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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
王都に出かけよう
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ショッピング

 無事侯爵家に辿り着くと、セレナは早速千夏の部屋を尋ねる。千夏はちょうどお昼寝から起きたらしく、テーブルにつきお茶を飲んでいるところだった。


 セレナは受付嬢に言われたことを千夏に伝え、金貨90枚をもらいあとは千夏に渡す。

「あれ?山分けルールは?」

「海の魔物はチナツが倒したの。だからそれはチナツの分なの」

 小心者であるが、頑固なところがあるセレナは他の報酬を受け取るつもりがない。

 千夏はそれ以上追及せず、アイテムボックスにお金をしまう。


「久しぶりの休みに頼んでわるかったね」

「ううん、大丈夫なの。また、街に戻って洋服をみるつもりなの。シルフィンが王都にいくならもっとちゃんとした服があったほうがいっていうの」

「洋服か……。これじゃだめかな?」

 セレナと違い千夏は服装についてあまり気にしない。裸じゃなければいいんじゃないの?くらいな感覚だ。


(王都は辺境とちゃう。それなりな服装じゃないとあかん。雇い主のアルフォンスの評価が下がる)

「古着は駄目ってことか。じゃあ、私もついて行こうかな」

「うん、一緒にいくの」

 女の子同士で洋服を見に行くのは大変楽しい。セレナは少し浮かれながら、先程街に出たときに目を付けていた洋服屋に千夏を案内する。


「いらっしゃいませ」

 店内のドアを開けると色とりどりの華やかな商品が目に入る。ここには洋服だではなく、帽子や靴に鞄なども揃っている。

 千夏は近くに飾られていたワンピースを手にとり、そろりと値札を確認する。

(うぁ、古着屋の20倍以上の値段だ)

 お金に困っているわけではないが、千夏は洋服にそれほど価値を見出していないので高く感じてしまう。


「そちらのワンピースは今年の初夏モデルです。布地にクールの魔法が織り込まれています。とても涼しく着心地は最高ですよ」

 店員はにこにこしながら千夏がつかんだワンピースについて説明をする。

 ただの服でないのか。魔法効果付なら値段が高くても納得できる。千夏は暑いのも寒いのも苦手だ。できれば両方の魔法がついたものがあれば言うことはない。千夏はデザインではなく機能重視で洋服を選び始める。


 セレナは可愛らしいデザインの洋服に見とれている。小花をあしらったスカートや、フリルのついたブラウスなど目移りしてしまう。

「チナツ、これ似合うの?」

 裾が白いレースで飾られたモスグリーンのワンピースをセレナは体にあてながら千夏に尋ねる。

「ん?似合ってるよ」

「こっちはどうなの?」

 別のワンピースを取り出し、再度千夏に尋ねる。


「そっちもいいね」

「ん……、迷うの」

「お客様、一度ご試着されてはいかがですか?」

 数枚の洋服を広げ、悩んでいるセレナに店員が声をかける。セレナは頷き、数枚の服を試着室に持ち込む。


「ねぇ、オールシーズン快適に着れる服って置いてないの?」

「ございますよ。この辺りがそうです」

 千夏は店員が示した一角を漁りはじめる。オールシーズン向けなだけあって、なかなか値段が高い。そういえば、この暑い時期にフロックコートを着て、汗もかいていないエドの服もオールシーズン用なのだろうか。黒のパンツスーツを見つけ、千夏はふとエドを思い出したのだ。


 没個性ではあるが、やはり黒のフォーマルはどんな席でも使える。千夏は一着をそれに決め、もう一着どれにするか少し悩む。


 ときおり試着室が開き、セレナのファッションショーが開催される。千夏よりシルフィンのほうがまともなコメントを返している。

(んー、デザイン的には似合っとる。せやけど、その色やったらさっきの色のほうがええな)

(それ、胸が空きすぎや。あかん、ない胸が強調されてるぞ)

(後ろまわってみぃ。尻尾のところがもさっと膨らんでかっこわるいで。せやかて、その服に尻尾用の穴あけんのは微妙やな)


 なかなか辛辣である。

 それでもセレナは楽しそうにいろいろな服に着替える。


 千夏は薄いブルーのワンピースをもう一着に決め、店員に渡す。

「お客様、失礼ですがこちらの服にあう靴はお持ちでしょうか?」

 千夏のくたびれたサンダルを見ながら店員が質問をする。少なくてもパンツスーツにサンダルは合わなさすぎる。


「蒸れない革靴が欲しい。あと、ワンピースに似合うサンダルかな」

「かしこまりました。バックも見繕いましょうか?」

「そっちはいいよ。空間魔法つかうから手ぶらだし」

 店員は納得すると、千夏の足のサイズに合いそうな靴を並べはじめる。あまりこだわりがない千夏は、シンプルな靴を選んで清算する。


 セレナのほうはまだ決まっていない。服が決まったとしても次は靴とバックだ。

(長くなりそうだなぁ……)

