明を求める。

「ああ、杖に気に入られたようですね。持ち主認証が行われてしまったようです。なにか特殊なユニークスキルを持っているのですか?」

 残念そうにイズスは答える。


「つまり?」

「つまり、その杖はチナツさんが亡くなるまで誰にも扱えない杖になったということです」

「ということは?」

「ということで、チナツさんの選ばれるアイテムはその杖に決まってしまったということです」


「アイテムが勝手にそんなことするの?」

「持ち主認定というのは、レアアイテムに特化した事象です。簡単に言いますと持ち主認定とは、そのアイテムを使う権限という意味です。

 持ち主認定がされなければそのレアアイテムを使うことはできません。持ち主認定をする場合、2つのパターンがあります。


 1つ目は「承認」というスキルを使って、レアアイテムに持ち主認定を設定することができます。

 だいたいがこのパターンにあたります。また「承認」のスキルで持ち主認定したアイテムは「承認解除」というスキルで持ち主認定を解除することができます。


 2つ目がアイテム自身が持ち主を決め持ち主認定をすることです。レアアイテムは意志のようなものを持つといわれています。こちらの場合は、持ち主が死ぬまで持ち主認定は外れません」


 千夏は手元の木片をじぃっと見つめる。

 決まってしまったのではしょうがない。

 どうせタダでもらえたものだ。文句はない。


 千夏はアイテムボックスから細い紐を取り出した。

 木片に紐をぎゅっと結び、ほどけないようにした後に首が通せるほどのわっかを作る。

 あまりに小さいのですぐになくしてしまいそうなので、首からぶら下げておけるようにしたのだ。


「これ、魔法使うときに手に持たないと効果がないの?」

「体に装備していれば問題ないです。その状態でも効果はあります」

 それならば問題はない。

 千夏は首に紐を通すと、うろうろしているセレナに声をかける。


「セレナは何にするか決まらないの?」

「うん、どれにすればいいのかわからないの。チナツは決まったの?」

「なんとなく成り行きで決まった。これなんだけどね」

 千夏は首からぶら下げている木片をセレナに見せる。


「お札かなにかなの?」

 セレナは木片を手にとって首をかしげる。

「こんな小さいのでも杖なんだって」

 千夏は簡単に説明する。


(懐かしい。世界樹の枝や。)

 シルフィンが震えるような声でつぶやく。


 シルフィンの言葉で、散っていたアルフォンスとエドが何事かと戻ってくる。

 千夏は面倒になりながらも、再度杖の説明を繰り返す。


「チナツのユニークスキルっていったい何なんだ?」

 アルフォンスが興味深げに千夏に質問する。

「言わなくていいですよ。ユニークスキルは人に話すものではありません」

 すぐにエドが止める。


 まぁ千夏にとっては大事なスキルだけど、他の人には大したことがないものだ。

 だらだらしたいのでもらったスキルだといいにくい。


「他の方はなにか気にあるアイテムはありましたか?」

 イズスが、目録を広げ質問をする。

 アルフォンスとエドは気になったアイテム数点をイズスに説明してもらう。


「無理して短時間で決めなくてもいいですよ。このような機会は何度もあるものではありませんし」

 説明を聞いたアルフォンスとエドはどれにするかを悩んでいるらしい。


 明日以降は、イズスではなくセラが立ち会ってくれるそうだ。

 タマの分のこともあるし、今日はとりあえず帰ることにした。


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