王都に行こう
「貴族社会では16才になると社交界にデビューいたします。アルフォンス様も今年で16才。夏に開かれる王都での社交界デビューに参加されます。それで、ここから王都までの往路と復路の護衛をお二人に依頼させていただきます」
エドはモンブランみたいなケーキをテーブルにセットした後、説明をはじめた。
もぐもぐと早速ケーキを食べながら話を聞いていた千夏は疑問に思い質問する。
「なぜに冒険者が護衛を?立派な兵士がいるのに?」
「アルフォンス様の趣味です」
「うむ」
真剣な表情でアルフォンスは頷く。
「まずはその従魔と一緒にいるためですね。次に冒険にあこがれているからとでも申しましょうか……」
「ゾロゾロと従者はいらん!俺たち4人で十分だ。あ、すまん。タマを忘れていた。4人と一匹だ!」
アルフォンスはドンとテーブルをたたいて力説する。
「まぁ王都までの間はそれほど危険な道ではございませんし、社交界デビューの後は正式に領地の経営に参加することになるので、最後に羽目を外したいということでしょう」
カチャリとメガネを押し上げて淡々とエドが答える。
(あー、面倒……)
更に千夏が嫌そうな顔をしたことに気が付くと、エドはしれっと続ける。
「確かに、わがままボンのお供なぞ誰もしたがりませんが、拒否できません」
「誰が、わがままボンだ!」
アルフォンスの抗議をまたもやスルーし、エドがテーブルの上に布袋を置く。
「前金の金貨30枚です。移動手段、食事、宿泊についてはこちらでご用意いたします。王都までは通常ですと馬車で20日程度の道のりとなるでしょう。ほかに何かご要望はありますでしょうか?」
拒否できないのであれば受けるしかあるまい。ガチガチに固まってままのセレナをみて千夏は言った。
「えっと、私たちは冒険者なので兵士とは違い、身分差に慣れてないのでできれば普段通りの対応をさせてもらいたいです」
「そうですね。4人だけで移動となりますし、普段通りに振舞ってください」
「そうだ、普通の冒険依頼を受けたかんじでいいぞ。俺のことはアルフォンスと呼んでくれ」
「まぁそのうちセレナもなれるはず。ところで出発はいつなの?」
「明後日になります」
「はや!」
「冒険者気取りに早速なりたいとうおバカな子供いるものでして。「誰がバカだ!」王都には来月末までにつけば問題ありません。かなりの余裕を持った日程です。集合は明後日の朝にこちらまで来てください」
「わかった。とりあえずタマを返して」
千夏はアルフォンスからタマを奪い返すと、固まっているセレナの腕を引き、領主の館を後にした。
「山賊報酬は金貨10枚か。というと前金と合わせて一人金貨20枚ね」
宿の一階にある食堂で千夏は金貨を数え、袋にいれてセレナに渡す。落ち着いたセレナは袋を腰にぶら下げたポーチにしまい込む。
「とりあえず、あの坊ちゃんのことはジャガイモだと思えばいいよ。普通にしても問題ないって許可とってるし」
「ジャガイモ……わかったの。頑張るの」
セレナはこくんとうなづく。
「あ、おばちゃん。明後日からしばらく王都にいくから宿は明日までにして」
ミートパイを運んできた宿のおばちゃんに千夏は頼む。
「わかったよ。後でもらったお金をかえすよ」
「あ、いいよ。その代り明後日お弁当一杯作って」
「そうかい。じゃあそうするね。期待してな」
おばちゃんはそういうと奥に戻っていった。
「あとこの街を出るときはギルドに事前報告が必要なの。明日言っておいたほうがいいの」
「わかった。教えてくれてありがとう」
晩御飯をセレナと一緒に食べたあと、晩御飯を食べに行ったタマを拾いにいってさっさと寝ることにした。
