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60  よく分からないモノには手を出すな

「揺れが激しい、飛び込め!」

 ボスがミイナの手首を掴んで闇の中に飛び込む。その後を、レイを抱えたガイン、シータが続く。

 落ちる感覚は一瞬だった。すぐに尻が何かにぶつかり、ミイナは顔を顰める。

「痛たたたた……。ここは?」

 痛む尻をさすりながら、ミイナは周囲を見回した。建物の中なのだろうか。なんとなく見覚えがある気もする。

 ミイナのすぐ後に落ちてきたレイが、気づいて声を上げる。

「暴風遺跡だ!」

「え?」

 ミイナは首を傾げてレイを見た。

 レイがミイナの後方を指さす。

「ほら、ミイナが砕いた玉が乗っていた台座がある」

 振り向くと、確かに暴風遺跡で見た台座があり、床には玉の残骸がちらばっていた。

「本当だ……。じゃあ……」

 出口があるはずだ。

 勇者の子孫達は、以前来た時の記憶を頼りに出口へと急ぐ。

「――あった、出口!」

 古代文字の書いてある壁を押し、外へと出る。

「やった!」

 爽やかな風が、勇者の子孫達の頬を撫でる。

 戻ってきたのだ、生きて。

 勇者の子孫達の顔に笑みが浮かぶ。

「ねえ、これからどうする?」

 ミイナが皆に訊く。

「お腹空いたぁ」

 シータが腹をさする。それを無視し、ボスが言った。

「セインが気になるな」

 ガインが頷く。

「では、セインに行くか」

 レイが杖を掲げた。

「ビュン!」

 移動魔法で一瞬にしてセインに戻った勇者の子孫達は、偶然にも外に立っていたセイン王の目の前に現れた。

「おお、驚いた!」

 王が驚き飛びあがる。

「王様!」

「ミイナ! 無事だったか。……レイはなんで全裸なんじゃ?」

 レイは困った表情で前を押さえた。氷結化獣に変身した時に、装備は破れてしまっていたので、魔王の城からレイはずっと全裸だった。

「魔王、倒したよ」

「おお? そうなのか! よくやった、勇者の子孫達よ!」

 魔王の脅威が去ったことを聞き、セインの王が満面の笑みを浮かべる。

「そうかそうか。きっと倒してくれると信じておったぞ」

「もう、王様ったら調子がいいんだから……。ところで、もうお城を建て直してるの?」

 城があったところには足場が組まれ、大勢の男達が忙しなく働いていた。

「ソビ国が援助してくれたからの」

 王は、城の工事の進み具合を見ていたところらしい。

「ソビ? じゃあ構成員達が――」

 ミイナが言いかけた時、遠くからものすごい勢いで走って来る人物が見えた。

「あ、あれ、ボスの側近の……誰だっけ?」

「ブラインだ」

 ボスが言い、「ああ、そうだった」とミイナは頷く。

 ブラインは全力疾走でボスの前まで来ると、肩で息をしながら潤んだ瞳でボスを見つめた。

「王――」

 何か言いかけたブラインに、ボスが一瞬だけ目を眇める。

「――ではなくて、ボス! 良かったご無事で! 本当に良かった……!」

 ボスが頷き、ブラインが目元をそっと抑える。

 ミイナは首を傾げてボスを見上げた。

「おう……? 『おう』って何?」

「魔王は倒した。状況報告と、それからレイに服を用意しろ」

 ミイナの疑問を無視し、ボスはブラインに命じる。

 はい、と返事をして、ブラインがとりあえずレイの服を準備しようとした時、

「魔物だ!」

 叫び声が聞こえた。

「え!?」

 ミイナが驚いて声のした方を見る。

 王がのんびりとした声で言った。

「魔王を倒しても、世界には魔物がまだたくさんいるからの。その魔物共を退治せねばならんの」

「そんな……。まだ働けと?」

 王がひゃっひゃっと笑う。

「まあ良い。今日はゆっくり休め。支援に来ているソビの者達が倒してくれるじゃろう」

 ミイナはほっと息を吐いた。

「良かった。それじゃあ……、え? あれ?」

 ミイナが首を傾げる。突然、体が重く感じた。

「なんか……動かない……?」

 ミイナが地面に膝を付き、更に顔面から倒れ込む。打ち付けた痛みに顔を顰めるミイナの目の前で、他の勇者の子孫達も跪いて苦しげな表情をしていた。

「お、重いぃ……」

「なんだこれは」

「う……、げほっ」

 レイが白目を剥いて動かなくなる。

 ボスが舌打ちをした。

「これは……! やはりあの白い物体は、禁止薬物と同じものだったのか。くそっ、食べるんじゃなかった」

 魔王城の休憩室で食べた白い物体。あれはザイシャの薬と同じで危険なものだったようだ。

「そんな……! カンチ、カンチシロ! ……嘘、変わらない!?」

 回復魔法を掛けても、体は重いままだ。

 王とブラインの慌てた声がする。

 勇者の子孫達の体は石のように重くなり、指一本動かすことが出来なくなった。


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