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42  ヨシコ攻略日記

 勇者の子孫達は、とりあえず馬車で世界の南東方向にある暴風遺跡に向かっていた。

「うげぇ!」

「だーかーら! 馬車の中で攻略日記を読むから酔うんでしょ? カンチ!」

 馬車酔いしたレイに、ミイナが回復魔法を掛ける。

 青い顔をして胸を押さえ、レイがミイナに礼を言った。

「ありがとう……」

 ボスが眉を寄せてレイに訊く。

「まだ他の情報は見付からないのか?」

「ヨシコさんが人妻だと判明したよ……」

「……誰だ、それは?」

 レイは攻略日記を閉じて、深く息を吐いた。

 ミイナが小さく唸って首を傾げる。

「聖なる存在って、そもそもなんなの? 聖なる欠片は骸骨だし……。あの骸骨が聖なる存在だったとか? 既に骨じゃ、どうにもならないじゃない」

 レイは、分からないと言うように緩く首を振った。

「世界を救ったにしては、勇者に関する記録が少なすぎるんだ」

 うーん、とミイナが顎に指を当てる。

「そうかも」

「もっと記録が残っていてもいいと思うんだけど……」

 ねえ、とミイナがレイを見上げる。

「……もう聖なる欠片を探しても、無駄じゃないの?」

 レイがもう一度首を横に振る。ミイナが唇を尖らせた。

「あーあ、もう魔王退治なんてやめちゃう? ソビ国辺りで面白おかしく暮らそうか?」

 そのミイナの発言に、ボスが鼻を鳴らす。

「ソビはやめておけ。目的を達成できなかった者に、ソビの女王は容赦がない」

 ミイナが「えー?」と不満げな声を上げる。

「文句があるなら、ソビの女王様が魔王を退治すればいいじゃない。正解かどうかも分からない骨探しなんてもうやめない?」

「他に手がかりが無いのなら仕方がないだろう。文句ばかり言うな、小娘」

 ぴしゃりと言われて、ミイナが頬を膨らませる。

 レイが苦笑してミイナの頭を撫でた。

「そろそろお昼だね。お腹空いたかい、ミイナ」

 ミイナが頷く。

「そういえば……うん、お腹空いた」

 それまで黙って菓子を頬張っていたシータが同意する。

「お腹すいたぁ」

「食べながら『お腹空いた』って……」

 レイが御者席のガインに声を掛ける。

「ガイン、馬車を止めてご飯にしよう」

 御者席から返事が聞こえ、馬車がゆっくりと止まる。

 勇者の子孫達はそこで昼食の準備をし始めた。

「シータ、今日のお昼ご飯はなに?」

「スープとぉ、パンとぉ……」

「枯れ枝を集めに行く」

「そろそろ水も欲しいな」

 勇者の子孫達が、慣れた様子でそれぞれ動き出す。

 ボスが集めた枯れ枝にレイが火を点け、シータが料理をし始める。ガインは近くの川から水を汲んで帰って来た。

「レイも以前よりは、ちょっとだけ食べるようになってきたよね」

 シータの手元をじっと見つめながらミイナが言い、攻略日記の解読を進めていたレイが顔を上げて微笑む。

「シータの料理が美味しいからね」

 シータが振り向き、白い歯をむき出して笑った。

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。よーし、頑張って作るぞぉ」

 そうしてシータが作った料理が並び、勇者の子孫達は食事を始めた。

「そういえばぁ、そろそろ食料が尽きるよぉ」

「え! もう? シータ食べ過ぎ!」

「ここら辺で、美味しそうな魔物は現れないかなぁ?」

 ガインが肉を口に運びながらレイに訊く。

「暴風遺跡はこの方角で間違っていないのだな?」

「うん、たぶん。数日中には着くと思うよ」

 ガインが頷き、今度はボスがレイに訊く。

「暴風遺跡がどんな場所か、何か情報はあったか?」

 レイが首を横に振る。

「ヨシコさんの旦那にばれて、追いかけまわされたことくらいしか書いていなかった」

「だから、誰だそれは?」

 スープを啜り、レイは暴風遺跡があるであろう方角を見つめる。

「暴風、というくらいだから風が強いのだろうね」

「まあ、そうだろう」

 ボスが、それは当然だと鼻を鳴らす。

 ミイナが溜息を吐いた。

「せっかく髪を綺麗にセットしても、風が強かったらすぐにグシャグシャになるじゃない」

「文句ばかり言うな、小娘」

 シータが頷く。

「そうだよぅ。レイなんてぇ……」

 レイが小さく肩を揺らして項垂れ、その頭に皆の視線が集中した。

 ガインが無言でレイの背を二度叩く。

「食べたら行くぞ」

「はーい」

「分かったよぅ」

 勇者の子孫達は素早く目の前の料理を食べると、再び馬車に乗って暴風遺跡へと向かった。



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