 千夏はあまり女の子同士で買い物に行ったことがない。どれだけかかるか見当もつかない。正直アドバイザー役にシルフィンがいる以上千夏は必要がない。


 少しげんなりとしている千夏に気が付き、店員が奥の応接室へと案内をする。セレナの買い物が終わるまでここでゆっくりしていっていいらしい。

 千夏は出された冷たいお茶を飲みながらぼんやりと過ごすことにした。


 セレナの買い物が終わったのはそれから1時間後。シルフィンが決めなければもっとかかったに違いない。セレナは嬉しそうに新しい洋服が入った袋を抱えている。

 そろそろおやつの時間になるので、二人は洋服屋の近くにあった喫茶店へ移動した。


「うーん、バニャーナケーキとスィートフレッシュジュース」

「私はチーズケーキなの。あと、モロ茶をお願いなの」

 可愛らしいピンクのメイド服をきた店員が注文を復唱してから、店の奥に戻っていく。セレナはうっとりとメイドを見送る。


「あの服もかわいいの」

「うん、セレナに似合いそう。メイド喫茶犬耳バージョン」

 照れながらケチャップでオムライスにハートマークを描くセレナを想像して、千夏は笑う。ベタすぎる。


 買い物して、お茶するという女の子らしいことはかなり久しぶりだ。

 たまにはこんな日があってもいいかなと千夏は思った。



 その頃、アルフォンスとエドは転移で自領に戻ってきていた。エドが出した手紙はまだ着いていない。バーナム辺境伯は、突然戻ってきた息子を見て驚く。


 あれだけ旅を楽しみにしていたのだ、しばらくは帰ってこないと思っていた。

 辺境伯のその態度にゼンはまだ魔物に襲われていないことを物語っていた。アルフォンスとエドはひとまず安堵する。


「父上、お久しぶりです。早急に伝えなければならないことがあります。時間をとってください」

「わかった。マイズリー、この後の予定を別の日に移せ」

 辺境伯付の執事にそう命じると、辺境伯は執務室の応接用ソファに移動する。執事は一礼すると執務室から下がっていく。

 残ったエドが二人にお茶を入れた後、アルフォンスの背後に控える。


「しかし、ずいぶん日に焼けたな。それに逞しくもなっている」

 久しぶりに会う息子の成長に辺境伯は目を細めまぶしそうに見つめる。背もいくぶん高くなっている。

 アルフォンスは姿勢を正すと、挨拶すら惜しみ早速ミジクの街の騒動について辺境伯に説明を始めた。時折エドがアルフォンスの話を補足する。


「馬鹿な、魔物が集団で街を襲うなど……」

 小さな村への襲撃は今までいくつかはあった。ゴブリンが繁殖を求めて村を襲い、女をさらっていく。だが、ミジクほどの街へ魔物が大挙するなど、考えられない。


「王都より、周辺の警戒を強めるよう指示が出ています。そのうち使者がこちらに辿り着くでしょう」

「わかった。哨戒網を街の外まで広げよう」

 辺境伯が頷くとアルフォンスは一息ついて、お茶に手を伸ばす。

 ひとまず堅苦しい話はおしまいだ。


「しかし、オーガを倒せるようになったとは腕がだいぶ上がったのではないか?」

「まだまだです。師匠に毎日しごかれています。俺はもっと強くなりたい」

 真剣に答えるアルフォンスに辺境伯は微笑む。ずいぶんと大人になったようだ。


「どうやらよほどの師に出会えたようだな。どのような方なのだ?」

 辺境伯は、アルフォンスを変えた師に興味を抱く。

「父上、聞いて驚いてください。師は妖精です!」

 アルフォンスは胸を張り、自慢そうに答える。


「妖精?」

 訝しげに聞く父親にアルフォンスはシルフィンとの出会いから、その妖精が魔王と戦ったくだりを楽しげに話す。こういうところは全く変わっていない。ドラゴンや妖精など不思議な生物を息子は溺愛している。

 まだまだ続きそうな話を辺境伯はかぶりを振って「もう、いいと」遮るが、アルフォンスは止まらない。


 アルフォンスの後ろに立つエドが、辺境伯に向かって一礼すると、無表情でアルフォンスの後頭部をぱしんと叩く。

「痛いぞ、エド」

 全くいつもの通りの光景に辺境伯は苦笑いをする。アルフォンスの躾については昔からエドに一任している。成長しているのだか、していないのだか。


「まぁ、何とか無事に王都に行って無難に社交界デビューをしてくることだ」

「任せてください」

 胸をはり頼もしそうに答える息子を見て、辺境伯は微妙な顔で頷き、息子の後ろに控えているエドに視線を移す。

「エド、くれぐれも頼んだぞ」

「かしこまりました」


 しばらく我が家で寛いだアルフォンスは、夕食の時間になると侯爵家に転移で戻っていく。

 のんびり買い物を楽しんだ千夏達も戻っており、すでに夕飯を食べ終えたタマも食事の席につく。


 夕食の席でぽつりと一つだけ誰も座っていない席がある。誰もそのことについて触れない。唯一セレナが不思議そうにしているだけだ。


 食事の席ではアルフォンスが自領に戻り、今回の騒動についてバーナム辺境伯に報告してきたことを説明している。侯爵は頷き、こちらもジャクブルグ侯爵と連絡が取れたということを報告する。


 千夏は街から遠ざかる小さな気を感じていた。約束の期限は明日まで。どうやら不利になって逃げたようだ。想定通りの成り行きに千夏はほっとする。自分で衛兵に突き出す必要がなくなったのだ。


 しかし、アルフォンスが何も言わないことが想定外だ。

 意外と侮れないなぁと千夏は苦笑した。


夏風邪に完全にノックダウンされました。

更新滞りそうです。

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