王都襲撃 (3)
(タマ……タマ…………)
戦いが始まってからずっと千夏はタマを呼び続けていた。
相変わらず返事はない。
千夏は、溜息をつくと目の前の攻防を食い入るように見る。
なんとか食いついていってるが、アルフォンスとセレナの疲労は濃い。
リフレクションブレイクを絶え間なく使っているせいだ。
エドは相変わらず無表情なのでよくわからない。
(ちーちゃん、呼んだでしゅか?)
待ちに待ったタマの応答が聞こえてくる。
(タマ急いでもどってきて!魔族が攻めてきているの。そのまんま入口から入ってきていいから)
(わかったでしゅ)
「タマと連絡がとれた!」
千夏は3人に向かって叫ぶ。
その声に、アルフォンスが軽く手を上げる。どうやらちゃんと伝わったようだ。
「王都入口警備へ連絡を。竜が王都に入ってくるわ。邪魔しないようにってきっちり伝えて」
セラが遠話のマジックアイテムで指示を出す。
しばらくすると、空を飛ぶ黒い影が王都上空に見えてくる。
千夏はその影をじっと待ちわびる。
「って、でかっ!」
こちらに向かって飛んできたタマの全長はおよそ3メートル。
翼を羽ばたかせ、そのまま上空からケルベロスへと急下降する。
タマは右の首にそのまま食らいつくと、鉤爪でケルベロスの背中をえぐる。
「グガァァァァァァァァ」
タマに食らいつかれている頭が絶叫を放つ。
残りの頭がタマに向かってブレスを吐こうとするが、
すかさず、アルフォンスとセレナが残りの頭へ攻撃を始める。
タマは食らいついた頭にさらに口を大きく開けて食らいつく。
エドは立ち止ったケルベロスの足の関節を狙い、鋭い突きを何度も打ち込む。
ぐらりとケルベロスはバランスを崩す。
「エド、みんなを連れて少し離れるでしゅ」
タマはケルベロスから口を離し、エドに話しかける。
エドはすぐに二人を連れ、中距離離転移をする。
タマは息を大きく吸うと、ドラゴンブレスを吐く。
光竜が吐くドラゴンブレスは虹色の光線だ。眩い光が一直線に途中まで食いちぎられた右のケルベロスの頭に直撃する。
ブレスが直撃した右半身はレーザーを浴びたかのように抉られ炭化する。
たまらず、ケルベロスも残りの2つの頭から炎のブレスを吐き出す。
タマもすぐに再度ブレス吐き、その炎を押し返そうとする。
「すごいぞ!タマ!」
アルフォンスは、ドラゴンブレスを吐くタマに大興奮だ。
セレナも唖然とタマを見つめている。
互いにブレスに魔力を込めて最大出力で放つ。
魔力の差でいえば、散々消費したケルベロスよりタマのほうが多い。
僅かにタマのブレスがケルベロスのブレスを押し返していく。
「いける、いけるわ!」
セラもタマのドラゴンブレスを目の当たりにし、勝利を確信した。
千夏はじっとドラゴンブレスを魅入るように見つめる。
頭の中で、火竜の記憶が蘇る。
「緋の陽と陰交わるときに、地獄の炎が舞い降りる『火炎地獄』!」
うわごとのようにぼんやりとした声で短い呪文を唱え、千夏はケルベロスへ向けて腕を振り下ろす。
ケルベロスの足元から突如巨大な業火が吹き上がる。
「「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」」
ケルベロスは、滾る炎に包まれ体が溶けていく。
タマはその炎から危険を察知して、すぐにその場から離れる。
目の前の業火から千夏の魔力を感じ取ったタマは、千夏を探す。
「ちーちゃん?」
近衛兵本陣から少し前に出たところで千夏は倒れていた。
すべての魔力を使い切り魔力切れをおこしたのだ。
タマは千夏に近寄ると、人の姿に変化し千夏を抱き起す。
魔物を食らいつくした炎は静かに鎮火していく。
すぐに転移でアルフォンス達が駆け寄ってくる。
「魔力切れのようです。特に問題はありません」
エドが千夏の脈を確認した後にそう告げる。
他の3人はほっとしたように気を失っている千夏を見つめる。
それまで唖然と事の成り行きを見守っていた近衛兵団は、跡形もなくなった魔族と千夏達を見てやっと勝利を実感した。
一人が歓声を上げると次々と歓声が上がっていく。
彼らは王都を救った英雄たちを取り囲む。
突然取り囲まれたほうのアルフォンス達は、興奮した騎士団の人々を困惑した表情で見つめ返す。
「君たちのおかげで助かった。ありがとう」
団を代表してマイヤーがアルフォンス達に声をかける。
「いえ、お役にたててよかったです」
アルフォンスは困惑しながらもなんとか答えを返す。
「それより、仲間を休ませたいのですが失礼してもよろしいでしょうか?」
エドがマイヤーに千夏を抱えた状態で問いかける。
アルフォンスもセレナも炎で火傷を負っている。早く治療しないと痕が残る。
「ああ、もちろんだとも」
マイヤーがそう答えると、それではと言ってアルフォンス達は転移で屋敷へと戻っていく。
