56 女子は光り物が好き
「魔物の群れだ!」
「トウガラシオの激辛汁に気をつけて。――ライウ!」
「カンチ! ボス、戦ってよ!」
「やってはいる」
魔物を引き千切り、メッタ刺し、勇者の子孫達は魔王の城に向かって進んで行く。
「カンチダ!」
襲ってきた魔物をすべて倒し、ミイナはほっと息を吐く。
「やったぁ、調味料を手に入れたぁ。あ、この魔物の頭に咲いてる花、レシピ本に書いてあった花だぁ」
魔物の死骸から調味料や食材を確保し、シータは笑みを浮かべる。
「ご飯にするぅ?」
「そうだな。休憩にしよう」
シータは花を肉に散らして揉みこみ、フライパンで煮込み始める。
「レシピ本に書いてあること、暗記してるの?」
何の迷いもなく調理するシータにミイナが訊く。
「うん。おいら食に関する記憶はいいからぁ。それにしても、あのレシピ本に書いてあった食材がこの島で結構見つかっているのは偶然かなぁ?」
「うーん、どうなんだろ?」
分からない、とミイナは首を振る。
「レイ、大丈夫か?」
禁魔法を使った影響がいまだ残るレイに、ガインが訊く。
「スープも作るからねぇ」
気遣ってくれる仲間に、レイが微笑む。
「ありがとう」
周囲の偵察をしに行ったボスがすぐに戻ってきて、ミイナに言う。
「小娘、すぐそこに綺麗な湖があったぞ」
「本当? 行く!」
ボスに付いて行くと、目の前に濃い青色をした湖が現れた。
「ああ! 本当だ。嘘みたいに綺麗……」
「見張っていてやるから、水浴びをしたらどうだ?」
「うん!」
ボスが背中を向け、ミイナが服を脱いで湖へと入っていく。
「気持ちいい! でも着替えが欲しいな……。まあ仕方ないか」
湖の中心に向かって泳ぎ、少しだけ潜る。
「……ん?」
水面に顔を出し、ミイナは首を傾げた。湖の底の方で、キラッと光るものがあったような気がしたからだ。
「……何だろう?」
辿り着けるかは分からないが、気になったミイナは思いきり息を吸い込んで、勢いよく潜ってみた。
「…………!」
息が苦しい。それでもなんとか手を伸ばし、光るものを掴んで水面へと上昇する。
「う……げほっ。はあ……」
荒い息を繰り返しながら、ミイナは手の中のものを確かめた。
「これ……腕輪?」
細かい細工が施された腕輪をミイナは見つめる。
「綺麗……。でも何でこんな所に? うーん……、わ!」
腕輪に見とれて足を止めてしまい、一瞬体が沈む。慌てて足を動かしたが、ミイナの悲鳴を聞いたボスが訝しげに振り向く。
「どうした?」
「こっち見るな、バカ!」
思わず投げつけた腕輪は、ボスの足元に転がった。
「……これは?」
魔物が出たわけではないことを確認し、足元の腕輪を拾って再びミイナに背を向けながらボスが訊く。
「湖の中に落ちてた」
湖から上がって素早く防具を身につけたミイナは、ボスの手から腕輪を奪った。
「落ちていた?」
「うん」
「湖の中に、か?」
「そう」
ミイナは右手に持った腕輪を、躊躇なく左手首にはめる。
そのミイナの行動に、ボスが眉を寄せた。
「おい、そんなに簡単に装備して大丈夫なのか?」
レイに見てもらってからの方が良かったのでは、と言うボスに、ミイナはあっさり告げる。
「呪われてる感じはしないから大丈夫。 ――たぶん」
ミイナは腕輪をはめた手を高く挙げる。銀色の腕輪は太陽の光を反射して美しく輝く。
「素敵。私、こんな腕輪欲しかったんだ」
「ああそうか。帰るぞ」
腕輪に害が無さそうなことを確認し、ボスが歩き出す。
離れた場所から聞こえる、「ごはん出来たよぅ!」という声に返事をし、ミイナも歩き出した。