次の日千夏は魔法屋を訪ねた。危険はないといわれてもいままで行ったことがないところに向かうのだ。多少は防御できる魔法を覚えておきたい。
「あれ、マーサ婆ちゃんいないの?」
店に入ってみるといつもカウンターで寝ている老婆の姿が見えず、かわりに若い女の子が座っていた。
「今ごはんを食べにいってるんですよ。あとちょっとで戻ってくると思います。なにか御用ですか?」
「魔法を買おうかなと思って。初級魔法のリスト見せてくれる?」
早速女の子がリストを取り出してくれた。
「防御魔法が欲しいのだけど、どれなのかな?」
「属性は何をお持ちですか?」
「たしか火・水・風・空間だったかな」
「それでしたら、ウィンドウォールがよろしいかと。ファイヤーウォールやウォーターウォールは場所を選びますし」
(そうですよね、また放火犯になりたくないです)
千夏はうんうんとうなづく。
「ウィンドウォールは風で防御壁を築く魔法です。初級ですと術者のまわりの空間に発生します。もしパーティ全体を守るために一時的な防御壁を作りのであれば、ウォーターウォールですかね。一番防御力が高いのは土魔法になるので、使い勝手次第ですかね……」
「じゃあ、とりあえずウォーターウォールとウィンドウォールで。あと旅に便利な魔法ってあります?」
「そうですね、生活魔法になりますがリフレッシュという魔法はお持ちですか?」
「持っていないです」
「旅でお風呂入れないときに使う魔法で体はもちろん衣類や履物等もきれいにしてくれる魔法です」
「そ……そんなものが……」
「水がないときに食器とかにも使えますよ」
「それもぜひください!」
「あとは空間魔法で収納魔法と転移魔法があります」
「あ、それは持っているのでいいです」
「ではウォーターウォールとウィンドウォールそしてリフレッシュですね。金貨5枚と銀貨8枚になります」
とりあえず千夏は先にお金を払い、老婆が帰ってくるまでの間、店の奥にある休憩室で待つように言われた。
しばらく待つと老婆が戻ってきたので、いつものように転写魔法を早速してもらう。痛む頭をさすりながら、千夏はギルドへと向かった。
ギルドに入るとたまたま居合わせたトムに千夏は捕まってしまった。
「ひどいじゃないか、約束したのに」
「あ、ごめん。すっかり忘れてた」
「あの日は師匠がこの街にいたので会わせようと思っていたんだ。来月末なら師匠はまたこっちにくるから今度こそ会ってくれ」
「来月末は私は王都だわ」
「なんだってー」
トムは頭を抱えた。
「気功術は使える人はほとんどいない。君は稀有な能力の持ち主なんだ。
本当にもったいない。あ、そうだ。王都にいくなら師匠がいるシシールを通るはず。今から紹介状を書くからぜひ寄っていってくれ」
そういうとトムは受付で紙とペンを借りると紹介状を書き始めた。
その間に千夏は明日から街を出ることをギルドに報告することにした。
「聞いているにゃ。一応指名依頼になるのでギルドで依頼受付をするにゃ。セレナはもう依頼受付終わってるにゃ。
依頼内容は王都の往復路の護衛にゃ。依頼達成料金は金貨80枚にゃ。前金はすでに払ったと聞いたにゃ。なので帰ってきたら残りの金貨50枚をギルドから支払うにゃ」
カリンに冒険者カードを渡して依頼受付をしてもらう。
その間に紹介状が書き終わったらしく、トムから一枚の封書を千夏は渡された。
「いいか、シシールで師匠のところに必ず寄れ。師匠の名前はカンドックだ。忘れるな。師匠にサポートしてもらえれば攻撃の気功術が使えるようになる」
トムに何度も念を押されて千夏はしぶしぶ頷いた。
(どうせ余裕がある旅だし。多少寄り道しても誰も文句はいわないだろうし。いや、逆にあの坊ちゃんが喜びそうかも……まぁなんとかなるさー)