「ええ、無事魔族を倒したわ。最後はチナツが暴走したようにも見えたけどね。治療師を一人バーナム辺境伯別邸に送ってちょうだい。私は今から城に戻るわ」
遠話のイヤリングで状況報告をしたセラは、かつて王都の中央広場であった無残な場所を見て溜息をつく。
死者の数はそれなりの数になるだろう。
問題はこの襲撃が序曲であって、最終戦ではないことだ。
下級魔族一人にこれだけ翻弄をさせられたのだ。
「結局、最後まで来なかったわね。あのおかま」
「状況は気になっていたようで、近くまできていたようでしたが」
戻ってきた配下が、ランドルフの所在について答える。
「いつまでもトラウマに浸ってる状況じゃないのよ。あの馬鹿。根性を叩きのめす必要があるわね。とにかく城へ戻るわ」
「かしこまりました」
男はそう答えると、セラを連れて王城前へ転移で移動する。
セラは王城の門番に身分証明書を見せて中に入っていく。
もちろん、身分証明書は城の内勤の政務官の肩書であって王妹のものではない。
「城に転移で入れないように結界を張っているのはセキュリティ的にしょうがないけど、今回のような緊急事態では不便でしょうがないわ。至急特別なマジックアイテムを作るように工房長に依頼をかけてちょうだい」
「かしこまりました」
「それと早急に今回魔族が侵入した経路を洗ってちょうだい。今回の二の舞はもう御免だわ」
セラは歩きながら、次々と指示を出していく。
王の執務室へと続く裏道を使い距離をショートカットする。
セラは王の執務室の扉を押し広げ中に入っていく。
執務室の中には王、宰相、主席魔術師の3名が揃っている。
「お兄様、ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」
セラは王の前まで進みでると深く頭を下げる。
「やめてくれ、セラ。君がいなかったらもっと大事になっていた。頭をあげてくれ」
王は、頭を上げるように妹に懇願する。
セラが頭を上げると王はほっとしたように息をつく。
エッセルバッハ王国第13代目の王は今年43才になる。
平凡で特に目立った功績を上げてはいいないが、穏やかな人柄で配下の意見にきちんと耳を傾ける。
特に一番信頼しているのは妹のセラだ。
「今回の被害については早急に調査を行います。また、今回の立役者であるバーナム辺境伯爵家のアルフォンスへの報償のほうよろしくお願いいたします」
「わかってる。君も一度休んだほうがいい」
「ありがとうございます」
妹に休む気がないことはすぐにわかった。
たまには私のいうことを聞いてくれてもいいじゃないか。
兄王の複雑そうな顔を見て、セラは苦笑する。
「ところで、カトレア。チナツが最後に使った魔法は一体なに?聞いたことがない魔法だったけど」
小狡い妹はさっさと話題を変える。
「あれは上級魔法ではありません。私も文献でしか知りませんが、たぶん特級魔法のインフェルノでしょう」
「そう。あれが特級魔法なの。確かに凄まじい威力だったわ。変化した魔族が一瞬で溶けて消えたし。
ただし、場所はそれなりに広いところでないと使えないわね。あの魔法で却って被害が増えそうだわ。それに魔力も膨大に必要そうだし、連発はできないわね」
「そもそも特級魔法を連発するという考え自体ありえません。特級魔法は最後の奥の手なのですから。上級魔法でさえ単独で使える者は少なく、合唱魔法で唱えるものなのですよ」
特級魔法にまで査定を付けるセラにカトレアは苦笑する。
セラは兄の執務室のソファに座り、出されたお茶菓子をかじる。
魔族襲撃でせっかく予約しておいた昼食を食べ損ねたためおなかがすいている。
「上級魔法をすっとばして特級魔法ね。ドラゴンオーブから得た知識だろうけど、上級魔法は入っていなかったのかしら」
「ドラゴンオーブから読み取り知識量は膨大なものと聞きます。一番印象に残った特級魔法が出たのでしょう。上級魔法も覚えているはずです。一度私に簡単なレクチャーをさせていただけるのであれば、上級魔法を使えるでしょう」
「では、そのうち頼むわ」
セラは少し行儀悪くお茶を一気に飲み干すと、王に挨拶して自分の執務室に戻る。
後処理が大量に残っている。
他国の王とも連絡を取り合わねばなるまい。魔族が再びこの世の支配権を狙っていることを。
「なにが「魔族が支配する」よ!人間舐めるなー!」
セラは叫ぶと少しすっきりしたようで、モチベーションをあげさっさと仕事を片づけ始めた。
下級魔族なのでさっくりと……
一段落したのでモチベーションを上げるために番外編を書き始めました。
まだシリーズ登録ができていないのですが。
「だらだらと語りましょう」
というタイトルです。
こちらは気楽に書いて行こうと思っています。




